第6話 傷ついた天使(命名編)
天使の傷は、一向に治る気配が無かった。無くした片翼は、言うまでも無く、深刻なのは心の方だった。思考することを拒否する痴呆者の様になっていた。
天界は、エリの介護に疑惑を向けた。天使は一応、貴賓である。貴賓に対して、応対が充分で無いことなどあってはならぬことなのだ。エリを頭とする対応チームも重点作業が割り当てられた。
天使への接近を禁じられたユリだったが、ユリの好奇心が長く、その思いを抑えることなど出来るわけもなかった。恵まれた行動力で傀儡たちの目を掻い潜ると、天使の元に向かった。
天使は車椅子に腰掛けていた。傷だらけだった体は修復され、血塗れの体は洗浄されていた。だが、心は傷ついたままだった。何処を見るでなく、ぼうと宙を見上げている。
元気出ないの? ユリは天使に語りかけた。屍とも見えていた天使が、ゆるりと動き答えた。また、来たのか・・・、前は済まなかったな、悪かった。と天使は言った。何が? ユリはキョトンとして、これに答えた。また、これを思い出すのか、だが、丁寧にここはすべきところ。前の轍を踏むわけには行かぬ。丁寧に説明を試みる。
お前が初めて俺に語りかけてきた時、俺はお前に酷い言葉を投げ掛けただろう。あれは済まないことを言ったと、反省している。ごめんなさい。
突然の天使の謝罪にユリは、あははwと笑って、そんなことか、ボクは執事のパピィやマミーに小言を良く言われてるよ。そんなことで挫けやしないよ。ユリは、胸を張ってみせた。
胸を張り、笑顔を見せるユリを見ていると、自分の器量の狭さを見透かされている気持ちに天使はなった。
天使さん、名前は、なんて言うの? ユリは聞きたかったことの1つを天使に聞いた。
ラー・ハームだ。下級戦士である自分の名前など、出席点呼と帰還の点呼でしか使われないと思っていたからだ。用があれば、そこのお前、で間に合う世界。ラー・ハームに取って、個人を特定する名前の使用は、初めてのことだった。感謝した。
ラムハム? ラアーハム? ラーハーアム? 難しいね。ユリは頭を抱えた。天使の言語は、難しいのだ。
アハハw なら、お前が呼びたいように呼んでくれれば良い。今日から、それが俺の名前だ。
ほんとに、それで良いの? ユリの問いに天使は、頷いた。そんな天使を見つめるユリは、天使の目の力強さに本気を見て、笑顔になり、真顔に戻って、考えた。
ラーハム! ラーハムが良いよ! ユリは自信と笑顔を満面に表して、そう叫んだ。
分かった。そう言って、ラーハムも笑顔を返した。2人して、笑顔を返し合った。
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