新潮新人賞応募作品原形「メモ」アンソロジー
ToKi
#1
植田は千葉駅から姉ヶ崎駅まで行く電車に席を陣取りさっき買ったドトールのミラノサンドAを半分食べ始めた。快速でなく各駅停車だから20分近く停車したまま。缶のおしるこを飲んでいる男がエレベーターに乗って3・4番フォームに降りてきた。音ひとつ出ないような動き。マイケル・ジャクソンのダンスかよと植田は思った。滑らかな動きで植田の右斜め前に座って銚子行きの電車に乗り込む人々を眺め始めた。こういう場合は大抵目が合うものだが、男とはそうならない。でもそのうち、と思って暫く男の方を見ていたが、自分がしていることが明らかに馬鹿っぽくて、まあなあ、気づかれてないだろうと残りのミラノサンドをリュックに入れた。男も見られていたことには気が付いておらず、おしるこを飲む手を膝に置いて向かいのフォームを見ている。植田も男が見ている方を振り向くと、薄いピーチ色の長髪の若い女性が階段から降りてくるのが見えた。彼女は銚子行きには乗らずに二人の方に背を向けて椅子に腰かけた。植田がふーん、と思っていると、男がゴクゴクと音をたてて残りのおしるこを流し込んで、今度は滑らかには動かずパキパキと音をたてて歩き出し、空になった缶をゴミ箱に捨てて戻って来た。植田は驚いて隣に座った女子高生の方を一瞥した。彼は男のことを「美味しんぼ」の海原雄山みたいだと感じた。隣の女子高生が栗田ゆう子だ!海原雄山と栗田ゆう子が云々とツイートしてスマホを閉じたが、なんだか恥ずかしくなって直ぐにツイートを消してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます