第3話

 一方その頃、クラフトをダンジョンで捨てて来た一行は酒場で飲み明かしていた。そのお題目は、新人歓迎会だ。


 短く刈り込んだ金髪の青年、パーティリーダーのリンネスがジョッキを掲げて口上を述べた。


「こいつがレアアイテム探しの名手、シーフのサルネだ! とびっきり腕が良くてカワイイ子を連れて来たぞ!」

「さすがだ、リンネス」

「ちょっと……私は可愛くないわけー?」


 続く戦士と魔法使い……ビックとミネザは各々の反応をする。その前に照れたような顔つきでいるのは、小綺麗な見た目をしたお化粧バッチリの少女サルネだった。


「初めまして。これからよろしくねー。SRもSSRもバンバン見つけるから、バッチリ稼げるよ! あ、これは挨拶代わりね」


 そう元気に言って、ガサゴソとバッグから剣と斧、杖を取り出してテーブルに並べた。そこには鑑定の技術がない者でも分かりやすいように性能表も付いていた。


 ○SSR:ツヴァイハンター

・物理ダメージ178~230

・要:STR140

・耐久値:532/690

・知能+195

・不意打ちダメージ+10%

・クリティカルヒット率+20%

・魔法ダメージ(万能)+35

・近接攻撃に大して8%の反撃

・『大上段』

 ○


 これは……剣としての性能は十分だが、ランダムパラメータが最適化されていない。これが『ランダムマジック』の厄介な所だ。ある程度剣らしい性能にはなるものの、使い物にならないエンチャントが付く事があるのだ。


 しかし、それでもリンネスからすればSSRというだけで感激ものだった。


「うおおお……! これがSSRの剣……すげえ性能だぜ!」

「当然です。Aランクの魔物が『ランダムマジック』して出てきたものだからね!」

「しかし……流石にちょっと重いな……」


 リンネスはその剣を持ってみて……やがて気付く。持ち上げるだけで精一杯な重量であることに。これほど重くて振ることなんてできるのか……?


 いや、今までNRの武器を使っていたからそう思うだけだろう、とリンネスは結論づけた。


「自分のステータスなんか知らんが、STR140くらいはあんだろ……あんなお荷物抱えてBランクのダンジョンまで潜ってたんだからよ」


 続いて、ビックが斧を手に取りミネザも杖を持つ。それぞれ、持った瞬間……『馴染んでいない感』を覚えたが、それがSSRの武器というものなのだろうと思うことにした。


「じゃ、明日から早速ダンジョンに潜るとして……今日はたっぷり飲もうぜ。金ならあるんだ! あいつ、こんなに溜め込んでやがったとはなあ……」

「? 何の話です?」

「い、いや……何でもねえ。そうだな、無理せずBランクのあそこに行くか」


 流石に新しいメンバーの前で、前任を殺してきた所だとは言えない。サルネはそれ以上踏み込んでこず、しかしリンネス達には聞き逃せない情報を口にした。


「一番近いBランクダンジョンは昨日ボスが倒されちゃったみたいだね。他を探すとなるとちょっと遠いかな?」

「……そう、なのか」


 一瞬、クラフトの顔が脳裏をよぎる。悪運の強いあいつなら偶然ダンジョンが安定化して生き延びてたりしないだろうな……と不安に思った。


 しかし、貴族にもギルドにも職人にも金を掴ませてクラフトの相手なんかするなと言っておいたのだ。そう心配することはないか、とジョッキの中身を空にした。


「それなら、Aランクダンジョンに挑戦してみるか? どうせならでっかく稼がねえとな! サルネの雇用費用だけで結構持って行かれちまったし……」

「そりゃ、私は特級シーフだからね。それ相応の給料はもらわないと! でも、SRをいくつか捌けば稼げる額だし、心配ないでしょー」

「むしろ、景気づけにゃちょうどいいな。ああ、邪魔者がいねえだけでこんなに晴れやかな気分になるとはな!」


 リンネス達の宴は続く。しかし、彼らは知らない。SSRとはいえ……いや、だからこそ武器だって使い手を選ぶ事を。例えば今回のツヴァイハンターで言えばSTR140くらいはないと自分を使う権利はないぞ、とそう言っていることを。


 ちなみに、リンネスのSTRは……78だった。しかし、今まで使ってきたのは装備制限のないNRの武器。自身の能力が不足している事になんか気づかなかったのだ。


 だから、どうしてクラフトがNRの武器をひたすら作り続けていたのか……苛立ちを覚えこそすれ、気にしようとさえしなかった。それが全て徒になって帰ってくることを知るのは、もう少し先の話。

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