第15話
「話を聞こうか。ウェンディの族長、シルフィーネよ」
「妾がわざわざ出向いてきた理由を察せないほど衰えたか? マジスティア大帝国皇帝、グリドスよ」
俺が騒ぎになっている門にたどり着いた時には、もう事は始まっていた。
グリドス率いる帝国軍とウェンディ族の長らしき、水色の長髪をした……露出の高い服装の女性を先頭にした女兵士達が対峙していた。
「参ったな、本当に覚えがないのだが……ここ最近の作物不足に関する話か?」
「その通り。それは全て、我が里の秘宝・『水の宝玉』が盗まれた事に起因しておる。そして、魔力を追った所この国にたどり着いたというわけだ」
その言葉に、隣にいたスイがギクリと音が聞こえそうなほど体を跳ねさせた。そして、とても聞こえないだろうか細い声で言う。
「あの、ママ――」
「俺だ。俺の元に、そいつは持ち込まれたぜ」
俺の声ははっきりと通ったようだ。両軍の目線が一斉に俺に集中する。
「……主は、何者ぞ?」
「俺はクラフト。『合成師』だ」
「ごうせいし……そんな珍妙な輩が、なぜ盗みを働いた?」
そこで初めて、スイが前に出てきてくれた。
「違うの、ママ。あたしがクラフトに頼んだの。水の宝玉を直してくれるかもって……」
「スイミスアウト。主が何をしたか分かっておるのか? あれは妾らの生命線ぞ?」
「だって、あのままじゃ死んじゃってたじゃない! あたしは宝玉を守る巫女よ。その管理者としての義務ってものがあるわ! こいつはこんなんでも、『レジェンド・クラフト』なのよ?」
「……それは主の勝手でどうこうしていいものでは――」
と、俺は割り込む。無駄に話を長引かせるのは趣味じゃない。
「悪いけど、もう手加えちゃったぜ。水の宝玉はもう、かつてあったものじゃない」
「な、なんじゃと!?」
途端にウェンディ族達がざわめく。それと同時に高まっていく殺意。おおぅ、怖い怖い。
「グリドス皇帝よ、これは一大事であるぞ……戦争でもしたいのか!?」
「……いいや、クラフトの『合成』ならば信じよう。まずはモノを見てからでも遅くはないのではないのか?」
グリドスは、そう言ってくれた。助かる、本当に助かるぜ、この皇帝は。
「ほう、あの獅子王がそこまで買うか……ならば、見せてみよ。水の宝玉がどうなったかを」
言われて、俺は劣化した水の宝玉を手渡した。鑑定士は他にいたのか、それとも謀殺を恐れたか、長の隣にいたウェンディ族が手に取る。
すると、目を見開いて叫んだ。
「こ、これは……! あの伝説のアイテムが、ただのNRアイテムになってしまっております!」
「なっ……NRじゃと? そんなもので世界の豊作が保たれるものか!」
くそ、ダメか? こいつらも、レアリティにしか興味のない口か……?
「いえ、シルフィーネ様。確かに、NRはいかなるエンチャントも付ける事が可能で、誰だって扱える代物。それでいて重要な要素は残っている……しかも、私でも鑑定できる程度に簡略化されています!」
お、何だ。レアリティだけを見ているわけじゃなかったのか……俺の真意は、伝わったのか?
「そうね……レアリティを上げることは困難ですが、下げる事は容易。扱いきれない代物ならレアリティを下げればいい……こんな簡単な事に誰も気付かなかったなんて!」
「いや、もし思いついていたとしても……ここまで完璧なエンチャントを選び抜き付加させるなんてそうそう出来る事じゃない。そう……何十年もNRの研究なんて誰もしないようなものを続けていなければ……」
「数百年前は有り余る魔力が飽和していた。なら、魔力放出口を小さくして長続きするように工夫すべきだった。完敗だ……確かにこのアイテムを作れる者は。『レジェンド・クラフト』です!」
……いや、そこまで持ち上げられても困る……というか照れる。だが、ウェンディ達の熱狂は止まらなかった。口々に物議を交わし、劣化した水の宝玉を鑑定し尽くし、そして抑えきれない歓喜で爆発した。
「シルフィーネ様、この者はウェンディ族の……いえ、世界自然の救世主です!」
「ふむぅ……。確かに、これならウィンデーネ様に顔向けできないような事態にはなるまい。たかが人間と侮っていた事を詫びよう」
これで……どうにかなったか?
そう思っていると、シルフィーネがニヤリを笑って、初めて俺と目を合わした。
「結果よければ、ではないぞ。クラフトよ。そしてスイミスアウト。主らには相応の処分を受けてもらう。まずは、ウェンディ族の里まで来てもらおう」
「それって……里に行ってもいいって事か? 男禁制だったんじゃ……」
「アレの扱いをしっかり里の者に教えてもらわねばならん。これは例外であろう。のう、グリドスよ、しばしこの者を借りていくぞ?」
それを受け取ったグリドスは、にっこりと笑ってうなずいた。
「うむ。クラフトよ、せっかくだ。海中世界を大いに楽しんでくるといい」
「そうするけどさぁ。ふぅ……どうにかなったか……あー、緊張した!」
そう叫ぶと、周囲からは笑いがこぼれ、同時に盛大な拍手が送られた。いや、照れる照れる。もうやめてくれ。
「クラフト……ありがと、あんたが居なきゃ本当にダメだったわ」
「それが仕事だからな。俺はこれでも職人だ、自分の仕事には責任を持つさ」
さて、ウェンディ族の里には、どんなお宝があるのか……気になる所だ。
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