第20話 T字路上の悪魔(4)
ぼっちゃん、有益な情報ありがとう。悪者は、あっしが必ず捕まえますからね。安心して、つかあさい。では、あっしは先を急ぎますので!
アーリは、蝙蝠の羽根をはばたかせ、毒沼のある森の方に羽ばたいて行った。
飛び去るアーリに向かい、ユリが餞別としての言葉を向けた。
あ、おじさん、毒沼に着いたら、森の灯台とも言われる大きな岩があるから、その近くを探すと、色々とお宝があるよ。大岩には、明けの明星と呼ばれる大きなオレンジダイヤモンドが付いててね、何時でも日の光を拡散して、周りを照らしてる。それの様は、とても綺麗なんだよ。目印になるから、方角が分からない時は、当てにすると良いよ。そして、沼のカーから教わった宝のある洞窟の近道である、秘密の通り道を教えてやった。
ユリは、欲深な者には、てきめんな罠をしかける。これは宝を狙う者を誘き寄せる、森に仕掛けられた自然の罠であった。ユリも危うく引っかかりそうになったことがあるが、ユリを愛する親切な毒沼が、丁寧に近道と罠の回避方法を教えてくれていたのだった。つまり、それは見ても近づくな、だ。ユリは、思った。近づいたら、どうなるんだろうと。蜂かな?獣かな? そう思うとワクワクが止まらなかった。ボクは知らないからね。
そして、これが、ユリの悪戯心の真骨頂である『責任不在』なのであった。嘘八百とまでは言わないが、かなり大概で良い加減な情報である。それはつまり、それは嘘なのでなく、責任不在なのだった。
その岩の虚(うろ)には、大きな蜂や獣の巣や財宝があり、ユリは何も知らないアーリに対し、好奇心の罠を仕掛けたのだ。それを手に入れる者は、莫大な財産と力を得ることが出来るだろう。しかし、毒沼の森の生物群は複雑な構成になっており、それをさせない作りにもなっていた。それは、1日ではとても理解が出来るものではない。毒沼は、ユリに来て欲しい一心で、森の構成を事細かに教えてくれていたのだった。そして、面白そうなのに、近づけない。そこにはユリなりのジレンマが存在していたのだった。それに、始めての親友とも言えるラーハムを追い詰める敵を懲らしめる、ユリなりの攻撃の意思でもあった。
ユリ様、エリ様がお待ちです。ユリ様、規定時刻を過ぎております。お急ぎ下さい。傀儡の示唆にも、悪戯の結果が知りたくて、ユリは、歩を進め難く思っていた。
行ったかな? ユリは、周囲をキョロキョロと見回す。ユリには、アーリがどこに居るのかは、分からなかった。
異変が無いので諦めて歩を進めようとした時、少しして沼のある方から、叫び声が聞こえた。
あぎゃあああ!
突如、素っ頓狂な叫び声が森から聞こえた。ユリは、察した。さっきの人だ。あそこに着いたな。クスクス。引っ掛かったみたい。別に死ぬわけじゃなさそう。ユリは、長年のジレンマの解消と計画が上手くいって、ご満悦だ。
毒沼の森の構成は、複雑だ。甘く滋養のある蜂蜜を作る蜜蜂の巣の周りには、その蜂を襲う蜂が居り、またその襲う蜂から蜜蜂を守る殊更強い蜂が居ると言った感じだ。
ボクは、襲われたことないけど、確かに不注意だとあそこは危険だよね。などと、納得した。これでアーリが居ないことは確認が取れたので、ユリは、安心して母親の待つ方へ歩を進めた。何歩か歩いて、ふと思った。あの人の名前、聞いとけば、良かったな、と。
ま、ボクも名前を言ってないし、向こうも聞いて来なかったしな、とも思った。
ユリは、サバサバとして、家路を急いだ。
だが、ユリは、まだ知らなかった。この時ついた嘘が、アーリとの覆せない敵対関係を招き、そして、この悪魔の暗躍が、悲劇の闇をもたらす、穴を導くことになるのだった。
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