第2社 恩人
「よぉ、無事か?」
「え、えーっと……だ、誰……ですか?」
「俺は
「
「俺やな。手荒な真似してすまんかった。怪我とかないか?」
海希さんは申し訳なさそうに訊いてくる。
ってことは海希さんが私を放り投げたのか……。助けるにしても、もう少しやり方ってもんがあっただろうに。まぁ、助けてもらった側が言えることじゃないけどね。あ、そうだ。怪我と言えば……。
「えっと、背中とお尻打っただけで、大したことないですよ。これでも頑丈なほうなんで」
「そっか。なら良かったわ」
そう言って、海希さんは私に手を差し伸べてくれた。彼の手を取って立ち上がると、その拍子に落ち葉がスカートから落ちていった。ふと、着ていた服を見てみたらところどころ土で汚れている。
こりゃ、帰ったらクリーニングに出さなきゃな……。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
私がお礼を述べると、海希さんはニコッと歯を見せて笑った。さっきから思ってはいたけど、顔が良い。人懐っこそうだし、話しやすそうな雰囲気をしている。
せっかくの機会なので、気になっていたことを訊いてみる。
「あ、あの……質問良いですか?」
「なんや?」
「さっきの気持ち悪い異形って何なんですか?」
「んー、あれなぁ。俺らの間では
「な、なるほど」
やっぱりそうか。けど、その祟魔? って単語は初めて聞いたな。つまり、私が今まで見えていたのもその祟魔ってやつに分類されるのかな……。
私は海希さんの話を聞きながら、今までの人生を振り返っていると、海希さんが驚いたような口調で話し出す。
「って、もしかして秋葉はそういうの視える感じなん?」
「あ、はい。多分……私の友達も何人か見える人がいまして……」
「へぇ~、そうなんや。なら俺と一緒やん」
「あ、そうなんですね」
マジか……。まぁ、見えてなかったら祟魔を退治できてないもんね。ん? ってことはもしかして隣のエルのことの見えてる?
隣のエルをチラ見していると、海希さんが私に疑問を投げかける。
「で、秋葉はなんでこんなところにいたんや?」
「あー、私の家がこの山の麓にあって……」
「ほんで、学校帰りに襲われてしもたっちゅうことか」
「そうです」
私のセーラー服を見て判断したのだろう。海希さんは納得したかと思えば、ふいに私の隣にいたエルを見る。すると、海希さんは顎に手をやりながら、エルに顔を近づけ始めた。エルは何だ何だと怪訝そうな顔をする。
「にしても、さっきから嬢ちゃんの隣でふわふわ浮いてるやつはなんや?」
「あー、エルですね。自称神様らしくて、こいつも妖怪みたいな感じで、私と友達ぐらいにしか見えなかったんですけど」
私がエルについて説明する。確かエルと出会ってから少ししたとき、エルが勝手に学校についてきたことがあって、そこで友達も見えるって知ったんだよね。思い返していると、エルが海希さんの方を向いて喋り始めた。
「やっほー、ボクのことが見えるなんて凄いね」
「まぁな。にしても、なんや神獣みたいな見た目しとるな」
「まぁ、それと似たようなもんだね」
神獣……? 何だろそれ? ……神獣っていうと、中国の四神とかそういう感じ……? でも、合ってるか分かんないな……。てか、なんでエルは知ってるんだ?
私は聞いたことのない単語に首を傾げる。私はエルに神獣とは何なのか、念話で聞いてみることに。
『ん? あぁ、神獣ってのは神の使いみたいなものだよ。海希はボクの見た目がこんなんだから勘違いしたんじゃない?』
『あ、そういうことね』
エルはそう言いながら、くるっとその場で1回転してみせる。
まぁ、この容姿なら誰だって神獣だと思うよね……。いや、だって見た目的には狼のマスコットだし。喋らなければ、ぬいぐるみ扱いだってされそうな気がするんだけど。
ふわふわ浮いているエルをじーっと見ていると、海希さんが再び話し出した。
「北桜言うたら、この近くの北桜神社の?」
「あ、はい。そうです」
「ほぉ、なるほどな。なら、いずれは
海希さんは、私が北桜神社の神職だと分かると、妙に納得したような表情で顎に手をやった。
大神って何だろう……。それに北桜神社の名前も知ってるんだ……。うちの神社は近所の人ぐらいしか知らないぐらいには弱小神社何だけどな……。
不思議に思っていたら、茂みの方から十数体の祟魔が出てきた。すると、海希さんは私の前に出て刀を抜いてこっちを振り向いた。
「ここは危険や。エル! お前、神獣やったら神社への道案内ぐらいできるやろ。秋葉と一緒にはよ家戻り!」
「そうだね。行こ秋葉」
「え、でもそれじゃあ海希さんが……」
エルに急かされるが、躊躇する。だって、海希さん1人でこの数相手できるわけがない。憂いを含んだ眼差しで海希さんの方を見ると、本人は余裕そうな笑みを浮かべこう言った。
「こんぐらいの敵しれとる。俺は大丈夫やさかい、はよ行き!」
「秋葉、着いてきて!」
「わ、分かった!」
弾かれたように私は先導するエルを追う。後ろを振り向くと、海希さんが凄まじい速さで、祟魔を次々と斬殺していく。
海希さんは私たちの方へ向かってきた祟魔に突きを入れ、そのまま横へ薙ぎ払うと、ここから先は通さないとばかりに卓越した剣技で祟魔たちを蹂躙していく。
一方、私はエルに連れられて、再び山の中を走る。
数分走ると、いつも通っている山道に出た。やっと元の場所に戻ってこれたかと思えば、後ろから祟魔が追ってきていることに気づく。私は走るスピードを上げて、一気に山道を駆け上がる。
「もう無理……!」
「後、ちょっとだからもう少し辛抱して」
エルにそう言われるも、普段からまともに運動していないオタクの体力では限界というものがある。
こんなことなら普段から運動しとくんだった……!
そう思っていると、いつの間にか祟魔が背後までやって来ていた。
「ひぃぃぃ! 死ねやゴラァ!」
私は喚きながらも、腰の高さまである神社の看板を思いっきり引っこ抜いて、それで祟魔の1体をこれでもかというぐらいに殴る。
その光景に恐れをなしたのか、祟魔たちは一瞬怯んだ。その隙に私は看板を放り捨て、神社へ続く階段を必死に上る。足元が灯篭で照らされる中、駆け上がると鳥居を潜った。
「はぁ……疲れた……」
「ここまで来ればもう大丈夫だね。さっ、中に入ろう」
「う、うん」
私とエルは本殿を通り過ぎ、そのまま神職の住まいである社家の方へ向かう。
マジで疲れた……。こんなに走ったの持久走ぶりだな……。
私は制鞄を肩から降ろして手で持つと、家の鍵を開ける。と、思わず目の前の光景に持っていた鞄を落としてしまった。
「……えっ?」
そう、何故か家の玄関に真っ白い鳩が居たのだ。
【次回予告!】
祟魔の追走から逃れ、やっと家に帰れたと思ったらなんと白い鳩が!
驚く秋葉とエル。すると、白い鳩はダンボールに変身し――
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