第14話
「波を発生させる……宝玉が壊れた?」
そりゃ大事そうだが……俺にはいまいちピンと来なかった。その様子を見て呆れたシフィが説明してくれる。
「いい、クラフト。波が消えたらどうなると思う?」
「泳ぎやすくなるんじゃないか?」
「馬鹿ね、地上にいる私達にも影響があるのよ。まず、風が無くなるわ。湿った風も吹かなければ、雨が降らなくなって作物が育たなくなるわ」
「どえらい事だな……。でも、どうして俺なんかにその重大な仕事を?」
俺が尋ねると、ウェンディ族の少女はフンと鼻を鳴らして俺を睨み付ける。
「あんた、『レジェンド・クラフト』らしいじゃない。ドラゴンシリーズの何かを倒すアイテムを開発したとか、致死性の毒を消す万能薬を作ったとか……どれもこれもおとぎ話みたいだけど」
「似たような事はしたけどな。誰から聞いたんだよ、そんなこと」
まさか海の底まで噂が広がっているとは考えづらいけど……。
「私ですよー」
「うおぉっ!?」
と、にゅっと出てきたのはリリアだった。また一般人の服装をして……さては城から抜け出してきたな。
「スイちゃんは私の昔からの友達なんです。ですので、こそっと……すみません」
「もうっ、リリア。スイちゃんはやめてよね。あたしはスイミスアウト・ウィンデーネ。誇り高きウィンデーネ様の名を継ぐ巫女なのよ?」
「ならスイちゃんもわたしには敬語を使わないといけませんよ? 立場は似たようなものなんですから」
絡み合う二人を見て、俺はこれは良いものだ――ではなく、スイ、なんとかの立場を理解した。
「それじゃ、早速海の中へ招待してくれるのか?」
「さっきの話を聞くとそうしてあげたいとこだけど……ウェンディ族は男出入り禁止なの。女人の国なのよ」
「その生態についてもすごく興味はあるけど、それじゃ直しにいけないぜ?」
というと、スイは懐から仄かに蒼く光る勾玉を取り出した。
「問題ないわ。ここに持ってきてるもん」
「おまっ……大丈夫なのかよ。そんな大事そうなもんを持ち出して……」
「あたしはこの水の宝玉を管理する巫女よ。里の誰も直せないなら、外に持ち出すしかないじゃないっ……!」
その悲痛な声に、部外者である俺からはこれ以上何も言えなかった。これはあくまで仕事。単純に注文をこなすのみ……で、いいのだろうか。
「とりあえず見せてもらえるか? そもそも俺に扱えないものじゃ仕方ない」
「そうね。大切にしてよね。これ壊れちゃったら本当に里に帰れない……どころか、世界が滅んじゃうんだから。冗談じゃなく」
怖いことを言う……だけど、ものを大事にしない『合成師』は存在しない。他に『合成師』がいるかどうかは別として。
「さてと、拝見しますと……」
○???:水の宝玉
・耐久値:12/???
・『永劫の魔力』
・『水を廻す』
・『全知全能』
・『命の灯火』
・『千変万化』
・『大エリキシル』
○
「……完全に修復すんのは無理だな。また数千年続く同じ性能のモノを再現しろってのは不可能だ」
「でしょ。そもそもが古いものだから、誰にも使えないの。そこに干渉できるのが巫女であるあたしだけだったの。だったのに……っ」
ここで無理だと言ってしまうのは簡単だ。だけど、それはあまりにあんまりだろう。
「もう一度確認するけど……今水の宝玉がもたらしてる恩恵ってのは『尽きること無い魔力』と『何でも可能にする素材』の二つだよな?」
「そうね。ここに在るだけで世界中の自然をコントロールする上に、そのための水流を発する魔力が必要になるわ」
なるほど。なら……最適化するなら、そこだけでいいんじゃないか?
「なあ、もうこの石はもうダメだ。だけど、完全に壊れる前に出来る事がある。それは『合成』だ。俺にゃ同じものは作れねえ。でも、似たような性能の何かに変えることはできる」
「……本当に? ウェンディ族は、誇りを守り抜く事ができるの? あたしは……自然の守り手の、最後にして最低の巫女にならなくて、すむの?」
「約束する。もし失敗したら、この場で俺の首を刎ねて結構」
そして視線はスイに集まり、彼女は覚悟を決めたようにうなずいた。
「リリア、『冷徹』の素材……そうだな、角を一本持ってきてもらえるか? あれは一応俺の物だろう」
「良いですよ。あんなもの、他の誰にあげてもまさに宝の持ち腐れですし、どうせなら全部使っていただいた方が後処理もしやすくなるんですけど……」
ごめんて。
◇
俺はリリアから素材を受け取り……水の宝玉に『合成』した。そして出来上がったものを見て……これで理解してもらえなきゃ大人しく殺されるしかないな、と笑みをこぼした。
○NR:劣化した 水の宝玉
・耐久値:976000/976000
・『潤沢なる魔力』
・『自動回復』
・『凝縮』
・『万物の基礎』
・『エリクサー』
○
そこに出来上がったのは、先ほどまでの赤い石ではなく真っ白な別物……しかも、俺にさえ分析できないレアリティのものからNRに下げてしまった。
「これでもうNR素材だから、誰でもメンテナンス可能だろう。定期的に耐久値を回復させてやればもう壊れたりしないはずだ。何でもできる完全なる物質じゃなくなっちまったけど……一つの物質で全てを解決しようとするから困るんだよ」
「これは、考えたわね。確かに、NRのアイテムなら誰にだって使えるでしょうし――」
と、その瞬間。
――ウェンディ族が攻めてきたぞおおおぉぉ!!
嫌な報告が、町のざわめきに紛れて聞こえてきた。まあ、もうやってしまった事は仕方ない……俺も、腹をくくるか。
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