第11話

 ――FYOAAAA!!!


 再び咆吼を挙げた『冷徹』は、何かに怒るように一直線に向かってくる。ドラゴンシリーズだろうが何だろうが、やはり思考回路は魔物だ。


 だが、むやみにあのダンジョンを破壊するような攻撃はしてこない。代わりに、その立派な尻尾を振り回してきた。真上から来る強大な破壊。


「くっ……耐えろ!」


 俺は逃げず、鎧だけを頼りに受け止めた。俺が作った鎧だ、それを信じなければウソだろ――!?


 そんな淡い思いは一瞬の事。鎧は完膚なきまでに破壊され、俺は氷の壁に叩きつけられた。


 だが……鎧がなければ即死だった。体にもダメージは残るが、動けないほどじゃない。


「お、っせえんだよ。ドン亀が!」


 俺の靴には移動速度10%アップがついている。たかが10%と侮るなかれ。歩きが駆け足程度になるのなら……全力で走った時の速度は想像を超える。


 その後も幾度と振るわれる尻尾と爪の連撃を俺は隙間を通るように駆け抜ける。


 やはり、思った通りだ。大型なせいで動きは鈍重。長距離飛行の移動速度と戦闘中の反射速度は違うのだ。


 そうは言っても、反撃しない事にはな……。


「根元は大抵脆いだろ……『薙ぎ払い』!」


 俺は尻尾の根元めがけて槍を振るうが、大岩でも叩いたかのような感触で弾かれた。


 だめだ、この雑魚専武器じゃ通じない。なら……。


「リリア、信じるぜ」


 灼熱の属性を持ったナイフ、これしかない。しかし、耐久値は僅かだ。急所に一発入れるくらいしないと……。


 と、その時『冷徹』の口元が光るのが見えた。あれは……ブレスか? なら、好都合。


 発射された全てを凍てつかせようとするブレスを、俺は槍で受け止め『合成』した。


 ○SSR:氷爪

・物理ダメージ:245~270

・要:INT280・STR120・MAG360

・氷属性

・氷ダメージ:689~780

・耐久値:156/156

・『凍らぬもの無し』

・多段攻撃

・粉砕ダメージ+78%

 ○


 こいつは……凄まじいな。だが残念。俺に魔法の才能はない。こんなもの、装備した所でまともに扱えやしない。


 なら、またNRに『合成』するか……いや、もう一つ手はある。というか、そんな余裕を与えてくれる相手じゃない。


「狙うなら首だよな……頼むぜ、『投擲』!」


 それは一見なんでもないスキル。だが、『合成師』の俺が使うと少しだけ効果が違う。


 俺は武器を投げる事で耐久値を大きく減少させる代わりに、要求ステータスを満たしていなくても完璧なダメージを与える事ができるのだ。


 『冷徹』の首元に命中した氷爪はぴしりとヒビを入れた。よし、やっぱり通じる!


 ――FIIIIAAAA!!


 そして同時に、『冷徹』の逆鱗に触れたか、さらに攻撃は激化する。俺は氷爪を拾い上げて逃げ回りながら――といきたい所だったが、あまりにリーチが違いすぎた。


 腕にまでびっしりと生えた氷の角が鎧を失った俺の胸元を大きく切り裂く。


「ぐっ……あああぁ!」


 しかも、傷口からピキピキと凍っていく始末。なるほど、なるほど。これがドラゴンシリーズの力!


「凍ったって事は……死んだって事だよなぁ!?」


 俺は赫灼のナイフを自分の体に突き刺した。すると、凄まじい炎と共に俺の傷口は完全に焼き塞がった。これでひとまず死ぬことはない――今過ぎには、な。


 しかし、確信する。これなら『冷徹』にさえ通用すると。


「おらああぁ!」


 俺はがむしゃらに、何度も何度も氷爪を『冷徹』の首元めがけて投げつける。すると、ようやくそのヒビが首回りを覆い、『冷徹』がひるむのが霞む視界で見えた。


 俺はこれで最後だと力を振り絞り、懐に飛び上がるとナイフを構えてただ一閃。


「トドメだ――『赫灼』!」


 ダンジョンごと吹き飛ばしたのではないかと思う爆風と冷え切った全身を灼く力。


 もう限界だ。これ以上はないぞ……。


 そう思った瞬間、ずるりと『冷徹』の頭がズレるのが見えた。首を失ってもなお動けるようなら……と思ったが、それは杞憂だったようだ。


 轟音を立てながら倒れ込んだ『冷徹』を後ろ目に、俺もまた氷結の大地に倒れ込んだ。


 視界を埋めるのは、ただただ氷に染み込む鮮血。俺も戦闘中で気付かなかったが、ずいぶんダメージを受けていたらしい。


「あー……俺、死ぬか?」


 そう呟いた瞬間、崖上から大声がした。


「クラフト殿を助けよ! ドラゴンシリーズが相手とて……」

「あ、あのグリドス様。あそこで倒れているのが……『冷徹』でありますか?」

「ま、まさか勝ったのか……『冷徹』のドラゴン相手に、たった一人で!?」


 ああ、グリドスか……あいつが来たなら、まあ後処理は大丈夫か。


「クラフト様、クラフト様っ! 聞こえますか? 私です、リリアです!」

「……俺と都市一つ。どっちが大事か考えろって言わなかったか?」

「考えた結果……どちらも助けたいと、そう思ったのです。望みのためなら取れる手は全て取る。そうでしょう?」


 なるほど、俺の悪知恵も感染していくらしい。


「何のんきにしゃべってんのよ。こんな傷を焼き塞ぐなんて……もう数分もしないうちに死ぬわよ」


 そして、シフィの声も。何だよ、結局皆来たのかよ……。


「リリア、私の言うとおりに詠唱して。ただし、魔力が途中で切れたらあなたも死ぬわよ。それでもいい?」

「クラフト様を助けられるなら……!」

「国宝級の魔法よ。とっておきなんだから、あなたの馬鹿みたいな魔力を信じて、心して唱えなさい――!」


 そんなもの……簡単に教えていいのかよ。


「クラフトが死ぬくらいなら、何でもするに決まってるじゃない!」


 そう心中で語ったはずだったが、シフィにも聞こえたいたようだ。人間弱ってると、優しくしてもらえるもんだなあ……。


 そんな重いを胸に、優しいぬくもりに包まれながら俺は意識を落とした。

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