第5話 傷ついた天使(苦悔編)

 天使は傷ついていた。酷く傷んでいた。そんな天使が、ユリを強く惹きつけた。助けて上げたいと強く願った。しかし、自分には、そんな力はまだ、無かった。悲しかった。だから、エリや侍従たちに、ここに近づいては成らないと苦言を言われ続けても、足繁くチラチラと覗くように通った。


 そんな様子に天使も気がついていた。でも、この頃の天使には、そんなことは、どうでも良いことだった。世話になった富豪の家の子が客人が、気になって様子を見て居る程度の認識だった。


 天使には自分のことで精一杯だったから。天使に突き付けられた、罪と罰、裏切り、それし、正義は崩壊していたのだ。悪夢はフラッシュバックし、天使を苛んだ。天使の軍は、悪魔の軍と化していた。そして、気が付けば、自分も、その行為に加担していたのだ。反吐が出た。自分の行為に反吐が出たのだ。誰よりも異端者を成敗した者と言われ賞賛された華々しい記憶も、今や禍々しいもとなった。華々しい記憶、それは禍々しい自分の過去を映し出す過去の映像の様に思われた。反吐が出た。


 なんで泣いているの? ユリは、天使に語りかけた。いつもより近くにユリの顔が見えた。光を纏う、その顔が眩しく見えた。何の汚れもない心が見えた。今の天使には眩しいほどだった。神と女神に守られて、何の不足なく行きてきたのだろう。自分とは生まれから違い過ぎる。言っても理解は出来まい。そう思うと、急にユリが憎らしく思えた。


 ここには来るな、と言われているだろう。去れ! そう強く、天使は言った。


 ごめんなさい、とユリは答えてその場を辞した。そして、帰り際、元気を出してねと言葉を残した。


 その親切から紡ぎ出された言葉は、天使の心を揺るがした。


 自分の酷い扱いに、優しさを向けたユリの優しさに自分の心の荒み具合を指摘されている気がしたからた。天使は、自身の情けなさに涙した。傷つけてはならぬものを、また傷つけたのだ。天使は自らの業の深さを思い知ったのだった。

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