第3社 白い鳩からの知らせ

「……えっ?」

 

 家の玄関に白い鳩が居るのを呆然と見つめる。白い鳩は自身のくちばしで毛づくろいをしながら、入ってきた私とエルの方を見て、首を傾げた。


「いやなんで鳩⁉ うち鳩なんてそんなオシャレな動物飼ってないよ⁉」

「まぁまぁ落ち着きなって。鳩の1羽や2羽ぐらい普通に家に入ってくるもんだよ」

「んなわけないでしょーが!」

 

 隣にいるエルへツッコミを入れる。だが、さっきまで居たはずのエルがいない。ふと前を見たら、エルは興味深そうに鳩に近づこうとしていた。


「え、エルさーん? 何しようとしてるんです?」

「この鳩、普通のとは違う雰囲気を感じるから気になってね」


 エルが鳩の前まで行くと、突然ポンッ! っと煙玉の爆ぜるような音がなった。気が付くと先ほどまでいた鳩は消え、代わりに1箱のダンボールが私たちの前に現れる。

 

「うぉっ」

「いきなり何なの……。って、いなくなってるし」


 突如、現れたダンボールに目を向けた。さっきから何が何だか分からないけど、1つだけ分かることがある。


 このダンボールは下手に開けちゃダメなヤツだ。絶対。でも、どうしよっかなこれ……。もし、危ないものでも入ってたら、処理するのに困るし……。


 目の前のダンボールをどうしようかと考えていると、エルがダンボールの蓋を開け出した。


「え、ちょっと何やってんの⁉」


 咄嗟に声を荒げて注意すると、エルはこちらを振り向いた。

 

「いや、何が入ってるのか気になったからつい……」

「ついじゃないっての! 爆弾とか危険なものが入ってたらどうするの⁉」

「秋葉……流石にアニメの見過ぎじゃない? ほら、だって入ってるのは唯の封筒みたいだし」

「え、あ、ホントだ」


 エルが指さす方向を見てみると、確かにダンボールの中身はA4サイズの封筒だけだった。

 

 こんなダンボールに封筒1つだけってのも、なんか怪しい気が……。取り敢えず開けてみるか。


 封筒を手に取ると、制カバンの中からはさみを取り出して、封を開ける。中には1枚の紙と1冊の冊子が同封されていた。

 

 何だこれ?


 不思議に思いながら、1枚の紙を開けて目を通していく。すると、エルが私の背後に回り込んで、紙の方に顔を近づける。


「なんて書いてあるの?」

「えっとね……『北桜秋葉様。この度貴殿には、大神学園おおみわがくえん高等専修学校への入学資格が与えられました。入学するかはご自身の意志にお任せします。弊学の詳細は同封してあるパンフレットをご覧ください。貴殿の入学を心よりお待ちしております。学園長・西園寺美和子さいおんじみわこ』だってさ」

「んー、なるほど」


 突然、入学資格が与えられたと言われてもな……。なんか普通に怖いんだけど。宗教勧誘みたいでさ……。けど、うち神社だから流石にそういうのじゃないか。


 紙に書いてある文章を読み終わると、如何にも胡散臭い内容だと顔を顰めた。一方のエルはそんなことも気にせず、さっそく封筒の中に入っていた冊子をペラペラと捲り始める。


 エルってば、気になったものはすぐに開けようとするんだから。不用心め……とても神様だとは思えないんだけど……。


 私は興味津々な表情で次々にページを捲っていくエルを遠巻きに見ながら、溜息を吐く。


「おーい、秋葉」

「何、どしたの?」

「大神学園のホームページのURL見つけたから、そっちで見てみようよ」

「はいはい。まずはやること済ませてからね」

「じゃあボクはその間に海希に連絡しておくよ」

「はーい」

 

 エルはそう言うと、どこかへ消えてしまった。きっと海希さんのところにでも行ったのだろう。私は手洗いうがいを済ませてから、ダンボールを解体する。

 

 確か物置小屋があったはずだから朝起きたらそっちに持って行こう。


 ひとまず、ダンボールを邪魔にならないところへ置いてから、封筒を持って自室へと向かう。自室の扉を開けると、制鞄を適当な場所に置いてパソコンを起動させた。

 

 えーっと、エルが言ってたURLはっと。


 ささっとログインをして、検索画面に飛ぶと先ほどエルが言っていたURLを打ち込んでいく。


「……これか」

「どれどれ?」

「あ、エル」

 

 いつの間にか戻って来ていたようで、エルは私の方を向いた。

 

「彼にはきちんと無事に家に着いたって言っといたよ」

「ありがとう」

 

 私とエルは順番にホームページを見ていく。すると、大東さんが着ていた制服と同じものを着ている学生が目に入った。


「あ、これって……」

「さっきの人が着てたのと同じだね」

「へぇ~。ってことは、海希さんってここの学園の人なんだ」

「なになに。此処、普通の高校とは違うみたいだね」


 私はエルの言葉を聞いて、時間割を確認していく。確かに3時間目で授業が終わるなんてなかなかない。それに神道系の学校らしいから、家が神社の私にとってはぴったりだ。

 創作する上でも役に立ちそうだし、入学するってなったらいずれ海希さんにも会えるだろう。その時に改めてお礼を言わないとな……。

 

「あ、ここ寮があるんだね」

「家が遠い人向けなのかな?」

「でも、生徒の大半が寮生活らしいよ」

「そうなんだね」


 寮生活となると……、神社を空けなきゃいけないからな。学校自体は京都市内にあるらしいけど、だいぶ上の方らしいし。ここからじゃ遠いか。……あ、そうだ。


「何か思いついたみたいだけど、どうかしたの?」

「ちょっとね。エルには頑張ってもらうことになるだろうけど。ま、詳しいことはまた後日。まずは進路用紙に進路先を書かないと」


 エルに対してニヤリと笑みを浮かべながら、制鞄の中から進路用紙を取り出す。私は机に置いてあったボールペンを持ち、用紙に大神学園高等専修学校と記入した。

 

 


☆あとがき

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