第10話
「ここが帝国のダンジョンか……って、どんだけ種類あんだよ!?」
その日俺が訪れたのは、ダンジョン……の、案内所だった。いつもと髪型も服装も違うリリアと、いつも通り眠たそうなシフィを連れてやってきたのだが……。
近辺のダンジョンだけでも数十はあるのだった。しかも、どこが『前回』どれほどの難易度でボスがどうだったとかまで詳しく案内されてある。
もちろん、活性化し直したダンジョンに定石は通じない。だが、目安になるのは確かだ。
「こいつは冒険のしがいがあるなあ……」
「そうですねっ。わたし、ダンジョンなんて初めてです!」
「……その前に、何でリリアはそんな格好してるんだ?」
キャップを被ってワンピースから活動的な、言ってしまえば町娘のような姿になったリリアにそう尋ねる。
「事情があるんですよ。もしわたしがダンジョンに来てるなんて知られたら、大変な事になっちぃます」
「ふぅん……ま、いいけどさ。それで、少しは魔法を教わったのか?」
俺はシフィに目線を送ると、シフィはああ、と思い出したように言った。
「基礎はできていたから、使えそうなのをいくつか教えておいたわよ。私自身が使えるわけでもないのに……飲み込みが早いのね」
「シフィが丁寧に教えてくれたからですよ。わたしの知るどの指導者よりも完璧な説明でした!」
「私は知っている事を教える魔道書だもの。人間ってやっぱりすごいのね……いえ、リリアがすごいのかしら」
どうやら、俺の知らない間にこの二人も仲良くなったらしい。まあ、それは何よりだけど……。
「じゃあまあ、装備の点検でもしておくか。冒険者においては欠かせない準備だぜ」
「ちなみに、今はどういった装備なのですか?」
「うーん、大したものは着てないな……」
今の武具で目立ったものは、こんな感じだ。もちろん、ただの手袋やズボンなんかは省く。着てないわけじゃない。
○NR:十本目のパルチザン
・物理ダメージ120~163
・耐久値:337/340
・アタックスピード+30%
・魔法ダメージ(炎)+20
・重撃ダメージ+30%
・『薙ぎ払い』
○
○NR:鉄の衣
・アーマー58
・耐久値:590/590
・耐斬撃+60
・耐衝撃+32
・レジスト(炎)(氷)+10%
○
○NR:豪胆な レリックシューズ
・アーマー23
・耐久値:208/227
・移動速度10%アップ
・STR 3
○
まあ、ぱっと見は大した装備じゃないけど……今の手持ちじゃ理想的なものだ。
まず『薙ぎ払い』だが、戦士が数年修行してようやく会得するものだ。それをこの武器を持っただけで発動できるというぶっ壊れ性能。
諸々のバフもかかって、大抵の雑魚なら広範囲で狩れる事は実証済み。
他は、靴にSTRアップがついてるために力の底上げになっている事も確かだ。ただ歩くだけで駆け足程度になるのも便利な所。
だがまあ、いずれ壊れてしまうもの。自分で『合成』し直してもいいが……せっかくなら、鍛冶屋とも近く顔を繋ぎたいものだ。
◇
「はあっ――! 『薙ぎ払い』!」
ザシュっと俺を囲んでいた十匹の魔物の首が刎ね飛ぶ。血は出ない。どうやらここは、氷結系魔物のダンジョンらしい。
どいつもこいつも体の芯まで凍っていて、素材を剥ぎ取るだけで一苦労だ。
「ま、ここで諦めるのは冒険者じゃないわな」
「でも、採れた素材って全部氷系ですよね? どうするんですか?」
「そこで、リリアの出番さ。炎系列の魔法は使えるだろ?」
「もちろん、教わりましたけれども……って、まさか」
そう、そのまさか。俺の『合成』は『その場にあるものとあるものを組み合わせる』というスキル。なら、武具に魔法を纏わせられない理由はない。
「そっ、そんなのズルじゃないですか!? なら、エンチャンターなんて……」
「いや……これはせいぜい一時間も保てば良い方だよ。恒久的に魔法の力を付与するエンチャンターには敵わないさ。だけど、味方から安全な状況で魔法を受け取る分には問題ない」
そう言って、俺はナイフを構えて『合成』を発動する。
「頼むぜ、リリア」
「どうなっても知りませんよ――『イヨ』!」
ボウ、と通路一帯を焼き尽くすような炎。待て待て、何だこの魔力は!? イヨはただの初級魔法のはずだろ!?
「く、クラフト様!? ごめんなさい、やっぱりわたし調節が下手で……」
「仕方ないわよ。あなたの魔力はそれだけ強力だもの」
「でも、あの炎じゃ――」
「心配いらないわ。私達のリーダーをなんだと思ってるのよ」
その通りなんだけど……少しは心配してくれないかな。
「できたぜ、とっておきの剥ぎ取りナイフだ」
「嘘、今の魔法でさえ……『合成』できたんですか?」
「言ったろ、構えてりゃ大丈夫だって」
そこで、できあがったのがこちら。
○SR:赫灼の 鋭い ヴィグレイタ
・耐久値:12/12
・斬撃ダメージ 2~9
・死体へのダメージ 980~1290
・属性;灼熱
・『焼き焦がすモノ』
○
しかし、これはまた……リリアの魔力って奴の大きさが分かるな。死体へのダメージとはいえ、四桁のダメージ数なんて見たことないぞ。
耐久値がなくなれば使えなくなるし……本当に欲しい素材を見極めないとな。今のを何度か繰り返してもいいけど、他の冒険者を巻き込んだら一大事だ。
「よしっ……剥ぎ取れた。そろそろ中間エリアか?」
「以前はそうだったみたいね。でも、活性化してからしばらく経つし、危ないんじゃないかしら?」
「そうだな、せっかくだけど帰りながら素材集めに――ッ!」
そこで、二人を突き飛ばしたのは本能的な行動だった。だが、それでいいと次の瞬間に実感する。
――FYOAAAA!!!
「なっ……クラフト様!?」
「あれは――『冷徹』の龍。ドラゴンシリーズの魔物よ! クラフト、逃げて!」
珍しく声を荒げるシフィ。その真意は、氷結よりも真っ青になったリリアの顔色を見れば分かる。
何しろ、コイツはこのダンジョンという巨大な構造物を、『真っ二つに切り裂いた』んだからな。
その亀裂の先にいる二人に、俺はせめてもの強がりで笑いかけた。
「最後に、デカブツ狩って帰る事にするわ。リリア、シフィ。ドラゴンシリーズが現れたって報告しといてくれ。すぐにダンジョンを封鎖しねえと……外に出したら何百万人死ぬか分かんねえぞ」
「そんな事したら、クラフト様も一緒に……!」
「俺一人と都市、どっちが大事かよく考えてくれよな。そんじゃ!」
俺はもう振り返らず『冷徹』へと向き直る。顔面だけで俺の二倍はあるその体躯。今の衝撃は登場のものか――俺の目の前には、いかにもな大空洞が広がっていた。
その中央に、『冷徹』は氷結さえ砕くブレスを漏らしながら鎮座する。
「……俺は、死ぬわけにはいかねえんだよ。伝説のアイテムを見つけるまではな――!」
俺は自分の背を押すようにそう叫んで、『冷徹』と対峙したのだった。
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