第19話 T字路上の悪魔(3)

 ユリは、心の中で思う。


 (犯人逮捕なら協力したいが、でも、傷ついた白い羽根の天使って、ラーハムのことじゃないか。ラーハムは言ってたな。天使軍は、特別な追討軍を編成して攻めてくるって。この、おじさんは、先見部隊と言う奴かな? バレない様に振る舞えるかな? でも、この、おじさん、視線がキツいんだよな。バレると怖いなあ)


 などと、ユリは一人で逡巡する。


 考え塞ぎ込むユリを見て、アーリは、善意の第三者と見なすユリから、情報を得ようと、あれこれと吹き込む。


 見た目が綺麗だからって、騙されちゃ行けませんよ。あれは、ほんとに心のネジ曲がった奴なんですから。英雄だなんて、一時は持ち上げられてたクセに、先輩の地位を欲しがって、先輩を虐殺してしまう様な奴なんですよ。許せませんよね。貴方は、そんな奴を許せます?


 再び、アーリの鋭い視線が飛ぶ。


 え!?あ、本当にそんな酷い人なら許せませんね。他人の物を欲しがっちゃ駄目ですよね。


 しどろもどろになりながら、ユリは、それだけを答えた。


 ユリは、バレやしないかとドギマギしてしたが、アーリのご満悦には触れたらしく、そうでしょう、そうでしょう!と、アーリは、ご満悦に浸っている。バレてないかな?とユリが安心した刹那、アーリは、直球を、ぶつけてくる。


 ぼっちゃん、居場所をご存知でしょう?


 アーリのギョロ目が光る。ユリは、臆病である。母の躾で嘘をつくことにも免疫がない。しかし、ラーハムは、ボクに元気をくれる。今は、ボクがラーハムを守るんだ! その気持ちが、ユリに嘘をつかせた。


 でも、嘘なんてボクには吐けない。それに、吐いたこともないから、吐いたところでバレてしまう。この人の目線は、厳しいもの。ボクに世間は分からないけど、それだけは分かる。ボクにこの人は騙せない。困ったぞ。何かヒントは・・・。


 そう頭を巡らせるユリの脳裏に、今居る場所が、良く抜け出して通い詰めた毒沼の近くのT字路だと言うことに気がついた。その瞬間、ユリの心に悪戯心が芽生えた。


 ユリの性癖として、好奇心と悪戯心は、抗し難く存在した。ユリは、思い付いた様に手を打った。


 そうだ!羽根が1枚の傷だらけの天使らしき影が、ヨタヨタと森の方に逃げ込んで来るのを見ましたよ! そんな悪者だとは思わなかったから、気に止めてなかったけど、警察さんの仕事だったかな。知らせるのを怠りました。でも、おじさんに伝えたから、怒られたりしないよね?


 険しい訝り顔であったアーリの顔に光が宿る。


 怒られたりするもんですか! 大金星ですよ! 


 そして、沈鬱に支配されていたアーリの目に目に活力が漲るって行く。


 (捕まえたぞ、ラー・ハーム。お前の罪の断罪者は、俺こそが相応しい。そう思うだろう?)


 この時のアーリの目には、青白い炎が燃え盛っていた。しかし、数瞬の後、アーリは、打って変わって、にこやかな表情となって、穏やかにユリに語りかけた。


 

 



 

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