第13話
「よっしゃ、SRのアクセサリー出た!」
今日は今日とて魔物狩りのお時間。ただし、その成果は今までを凌駕する。それは、シフィに教わった魔法のおかげだ。
そのシフィから、パチパチと拍手が送られる。
「運が良いわね。中々上手くなったじゃない」
「まだ慣れねえけどな。魔物の死体が直接武器になるなんて、聞いたことないぜ」
そう、シフィが言っていた報酬とは、魔物を殺せば時折装備が直接ドロップする魔法……『ランダムドロップ』の事だったのだ。
今までは素材を剥いで『合成』していたが、これなら継続戦闘にも耐えうるし、何よりワクワクする。
そして、今出たのはこれだ。
○SR:夢魔の 無慈悲な 指輪
・アイテムレベル:34
・耐久値:270/270
・要STR:37・DEX:67
・魔法ダメージ追加;107~123
・纏う(魔属性)
・『夢渡り』
○
「アイテムレベル……こんな概念があったんだな」
「そうね。私も初めて知ったわ。こんな物好き魔法を欲しがる人間なんていなかったから。さっきも説明したけれど、『ランダムドロップ』は強い魔物を殺せば殺すほど良いものが出るわ。かといって、弱い魔物から強い装備が出ないかと言われればそうでもない所が難儀ね……とにかく、本当に規則性がないのよ」
そうだな、と頭の中で整理する。ここまでやってきて、装備化した魔物は十匹に一匹くらいだった。その中でもランクはバラバラ。唯一の指標となるのがこのアイテムレベルだった。
ゴブリンからは大体10~40のアイテムレベルのものが出る。そのくらいの目安はあれど、何が落ちるか予測が付かない。
「いいじゃねえか。俺にぴったりの魔法だ」
「気に入ってもらえて何より。それにしても……ずいぶん倒したわね」
俺は言われて振り返ると、確かに結構な数の死体が転がっていた。魔物を殺すのに夢中で片付けも忘れちまってたな……。
ダンジョンじゃ勝手に死体は消え去っていくのだが、有用な素材も死体ごと消えていくために剥ぎ取り必須なのだ。
「素材剥ぎ取って、マジスティアに帰って売るかあ」
「そうね、帰りましょう。リリアも待っているでしょうしね」
「一緒に来られたらよかったのにな、国務に追われてって、お姫様も大変だよな」
「そのほとんどはクラフトのせいなのだけれどね」
何でだよ、とシフィを見返すと逆に呆れたような顔をされた。
「『冷徹』の龍を討伐した事を伏せて欲しいなんて無茶を言うからでしょう。今頃マジスティアじゃ手柄の取り合い……とは違うけれど、じゃあ誰が倒した事にするかってもめてるのでしょう」
「そんな事になってんのか……そりゃ悪い事したな。だけど、変に目立って妙な仕事押しつけられるのも嫌なんだよな」
まさにわがまま。これがグリドスからもらった権利だ。彼らの言い分通り国の危機を救ったのなら、その後処理くらいはそっちでやってくれって話だ。
「そうは言っても、知ってる人は知ってるから意味ないのだけどね。聞いたかしら? 今、軍じゃ自分達だってドラゴンシリーズを倒してやるんだって奮起する兵も少なくないらしいわよ?」
「噂程度に広まってるだけだろ? そのくらいは仕方ないさ。実際に目にした奴もいるはずだしな。公に認められなきゃこっちの勝ちだ」
一体何の勝負をしているのか俺にも分からないが、とにかく俺の自由を阻害するモノは許さないという話だ。
◇
「さあ、『レジェンド・クラフト』の開店だぜ! 装備の見直し、ランダムエンチャント、不思議な武具をお求めの奴は寄ってこい!」
そして、『ランダムドロップ』のおかげで店の経営も余計楽しくなった。素材と物々交換の装備のパラメータ調整、クズ銅貨一枚のランダムエンチャント、それに加えて魔物産という珍しい装備が並んだ事で稼ぎは一気に増えたのだ。
「クラフト、今日はまた武器が多いなあ。入荷したのかい?」
「ああ、ちょっとな。出本は企業秘密だ」
「試し切りしただけで分かるさ! これはそうそうお目にかかれるものじゃない。是非買わせてもらうよ」
商売は順調。いらないアイテムを売りさばいているこの時が一番楽しいまである。いや、楽しい瞬間はもっと沢山あるな……。
「クラフトさん、うちの武器に『合成』を頼めるか?」
「おお、鍛冶屋総会のおっちゃん。今日は何本だ?」
「ざっと五十はあるな。ったく、お前さんの店が栄えだした時には装備屋界隈は潰れちまうと思ったが、まさか協調してくるとはなぁ」
マジスティアにはマジスティアの商売がある。そのくらい俺にだって分かっている。だから、帝国の武具をもっと質のよいものにするために、とこちらの商売の邪魔をしない事を条件に帝都で武具を売っている店には無償で『合成』する事にしたのだ。
……ただし、『レジェンド・クラフト』の銘入りで。ま、こっちも商売だ。売名くらい許してくれないとな。
「それで、売れ行きはどうなんだ?」
「おう、帝都全体で見ても先月の三倍にはなったな。耳の早え奴らは帝都の武器は質が良いって海の向こうから来るくらいだ」
「そりゃよかった。俺には金持ち相手の商売は無理だからな。多くの人に行き渡るのは嬉しいよ」
「ちっ……これでマージンも要求しないんだもんな。店を開いてるからには何か目的があるんじゃねえのか? それは稼ぐ事じゃねえのか?」
言われて、しばし考える。そうだな……どう返そうか。
「おっちゃん達みたいに仕事一本じゃ生きていけねえだけだよ。店を開いてんのは、楽しく皆と交流して、終わったら美味い酒を飲んで寝るためさ」
「くそが……欲のねえ奴だぜ。あーあー、オレもお前さんみたいな魔法が使えりゃなあ」
「何言ってんだよ、おっちゃん達の武具は素晴らしいぜ。どんなに良い素材があっても肝心の武器がゴミじゃどうしようもねえ。そのための職人だろ」
おっちゃんはまた溜息交じりに頭をガリガリとかいて、「頼んだぞ」と言い置いて去って行った。
愛想の悪い人だけど、いい人な事は仕事ぶりを見れば分かる。
俺の商売は、いわば貧乏人に向けたものだ。どうせなら高くて良いものを欲しがる連中は数知れない。そこに、こんな広場の端っこでやってる『合成屋』なんかには寄りつかない。
だからこそ、おっちゃん達みたいな伝手が必要なのだ。
「クラフト、私からも訊くけれど……なら、どうしてお店なんて開いたのよ? 自分の腕を認めさせたいなら配ればいい話じゃない」
「その方が面白えから。必死に稼いだ金を、俺の『合成』に使ってくれるんだぜ? こんなに嬉しい事があるかよ」
結局は、楽しいか楽しくないか。それだけの話なのだけど。
「……あのぅ、『レジェンド・クラフト』ってここで合ってる?」
そんな俺に話しかけてくる、雪山の風のように透き通った声。油断していたら心地良く眠ってしまうだろう優しい声。
「ねえ、違った?」
「あっ……悪い悪い。『合成屋』ならここで合ってるぜ。何か用か?」
そこに立っていたのは、水色が差した肌をした幼く見える少女。だけど、感じる雰囲気は俺なんかよりも年上のそれだ。
「ウェンディ族ね。陸上で見かけるのは珍しいわ」
「へえ、君がウェンディ族! いつかお目にかかりたいと思ってたもんだ」
「あら、どうして?」
「ウェンディ族には海中で生活する独自の特性があるんだろ? なら、海底に沈んだアイテムも採ってきてくれそうじゃねえか。いや、何なら俺を連れて泳いでもらって――」
と、そこで彼女が客である事を思い出して夢を馳せるのをやめた。
「えーと、それで、今回のご用件は?」
「ちょっと直して欲しいアイテムがあるの。報酬ならいくらでも払う……って言いたいとこだけど、あんたの求めるものは金じゃないんでしょ? なら、海中案内でも何でもしてあげるから、お願いできない?」
ほう、珍しい注文が来たもんだ。だけど、本当に海の中まで探索できるなら願ってもない話だ。
「詳しい話を聞こうか。店はもう閉じちまうからさ」
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