第15話 マピー(1)

 病み上がりと言って良いラーハムの前に完璧に敗れ去ったパピィは、膝を屈して立ち上がれずに居た。


 どうした? パピィさん、天使は待ってくれないぞ。今も奴等の追討軍は、俺を目指してやって来ているはず。この場所の豊かさと平穏を守ってやるためには、さらなる回復が必要だ。お願いだ、立ち上がってくれ。もう1本、行くぞ。


 しかし、パピィは異を唱える。


 幾ら私とでは訓練を積もうとも、ご期待には添いかねると存じます。やはり、通常通りの休息こそが、お力の回復の近道では、ございませんか?


 お前は知らぬのだ、天使とは、計り知れない力を持った者たちなのだ。そして、その思考すら、もはや常軌を逸してしまった。奴等から、俺一人が逃げ切るだけなら、造作もないところまで回復していると自負している。しかし、俺は、この土地、ユリの居る場所の平和とこの土地が与えてくれた恩義に殉じる覚悟を決めた。それは即ち、お前の主、エリ様に対する忠誠でもある。我と我が身は、エリ様に捧げると言っても、お前は動いてくれぬのか?


 ラーハムは、膝を折って、パピィと目の高さを合わせると、蹲(うずくま)るパピィに向けて、そう言った。


 ラーハム様・・・。そこまで・・・。


 パピィが、そう感動に打ちひしがれながら、それだけ呟いた時、明らかな怒気が二人を包み込んだ。


 お兄(あに)さまから、離れろ!


 突如の斬撃による爆発。土煙が去った後に現れたのは、燃える目をしたマピーだった。マピーは、エリの作ったパピィと対の傀儡である。パピィとマピーは、非常に仲の良い設定で作ったので、マピーは、極度のブラコンに出来上がってしまった。ブラコン、それはブラザーコンプレックスのことであり、時に愛すら伴うと言われている。


 マピー! 止めるんだ! この方に対する攻撃は、私への攻撃と見なさざるを得ない。今は引け! 私からも説明することこある!


 矢継ぎ早の展開に、パピィも焦り気味に妹を説得しようと試みる。しかし、マピーの目の色は変わることはない。


そんなパピィにラーハムが、手で制する。やらせよう、と言う意味だった。


 ほう、君の兄さんは、へこたれて立ち上がれないそうだから、君が代役を買って出るってことかな?


 ほざけ! お兄(あに)さまを愚弄するな!!


 マピーは、左手に持った鞭をラーハムに対して、振り下ろす。鞭の攻撃は、常人が振ってさえ音速を越える。


 ラーハムは、横跳びに躱すと、相手の左手方向に位置を取り直す。左手に持った鞭は、左方向は振り憎いからだ。


 こしゃくな!


 マピーは、身体の方向をラーハムに合わせ、鞭の連撃を加える。地面に蛇が、のた打ったような痕跡が残る。


 ラーハムは、華麗に回避を続ける。ならば!とマピーは言うと、距離を詰め、右手に持ったレイピア(細手の剣、攻撃速度に優れる)でラーハムの胸を刺し貫こうとする。


 ラーハムの胸をマピーの剣が刺し貫いたかと、その場に居た者たちが思った瞬間、ラーハムは体を光へと変化させて、攻撃を躱し、マピーの背後へと回った。


 ここだよ。


 マピーの背後で、ラーハムは囁いた。


 マピーは、ラーハムの動きに、恐れを覚え、体の向きを変え、自身を後方へと下げた。

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