第4社 進路決定

 満開の桜で彩られた深夜の嵐山・渡月橋。静かなその場所に斬撃音が響き渡った。橋の上には人ではない奇妙な異形が十数体。そのどれもが黒い靄のような瘴気を放っている。

 

 と、その中に1人の少女がいた。顔は見えないが、赤毛の混じった明るい茶色の髪が赤いリボンで止められており、桜と紅葉の柄の入った肩出しタイプの着物に紺の袴を纏っている。両手には赤い柄の日本刀が握られており、下の方に構えていた。

 

 すると、異形が飛びかかってきた。少女は横に身を翻し、異形を両断。地面を蹴って、橋の欄干に足をかけて宙返り。着地と同時に前にいた異形へ足蹴りをかまし、周囲にいる異形たちを一掃。一息ついて前を見る。

 そこで、少女に向かって何処からかつむじ風が放たれた。が、反応が遅れ、避けきれない――


 ◇◆◇◆

 

「おーい、起きろ~」

「もう休み時間始まってるよ~」

「あ、あれ......? 私、一体......」

 

 自分の机からゆっくり身体を起こし、ボーッとした目で周りを見る。目の前には2人の女子生徒の姿があった。


「秋葉、また徹夜してたのか?」

「んー、いや。昨日は色々あってね……。ちょっとあやかしに襲われちゃいまして……。その影響で疲れが溜まってて……」

「はぁ⁉ おい、それ大丈夫なのかよ」

 

 すると私の友達の1人である、守咲結奈もりさきゆうなが驚きながら声を上げる。彼女は白毛の混じった黒髪ポニテを靡かせながら、私に向かって問い詰める。

 と、同じく私の友達である堀部舞衣ほりべまいが結奈に向かって肘でゲシゲシと脇腹をつついた。


「声が大きい」

「あー、すまん。ついな。それで、どうなったんだ?」

「あー、えっとね。通りすがりの退魔師に助けられた」

「へぇ。そりゃまた凄いな」

「ねぇ、どんな人だったの?」

 

 前髪を上げた短めの茶髪に赤縁眼鏡を掛けた舞衣は、興味深そうに訊いてきた。


 どんな人か……。そうだなー、確か……。


 私は昨日の記憶を思い出しながら2人に特徴を話す。


「んーとね。青髪ポニーテールの男性で、関西弁口調で気さくな人だったよ。後、めちゃくちゃ強い」

「ほほう。それでそのポニテ青年の名前は聞いたの?」

「一応ね。進路先もその人と同じところだしまた会えるでしょ」

「あらま。それは自らを救ってくれた恩人を追いかけての事ですかな?」

 

 舞衣は意地悪そうな笑みを浮かべつつ、訊いてきた。私は眉を顰めながら、舞衣に向かって口を開く。

 

「そこ煩い! すーぐそういう話に持っていきがちなんだから」


 と、ここで教室のスピーカーから放送が鳴った。


『3年2組の北桜秋葉さんは、今すぐ職員室まで来なさい。繰り返します――』

「げっ! 進路用紙出してなかったや。ちょっと行ってくるね」

「それじゃああたしらも着いて行くとするか」

「だね~」

 

 2人も着いてくんのかい。まぁ良いや。生憎と職員室は苦手意識があるから着いてきてもらった方が有難い。

 私は記入した進路希望の用紙を持って、職員室へと向かった。


 ◇◆◇◆

 

「3年2組の北桜秋葉です。失礼しまーす」


 職員室の前で自分の名前を名乗ると、そのまま担任のいる机へと歩く。


「お、やっと決まったか」

「はい! もうばっちりです」

「ほれ、見せてみぃ」

「はい、どうぞ」


 言われた通り、進路希望の紙を先生に渡す。そうしている間にも、休み時間終了のチャイムが職員室に響き渡る。先生は軽く目を通すと、私の方を向いた。


「大神学園言うたら確か神道系の学校やったか。そこなら、北桜にはぴったりやな。ほな、次の時間は終業式やから、はよ教室戻りや」

「はーい」


 満面の笑みを浮かべながらそう言うと、一礼してから職員室を出ていった。

 

「お、出てきた。あの禿げはなんて?」

「北桜にはぴったりだってさ」

「なるほどな。あ、今年もお前んとこの神社に初詣行かせてもらうぜ」

「その時は私も一緒だからね」

「はいはい、分かってますよ~」


 毎年大晦日から年明けにかけては結奈と舞衣がうちに泊まりに来るのだ。年末年始は神社にかなりの参拝者が来る。そうなると、流石に1人じゃ回しきれないので、手伝ってもらっている。


 今年ももうそんな時期か……。そろそろ準備始めないとな……。

 

「それで、2人の進路先って何処だっけ?」

「私と結奈は同じ専門学校。分野は違うけどね」

「そうだったね」

 

 結奈は家が老舗の呉服屋で、絵が得意なことからデザイン系の分野に進むらしい。ちなみに私の創作キャラは結奈に描いてもらっている。

 

 一方の舞衣は所謂理系女子で、数学と科学はいつも上位の成績をキープしている天才であり屈指のゲーマー。私の友達でもあり、身内用の掲示板サイトの管理人、そして自称ハッカーでもある。

 そんな舞衣はホワイトハッカーを目指すためにIT系の分野に進むそうだ。

 

 2人ともそれぞれの得意分野を生かせる道に進むんだから凄いよね。それに比べて私ときたら、行き当たりばったりで取り敢えず推薦状が来たからそこにしようだなんて楽観的にもほどがあるな。


 自分の無鉄砲さに苦笑を浮かべていると、誰かと肩がぶつかった。


「あ、すいません」

「こっちこそすまんな。ほな」


 ぶつかった相手は濃い目の茶髪に赤いメッシュがかかった男子生徒だった。その人は私に向かって関西弁口調で謝ると、そのまま反対方向に歩いて行く。多分、体育館の方へ向かうのだろう。

 

 えーっと、同学年の人で確か名前は――

 

「――で、そういう秋葉はどこだっけ?」

「あー、大神学園だよ」

「あそこか。確かに家が神社の秋葉にはぴったりだな」


 ふと後ろから視線を感じ、振り返る。だが、そこには終業式のために体育館へ向かう生徒が居るだけだった。


 んー、気のせいか……。


 にしても、この大神学園ってところ、入試が無いらしい。何とも素晴らしい学校だ。加えて今日の終業式が終わればもう冬休み。今年度は諸事情で冬休みの入りが遅くなったけど、その代わり1月17日ごろまで休めるらしいからラッキーだなぁ。


 こうなったら速攻で課題終わらせて、創作してやる! そして学園長様、私を推薦して下さりありがとうございます。マジで一生ついていきます。

 

 心の中で感謝を述べながら、私たちは教室へと戻るのだった。

 

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