【本日11社まで更新/序章完結】天界の代報者~神に仕えし者たちの怪奇譚~
桜月零歌
序章 進路編
第1社 遭遇
──ここは『噂や伝承などが具現化する世界』。
人智を超えたものはその力によって具現化され、現世へ現界する。
そして、その力により世界には古来より"
それらを祓うのは、"
彼らは現世に干渉することのできない天界に住まう神達に代わって、森羅万象を見通す目"
そして、2021年4月某日。千年と都と呼ばれし京都にて、稀代の力を有する代報者が誕生することとなる。
◇◆◇◆
本日、12月24日はクリスマスイブ。夜の街はすっかりクリスマスムードに包まれている中、私は京都・
「■■■――‼」
「ぎゃああああ‼ 無理無理無理無理‼」
セーラー服を着ている私は、肩下までの茶髪に赤毛の混じった髪揺らしながら、不安定な地面を走り抜ける。
とにかく、後ろのやつから逃げないと死ぬ。間違いなく。
持っていた制鞄は走っている途中にどこかへやった。ドカドカと物騒な足音を立てながら追いかけてくるソイツから必死に逃げ回っていると、さらに霧が濃くなった。
普段はこんな時間帯に霧が降りることはまずありえない。何がどうなってるのか分からないまま、木々の間をすり抜け、地面を蹴り上げる。
こんなことならさっさと進路決めとくんだった……!
中学三年生のこの時期は皆、受験シーズン。ほとんどの人が進路用紙を提出しているにもかかわらず、私は未だ自分の進路をどうするかで迷っていた。ちなみに進路用紙の提出は昨日。
もう当に過ぎており、先生に期限を延長してもらえないか打診していたら、帰るのが遅くなってしまった。
普段は襲って来ないのになんで今日に限って襲ってくるわけ⁉ 運悪すぎでしょ……。
霧の降りた山道を走る。私は生まれつき見えたらいけないものが見える性質。そう、言わばあやかしや異形の類が見えてしまうのだ。多分、実家が神社というのが影響しているのだろう。
と、更に霧で視界が遮られる。最早、自分がどこを走っているのか分からない。ただ一つ言えるのは、神社への参道からは確実に離れているということ。
だってこんな足場の悪い道、普段は通らないし! うちの神社の参道はきちんと整備してあるから歩きやすい方だよ。何なら今みたいに全力疾走しても転ばないぐらいは自信あるよ⁉
内心、気を紛らわせながら化け物から逃げていると、後ろから糸のようなものがこっちに向かって飛んできた。私は咄嗟へ横に回避。糸が横の木にぶつかる。と、木が背後でミシミシと音を立てながら崖の方に倒れていく。
いや、おっかなっ! 直撃してたら即死ものじゃん!
「てか、何でこんな肝心な時にエルと繋がらないの⁉」
私は狼の胴体に烏の翼が生えたマスコットを脳裏に思い浮かべる。エルは私が中学に入った頃から一緒で、そいつも今、追いかけられている類と同じく一般人には見えない存在。
エルは開口一番、自分のことを神と名乗ってきたヤバい奴なのだ。ひょんなことからこの三年間一緒に暮らしており、困ったときは呼んでねと言われたからさっきから呼びかけているというのに、肝心なときに限って姿を現さない。
使えない神様だな……! やっぱり偽物なんじゃないの⁉
そう毒を吐きつつ、いつまで経っても速度が落ちないソイツから涙目で逃げ回っていたら、さっきまであった足場が消えた。
「へ……?」
涙でぼやけたままの目で下を見ると、文字通り足場がなかった。具体的に言うと、生身のまま崖みたいなところに出てしまったわけだ。
あ、終わった……。私の人生終わった。
そのまま落ちるだろうと思い、目をつぶって衝撃に備えようとする。けど、いつまで経ってもその衝撃は訪れない。代わりに、首根っこを掴まれるような感覚を感じた。
「あ、あれ?」
あ、もしや助かった……?
そう思い目を開けた瞬間、何故か視界が反転し、背中と腰に衝撃が走る。どうやら木にぶつかってそのまま地面に落ちたらしい。
「いったぁ……」
私は強打した腰を手で押さえる。すると、近くの方からアニメでよく聞くような斬撃音が聞こえてきた。
音的に刀……? 霧のせいで何も見えないから、音だけで判断するしかないんだけど……。にしても、さっき私を助けてくれたのって……。
頭の中が色々とごちゃな私は今の状況を整理する。しばらくして斬撃が鳴り止むと、霧が晴れて視界が鮮明になった。いつもの見慣れた山道が目に入ってホッとしていると、宙に光が現れ、そこから狼の胴体に烏の翼が生えたマスコット・エルが現れた。
「あ、やっと見つけた」
「もぉー、遅いって。何回呼びかけても反応ないんだもん」
私は隣に現れたエルを見て、安心した表情を浮かべると同時に、エルの反応がないことを話す。すると、エルは申し訳なさそうに耳を下げて謝ってきた。
「ごめんごめん。異様な気配を感じたから様子を見に山の中に入ろうと思ったんだけど、何故か入れなかったんだ。多分、あの霧のせいだと思うんだけど……。はいこれ鞄」
エルはここに来る途中で拾ってきたのだろう制鞄を私に返すと、烏の羽で周囲を飛び回る。一方の私は、エルの指摘からさっきまで発生していた霧には何かあるのだろうかと考え始めていた。
「やっぱりあの霧ってなんかあるのかな……。どんどん濃くなっていったし」
「確かに秋葉と念話すらできなかったから、何かありそうだね」
にしても、霧が晴れてから異様な気配を感じなくなったんだけど、一体何がどうなってるんだか……。
取り敢えず、先ほどまでの出来事をエルに話すため、口を開く。が、その瞬間、近くの茂みからガサガサと音が鳴った。
まさかさっきの異形? もしそうだったらマズいんじゃ……。
私とエルは顔を見合わせると、警戒しながら茂みの方に目を向ける。すると、さっきとは別の異形が私たちに飛び掛かってきた。座り込んだ体勢から、咄嗟に回避を試みようとするが間に合いそうにない。
今度こそ終わった……。
そう思った瞬間、目の前の異形が真っ二つに両断され、塵となって消滅する。
「へ……?」
と、その後ろに刀を手に持った長身の蒼眼青髪ポニテの青年が現れた。彼は、白のカッターシャツに紺袴、紺の羽織に茶色のブーツと和洋折衷な服装を身に纏っている。
青年は刀で血を振り払い、腰に差していた鞘に戻すと、黒のフィンガーグローブを装着した手を軽く振り上げた。
「よぉ、無事か?」
☆あとがき
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