第12話 片翼の天使(片翼の喪失)

 アーリは、英雄を殺す手段を周到に練り上げる。アーリの強み。それはラー・ハームの事を誰よりも知っていることだ。その好むところ、厭うところを知れば、思った位置に対象を導くのは容易だとアーリは言う。


 一人の行動を制御することは、通常困難なはずだ。それだけによらず、社会のもたらす不意のアクシデント、個人としての変節など個人にはあり、不特定なものだ。


 しかし、悪魔は重ねて言う。不特定は不特定ゆえに不特定なのだと。意志の継続には敵わない。


 アーリは、断言する。一人の行動を決めるのは、個人の性向だと。


 アーリの読み切った性向に導かれる様に、ラー・ハームは予定された位置に登場する。周囲を警戒するラー・ハームの前に現れたのは、天使に擬態したアーリだった。訝るラー・ハーム。アーリの今の身の上を案じ、また追われる身となった自分を反省するラー・ハーム。


 しかし、まさか刺客が悪魔に身を落としたアーリだとは思いが及んで居らず、激しい罵りと共に擬態を解くアーリ。ショックを隠せないラー・ハーム。


 アーリの立て続けの罵りは、ラー・ハームを、更に精神的に追い詰める。すかさず、物理的な追っ手にも攻撃を命じるアーリ。追っ手は、その下知に従い攻撃を仕掛けた。いずれも腕に覚えのある戦士である。ラー・ハームも、その腕の冴えに、堪らず追い立てられる。


 逃げ出した先は隘路に通じており、ラー・ハームは、図られ、危険な隘路に導かれる。隘路には、巨大な機械が仕掛けられており、同じく巨大な刃が仕掛けられていた。この巨大な機械も巨大な刃もアーリが手配して、しつけた物である。


 逃げようの無い隘路で振り下ろされた巨大な刃は、如何に手練のラー・ハームと言っても、両断される絶妙な位置に据え付けられていた。しかし、ラー・ハームは、異端的な逃げ道を探し出す。翼を1枚犠牲にすることで、体の退避場所を確保したのだ。


 愕然とするアーリ! そんな方法が、あろうとは。悔しくて、歯噛みするが、流石と褒めたくなる心情。殺し甲斐がある。


 ボロボロになりつつも、霧に姿を隠して逃げ延びたラー・ハーム。高壁と思われる前で、ラー・ハームは、覚悟をし、そこで意識を失った。高壁の手前で天使を見つけたのは、ヌーだった。ヌーは、何事か思いつき、ユリの前に天使を差し出して消えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る