第31話 頂点義定譲渡契約書(3)


 時間は稼いだ。どうする?この決断?? 気に掛かるのは、俺の窮地を度々救った、このざわめきが、確かにあることだ。予感は、契約拒否を指し示している。しかし、契約の対価は余りに魅力的だ。悩む、アーリ。


 断るにしても、どう断る? 断る理由が無い。


 意気揚々としていたアーリの状況が慎重さを孕んで居るのを見たガーは、不味い流れだと思った。


 この天使を抱き込んで、エリから引き離し、ここに住まわせる計画が頓挫することになってしまう。森に迷った天使などという、この様な降って湧いたチャンス、手放す訳には行かない。


 不正を嫌うユリに知られることはリスクになるが、ここでのことは森の中の出来事である。天使殿には、私の術をご覧頂く。


 ガーは、隣の取り巻きの女性に目配せをすると、アーリの傍の取り巻き女性にガーの意志を知らせる。アーリは、断る理由に高速に頭を巡らせながら、その舌は意地汚く取り巻き女性の顔や体を舐め回していた。


 自分の閃きに自信のあるアーリは断ろうとする。


 折角のチャンスでしたが、天使とリトルゴッド間の契約は、尊主ヤー様のご理解を得られるとも思いませんので、お断りしようと思います。


 実際は、そんな決めは無かったが、アーリは自身の閃きを信じ、逃げに走った。


 しかし、ガーも逃がしはしない。


 あら、まだ時間はありますよ。そんなに急いで決めなくても、ここの美酒を美女たちと楽しみながら、ゆっくり確認してからで、良いでしょう?


 弱々しい抵抗をするアーリを快楽の沼地に引きずり込むのは、ガーに取ってお手の物だった。


 そして、アーリは、虚ろな思考で契約の判をする。


 これで契約の反故は、出来ませんことよ。取得に備えて収入印紙も貼って置いて下さいましね。額が額だから、今は払えないと言うなら、借り金ですね。


 ガーは、落とすべきところに、対象を落としたと、満足気な笑みを見せた。


 なお、借り金とは、借金(しゃっきん)であり、負債(ふさい)のことである。素面(しらふ)に戻ったアーリは蒼白になる。


 アーリは、何故? 何故、契約をしている?断るつもりだったろ?、と。焦燥と苦悶の滝汗をかき、深い自問と後悔に落とされたのだった。

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