第5社 エルとの出会い

 終業式を終えたその日の夜。私は自室の椅子に座りながら、パソコン画面を開けていた。さっそく舞衣が管理しているWebサイトへログインする。そこにはチャット機能やメモ機能、通話機能などがあり、私の創作資料や結奈の描いたイラストも載っている。

 相変わらず便利なもの作ったな~と感心しながら、設定資料の画面をクリック。続けて創作キャラの項目をクリックすると、ズラリとキャラクター名が表示された。私はそこの中からエルの名前を選択する。

 

「うわ~、久々に見たな……。これ何年前のだ……。確か私が中学に入学してすぐの頃だから……」

 

 ざっと2年半は経っている。そういえばその時だったよね。エルと出会ったのは。

 そう思いながら私のベッドでぐうすか涎を垂らしながら寝ているエルを見つめる。


 

 ◇◆◇◆


 桜が満開の4月。当時中学1年生だった私は、入学早々、唯一の肉親だった祖母が病気で亡くなった影響で、学校に暫く行けていなかった。

 まだ存命していたお母さんとお父さんから8歳になるまで何故か境内の外には出てはいけないと言われていたため、小学校へは遅れて編入。その影響で小学校はずっとぼっちだった。今回もそうなるかもしれない。そう思っていた時に、結奈と舞衣に出会った。

 2人は私と同じくあやかしの類が視える性質で、趣味も似たり寄ったりなことからすぐに仲良くなった。

 そんなある日、学校から帰ってくると、自室の方から何やら怪しい気配がした。強盗かと思い、警戒しながら掃除用具から取り出した箒を持って自室へ入る。

 すると、誰もいない部屋から声が聞こえてきた。


『やぁやぁ、お邪魔してるよ』

「だ、誰⁉」

 

 突然、頭の中に声が響き、私は咄嗟に箒を構える。相手の姿は見えないし、どこから話しかけているのかも分からないので、いっそう警戒を強める。


『そんなに警戒しなくても良いじゃん』

「いや、するわ! てか、こういうときは……っと」

 

 私は、急いで制服のポケットに仕舞ってあったスマホを取り出した。葬儀の際、祖母と縁が深かったおじさんに何かあったら頼るよう言われたので、おじさんの番号に電話をかけるために、電話帳アプリのマークをタップする。


『ちょーっと待った!』

「見るからに不審者……。てか、姿も見えないやつに止められる筋合いないんですけど⁉」

『まぁまぁ、危害を加えるつもりはないからさ。ちょーっとだけ話聞いてよ。ね?』

 

 頭に響いている声を聴いた私は、観念して相手の話を聞くことにするのだった。


「それで、話って何? てか、どこから喋ってるか全く分かんないだけど」


 持っていた箒を床に下ろして、何処にいるのかも分からない声の主にそう言う。すると、再び頭の中に声が響いてきた。どうやらクローゼットの方にいるらしい。目を凝らして見てみると、透明な靄みたいなものが見えたので、多分それだろう。


「それで、あんた誰?」

『んー、そうだね。分かりやすく言うなら神様かな』


 はぁ? 大体、神様なんてこの世にいるわけ……。いや、それ言ったら流石に神社の娘としてマズいか。

 

 考えを改め、神様とやらに向かって口を開く。

 

「なるほど。それで、自称・神様なあんたが何の用? こっちは色々と忙しいんだけど……」

『いや~、案外神ってのも暇なもんでね? 試しに現世へ降りてみたら、君が独りで寂しそうにしてたから、暇つぶしに声掛けてあげたってわけ。まあ、簡単に言ったら話し相手が欲しいのさ』

 

 上から目線で語る自称・神様にイラつき始める。

 

 早くおじさんに今後のこと相談したいのに、こんな訳も分からない奴にかまってる暇なんてないし。って――

 

「暇つぶしだぁ? そんな名前も知らない、靄だけのあんたに付き合わされる筋合いないですけど?」

『うわ、口悪っ! 神に向かってその態度はどうなんだい?』

「知・る・か! 大体、なんで私なの?」


 なんで、わざわざ私に絡んできたのかよく分からないし、1人で寂しそうにしてたから声かけてあげたってどんだけ上から目線なんだか。私にはね、結奈と舞衣と創作という素晴らしいものがあるから寂しくなんか――

 

 内心で毒づいていると、自称・神様が話し始めた。


『え~、絡みやすそうだったから。後、何より今のボクを認知できるのは君ぐらいしかいないからね』

「あー、そう。認知とかそういう細かいことはよく分かんないけど、あんたが凄いムカつくヤツってことは分かった」

『酷いねっ⁉』

「暇つぶしに声かけてくる時点でムカつくの。こっちは、やらなきゃいけないことがたくさんあるから忙しいってのに……」

『そのやらなきゃいけないことって?』

「これからのことだよ。家事から神社の整備から、何から何まで1人でやらなきゃいけないの。ほら、うちの家って神社だから」


 幸い、家賃とか学費とかはおじさんが出してくれるらしいけど、いつまでも頼ってばっかりじゃアレだし。できることはやっときたいから。遊んでる暇なんて私にはない。ま、創作は別だけどね。

 

 そう考えていると、自称・神様がまた喋りだした。

 

『んー、なるほど。それなら尚更ボクが必要になってくるんじゃないかな?』

「なんでよ?」

『ほら、ボクってこれでも神だし。大抵のことは解決できちゃうけど?』


 ほーん。ということは、何から何までやってくれる便利なヤツってことか。それなら利用しない手はないな。

 

『なんか失礼なこと考えてるでしょ?』

「いや、なんでも。そういうことなら話し相手ぐらいにはなってあげても良いよ。但し、色々と手伝ってもらうからね?」

『勿論。それじゃあ契約成立ってことで、これからよろしくね』

「よろしく~」


 まぁ、神様と知り合いになれる機会なんてそうそう無いし。創作する上でも便利そうだからね。っと、重要なことを聞いてなかったや。


「そういや、あんた。名前は?」

『名前か。んー、呼び名なんかあったかな。ちょっと待ってね』


 自称・神様は黙ると、うんうん唸りながら考える素振りを見せる。

 

 そういえば、神様っていっても結構種類あるけど、どの国の神様なんだろ。んー、やっぱり……。

 

『ふむ――特に呼び名なんてなかったよ』

「え、神なのに?」

『ま、名無しの神なんてそこら中に山ほど居るからね。せっかくだから君が付けてよ』

「え? まぁ良いけど。そんなに期待しないでよ」

 

 神様の名前か……。てか、神様にはみんな名前がついてるもんだと思ってたけど、そうでもないんだね。名無しってことは、私に話しかけてるコイツって神様の中でも下の方に位置するのかな?

 ま、そんなことは置いておいて。名前か……。ん? 確か前に調べものしてた時……。


「んー、そうだね。――エル」

『意味は?』

「セム語で神。あんたが自分で神様って言ってたから、それにちなんで。どう?」


 そう問いかけると、エルは満足そうな表情でこう言った。

 

『いいね。語呂も良いし、かっこいい! それで、君は?』

「――北桜秋葉。一応、この神社の宮司やってる。まぁ、他に継ぐ人がいないから仕方なくだけどね」

『なるほど。それじゃあ、秋葉。これからよろしく』

「よろしく~」


 とは言ったものの、エルは靄のままで実体を持たない。実体がなければ色々と不便なので、エルに実体はないのかと訊いてみる。すると、こう返ってきた。

 

『明確な姿はないね。そもそもが実体を持たない思念体だから、当然っちゃ当然なんだけど。ちなみに他の神様もそうだったりしなくもなくもない。……あ、もしかして創ってくれるの?』

「いや、なんでそうなるの。てか、私にそんな能力無いし」


 そんな能力あったら、今頃この家には創作キャラが大量だっての。まぁ、そんなこと私にはできないから――


『大丈夫! さっきも言ったけど、ボクって神様だから大抵のことならできるよ。んー、そうだな。なら、設定書いてくれない?』

「設定? なんでよ?」

「実体化するために必要だからさ。何もないところからは生み出すのって、結構大変なんだよ。容姿だけでも良いからさ」


 と、言われてもな……。まぁ、設定だけならできなくもないけど、絵はね……。


「いや私、絵描けないし」

「大丈夫大丈夫。文章だけくれたら後はこっちでやるし」

「ふむ。そういうことなら、やってみますか」

「やった!」


 って、なんで私が創作してること知ってるんだろ。まぁ、神様だし知っててもおかしくないか。エルには自由に作って良いと言われたので、さっそくパソコンを開け、設定資料を漁る。

 

 どうせなら動きやすい方が良いよね。後、もふりたいからマスコットみたいな感じにしよっかな。後はそうだな。


『へぇ~、結構キャラクター作ってるんだね』

「まぁね。小さい頃は外に出ちゃ駄目だったから、その分お母さんがアニメとかゲーム機を持ってきてくれたんだよ。んで、そこから次第に創作へ発展していったってわけ」


 私はそう言うと、パソコンに集中する。黙々とエルの設定を打ち込んでいき、30分が経過。エンターキーを押して、設定を完成させた私は、軽く伸びをする。


「はい、できた!」

『お疲れ様~』

「はぁ……。我ながら結構凝ってしまったな……」

『見てもいいかい?』

「良いよ~」

 

 パソコンの画面をエルのいるであろう方向へ向けた。数分すると、エルが納得したような声を上げる。すると、身体から一瞬力が抜けたような感覚に陥った。

 

 ん? なんだ今の……。


 首を傾げていると、目の前に光が現れ、気づけば、紫眼の瞳に白狼の胴体に烏の翼を生やしたマスコットがいた。分かりやすく言うなら、某幼女向けアニメの妖精みたいな感じだ。私は、軽く説明を加える。

 

「狼の姿は北桜神社の神使、翼は日本神話の八咫烏から。んで、目の色は神だから高貴な色の紫にしてみた」

「なるほどね! いや~、気に入ったよ。ありがとう」

 

 エルはそう言うと、私の肩に乗った。体重設定は1キログラムにしてあるからそんなに重くはない。どこかのピ〇チュウよりかは全然マシだ。

 

 ◇◆◇◆

 


「おーい、ぼーっとしてどうしたの?」

「ちょっとエルと出会ったときのことを思い出してね。」


 エルは目ぼけた目でこっちを見てくる。どうやら、私が物思いに耽っている間に起きたようだ。私は再びパソコン画面に向き合い、エルの設定に手を加えていくのだった。


 


【次回予告!】

卒業式を終え、結奈と舞衣と別れた秋葉。寮生活の準備をしていると、制服が届いたよう。

大神学園の制服がお披露目されます! お楽しみに!


これにて序章完結! 次回から第1章開幕!

ここまでで面白いと思ったら評価(♥・★・ブクマ)を是非よろしくお願いします!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る