第16話
「さあ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。『合成屋・レジェンド・クラフト』出張店! 新たな武器をお求めのあんた、自分の武器の手直しをしたいあんた、冒険に革命を起こしたいなら今だぜ!」
武具を赤い珊瑚に並べ、白い貝の椅子に座りながら俺は手をたたき呼び込みを始める。
「って、なんでウェンディの里まで来て商売してるのかしら」
そんな俺をシフィーが呆れたような目で見てくる。だが、これはもう商売人の性質なのだ。
それより、何より……!
「何なんだ、ウェンディの奴らの持つ武具の美しさは……! 俺は確かに実用性重視の人間だけど、それでも見とれてしまうデザインをしている。あれが海中のダンジョンから出てくるのか?」
その問いには、隣にいたスイが応えてくれた。
「違うわよ。ウェンディ族の民は皆、『形成』の腕に優れているの。彼女らは美しくない者を良しとしない性質なの。だから自分も武器も美しくあろうとする……って、本当に何で男のあんたがウェンディ達より武器にお熱なのよ」
「そりゃ、皆キレイだと思うぜ。だけど、俺は他人を見た目で判断しないクチなんだ。よく言うだろ、美しいバラにはトゲがあるってな」
実際、ハニートラップに引っかかってひどい目に遭う冒険者は数知れない。だから警戒は怠らないのは当たり前だ。
「おにーさん、よく里に入ってこられたねえ。なあに、珍しいもの売ってるのね」
「お、男……ねえねえ、商売は良いから今日はうちで飲んでいかない? 今時男子禁制なんて古くさいと思わない? それについて語り合いましょ?」
そして、寄ってくる酔いしれそうな美貌の持ち主達にたじろいでしまうのも、また当たり前だ。だが、ここで怯んではいられない。
「待て、待て待て。今の俺は店主だ。客以外は相手しない。何か、用でもあるのか?」
「んー、それじゃあねえ。このナイフをゴウセー? してもらおうかな。皆、おねーさんが人柱になったげる!」
その声に、いつの間にか集まっていた広場中の視線に気づいた。水色がかった肌をした彼女らは太陽魚という黄金の魚が尾ひれを揺らし影を作る度に増えていっているようだった。
「よっしゃ。任せとけ!」
いくら文化が違えど、俺の『合成』は通じるはずだ。まずはこのナイフ……。
○ SR:水景の陰り
・アイテムレベル:86
・物理ダメージ:160~198
・耐久値:13/390
・要STR:98・MGA:77
・『水流を伝う者』
・纏う(水属性)
○
それは流石に、シフィーの腕を借りないと鑑定できないものだったが。このままでも十分素晴らしい武器だ。
「なるほどな……で、こいつをどうしたい? 全く別の武器にするか? それとも、特性を入れ替えるか?」
「わっ。そんな事できちゃうんだ。じゃ、全く別のものにしてもらおっかな」
「いいのか? これも十分良い性能をしていると思うけど……」
「あはっ、でも、可愛くないもーん」
そうですか。もったいないなあ……でもまあ、仕事は仕事。やることをやるだけだ。
「いくぞ、『ランダムエンチャント』!」
○ UC:水星族の落とし刃
・アイテムレベル:157
・土ダメージ:150~279
・耐久値:280/280
・要STR:23・DEX:98
・『布を編みし者』
・回復力増加:670
・切り裂く(水属性)
○
ほう、これは中々面白いものができたんじゃないか? それみろ、これが『合成』の――
「……可愛くないねえ」
バッサリ。SSSランクの剣で斬られたらこんな感覚になるのだろうか。
「なっ……! ま、待て待て。確かにランクこそ下がったけどこのナイフは今!」
「分かるよ? 腕力のないウェンディ族でも扱えるようになったし、服も肉体も回復しつつ、二つの属性を併せ持つ一本だって事はさ」
なんだ、本当によく分かっているんじゃないか。なら何故……?
「……はあ。ね、クラフト。言ったでしょ、ウェンディ族は美しいものにしか目がないって。どれだけ優れていようと、内容が素晴らしかろうと、キレイでないものには興味がないの」
「す、スイ。それじゃ、この武器の価値って……? 陸じゃ、1・5倍にはなるぜ?」
「ま、0・6倍ってところじゃないの?」
がーん、という声が脳内に響き渡る。なんだそりゃ……それは、あんまりじゃないか?
「だけど、戦いになったらどうするんだよ? キレイじゃないからって、必勝の武具を捨てるのか!?」
「そんなわけないじゃーん? その時は、わたし達は全力を以てして戦うよ。でもね……」
客のお姉さんがナイフを手に取り、どこか寂しそうに刀身を撫でて、だけどよく通る声で宣言する。
「殺し合いなんて、美しくない。だから、この華麗で綺麗な海中では誰も争わない。分かる? 例えば顔がぶちゃいくなのが悪いんじゃないよ? それでも小綺麗にしようって気持ちが大事なの。手と手を取り合おう、思いやりの気持ちを忘れずいよう、今日より素敵な明日にしよう。だって、その方が綺麗だから。武器もそう。実際、あなたもわたし達の武器を見て、素敵だって思ってくれたんでしょ?」
その言葉は、ひどく俺の心に響いた。確かにそうだ。無骨で劣悪な見た目をした武器で戦争をするより、毎朝苗の生長に喜ぶような日々を送れたほうが良いに……綺麗に決まっている。
「ああ、くそ……認める。確かに、あんた達は……ウェンディ族は美しい。そして、武器の見た目も大事だ。あんた達は……心の底から、美しいモノが好きなんだな」
ああ、スッキリとした。そして、決意する。貝の椅子から降り、頭を下げて叫ぶ。
「なら、俺にも『形成』を教えてくれ! デザインの美しい、それも良いだろうさ。だけど、見た目も最高で性能も最高ならこれ以上無い武器に仕上がるはずなんだ!」
「なっ……ば、バカバカ! あんたねえ、仮にもクラフトは国賓なのよ!? そこらの娘に頭下げたりしたら大問題に……」
「なるもんかよ。これは屈辱でも何でもない。俺をこっからさらに成長させてくれる大事な一瞬なんだ。この機会を逃したら……俺はそこまでになっちまう」
俺は今まで、貴族の家に飾ってあるような装飾だけの武器が嫌いだった。でも、あれらのような見た目をして最強の剣がすっと抜かれたら……その瞬間を想像するだけで、高ぶってくる。
「無駄よ、クラフトは一度そうなったら止められないわ」
「シフィー……もう、仕方ないわね。恩返しにもちょうどいいわ。クラフト、頭を上げなさい」
スイは大きなため息を吐くと、俺に向かって手を差しのばしていた。
「あたしは誇り高きウィンデーネの名を持つ巫女よ。そのあたしが、完璧に『形成』を教えてあげる。元々、そのつもりで招いた面もあるんだしね」
「そうだったのか……なら、ちょうどいい。俺に、『可愛い』を教えてくれ!」
こうして、宝玉の使い方を教えるついでの楽しい海中探索でしかなかった旅は、カワイイを見つけるものへと変化したのだった。
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