第11話 片翼の天使(悪魔の誕生2)

 完璧な天使の元で、今までにも増した激しい訓練が開始された。それはアーリにとって、特に過酷なものとなった。訓練メニューは、既に手練の資格を持つラー・ハーム基準のものだったからだ。たから、その頃の記憶は、アーリに取っては、思い返したくない苦い記憶となっているものである。


 二人は完璧の指示の元研鑽を積み、時には仕事も熟した。二人と師匠は、高い評価を受けて行った。


 二度目の大遠征にアーリも誘われて、ラー・ハームと呼ばれる天使と共に、師の軍に参加した。


 今度の遠征は、変節者群れの討伐であった。無学な不信心者と違い、変節者はヤーの偉力は知っている。それでもなお、変節した者たちだ。手強い。


 この戦いで、ラー・ハームは、ラー・ハームとなった。多くの同胞を救ったのだ。誉れあれ、ラー・ハーム。永遠に生きよ、ラー・ハーム。讃歌の声が木霊した。


 そんなラー・ハームを誇りに思うアーリに、変節の時が迫っていた。ラー・ハームが、師であり、上司であるスターマを殺害したと言うのだ。


 この時、アーリは、暗殺の小仕事を頼まれ、神ヤーの合法を汚す非合法天使に粛清を加えに出かけていた。


 神ヤーの清浄に貢献した帰り、聞き捨て成らないデマを聞く。ラー・ハームが、師匠でもある大天使長のスターマを殺害したらしいと。大天使長の地位を狙っての犯行だとの尾ひれも付いていた。


 驚愕が、アーリを打ちのめした。信じられない、信じたくない、そんな思いで暮らすアーリ。アーリは、恐怖の中に居た。それが真実であることなど有り得るだろうか? 長い時を開け、どうやら真実らしい、とことの次第が見えた時、アーリは、悲哀に沈み、憤怒に燃え、激しい怨念に沈み、悪魔に魂を売った。


 サタンよ! 我が魂を貴方に捧げる! 悪魔の力を我に授け給え!


 アーリは、血の涙を流し、悪魔の王サタンに忠誠を誓った。


 願いは聞き遂げられ、どこからともない声は答えた。


 良かろう、これからは、アーリ、美しいもの、と名乗るが良い。


 悪魔は、その激しい恨みこそ、好餌とするのだ。アーリは、ラー・ハームと呼ばれた天使を殺す為に、力を欲したのだ。力が足らなかった。力が欲しい。自分の持つ宝を捨ててでも、力を得よう。昔には戻れない。いや、戻らない。そんな決意の果ての変節だった。アーリが捨てたもの。それはラー・ハームと紡いだ善良な記憶である。


 アーリは、痛みと共に黒変した体と蝙蝠の翼、獣の爪を得た。そして、サタンの下僕となったのだった。

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