第2話

「ふっ……!」


 出来合いのもので作ったが……この武器はなかなかのものだ。魔法使いが付加した『縛り付ける』という縄の性質を剣にエンチャントすると剣の持つ特性自体が変わる。


 茨ムチというものがあるが、あれは縛り付けた相手を軽く斬りつけるだけの捕縛、もしくは拷問道具だ。その茨が剣になれば、縛り付ける力も加わったこれはオークの斬りにくい肉も容易く切断できる。


 それを数十も繰り返せば……ひとまずの急場は凌げた。滴るほどの返り血にまみれて、血の海に浮かぶ魔物から使えそうな素材を抜き取っておいた。


 俺が求めるのは……SSRレアリティの武器なんかじゃない。そんな肩書きだけで決まるものじゃない。より優秀な、より強力な、より特異なアイテム。その先に数万年抜かれた事も無いという聖剣より強いアイテムさえもあるのだ。俺だけがそれを知っている。


「オークの斧とアンウルフの牙……これを繰り返し『合成』すりゃ、まあそこそこの武器には仕上がるか……おっ、冒険者の死体にも武器が何本か……流石は墓場だ。SR武器まであるな」


 ○SR:穿つ者

・要:INT250

・物理ダメージ130~151

・耐久値:21/760

・『神速の突き』

・止まっている間の防御力+50%

・アタックスピード+20%

・与えたダメージの6%の魔力を回復

・クリティカルヒット率+14%

 ○


 おそらく、ここに捨てられたのはまともにこの槍を使えなかったからだろうな……。近接手にINTを求めるのは酷だ。たとえ使えていたとしても、敏捷で勝負するであろうエンチャントに対して付加されている効果が噛み合っていない。


 武器というものは一目見ただけで、使い手の底が知れる。朽ち果てた死体からでも歴史を感じられる。それが俺には、愛おしいのだ。


 これらも合成する……何度も何度も、とにかくそれぞれの強みを選りすぐるように繰り返し……と、ひとまず、エンチャントの整理だな。


 ○SSR:ドームブリングの剣

・要:STR85・INT36

・物理ダメージ260~330

・耐久値:156/156

・追加ダメージ(氷)30~43

・『凍てつくもの』

・『神速の突き』

・物理スキルダメージ+45%

・体力の自動再生C

・格上への追加ダメージB

 ○


 俺だって、素材さえあればこんなものも合成できる。それを今まで発揮できなかったのは、SSRを作れと言いながら高い素材は全て飲み代に消してたあいつらのせいだ。


 だけどまあ、こんなごつい剣は俺の趣味じゃない。付加できるエンチャントは確かに優秀な数値を出すのだけど……大事なのは使いやすさだ。


 戦利品を眺めながら、俺はダンジョンの最下層を歩いていた。道中にいる魔物は今持っている剣だけで十分対処できた。Sランクの奈落に落とされなかっただけまだマシだ。武器の性能でどうにかなる範囲なら……俺に不可能はない。


 ――私を、解放しろ。


 と、その時……近くから声が聞こえた。俺は思わずその声につられて駆け出していくと……そこには天井にまで届きそうな熊型の魔物を見つけた。おそらくは、ここの階層にボスだろう。


「やるだけやってみるか……。どうせ、あいつを殺さなきゃ俺が死ぬんだ」


 早速こちらへ気付いたらしい熊はその腕を振るう。床を蹴った俺は間一髪で大熊の爪を弾くことに成功した。


「よう、お前……ずいぶん元気じゃねえか」


 二度、三度と振るわれる爪。だが、弾くので精一杯だ。どうにか腹を刺そうとするも……頑丈な筋肉に剣先すら届かずこちらが弾き飛ばされてしまう。周囲の魔物と一線を画すこの強さ……やはり、こいつがこの迷宮のボスに違いない。


 ○NR:縛るロングソード

・物理ダメージ90~115

・耐久値98/150

・斬撃強化(小)

・アタックスピード+10%

・重撃ダメージ+20%

・『縛り付ける』

 ○


 しかし、まともに受け止めてしまえばこっちの剣の方が保たないだろう。だけど、十分武器の性能で補える範囲のものでしかない。


「ドームブリングの剣、縛るロングソード……『合成』」


 俺はSSRとNRの武器をその場で合成して……こんなものを作った。


 ○NR:獣を狩るモノ

・物理ダメージ250~325

・耐久値:3/3

・斬撃強化(極大)

・アタックスピード+30%

・『神速の突き』

・重撃ダメージ+70%

・追加ダメージ(氷)30~43

・クリティカルヒット率+50%

・クリティカルダメージ+200%

・格上への追加ダメージA

 ○


 ただ一撃、この大熊を倒すためだけに作った頭の悪い一品。これ外したら……俺死ぬなあ。


「はああっ――!」


 体力の回復に努めているらしい大熊は、俺が剣を振りかぶっても動揺を見せなかった。当然だ、ついさっきまで全力の突きでも皮一枚傷つかなかったのだから。


「だけど、こいつは……さっきの一撃よりはちょいと効くぞ」


 その慢心……油断につけ込んだ俺は、尻に切っ先を突き立てた……あまりにあっさりと吸い込まれていく斬撃の感触は、まるで綿を斬っているようだった。


 そのままの勢いで、脳天まで一気に切り裂く。綺麗にぱっくりと割れた死体を見ると、血の噴水の出来上がりだ。もう爪先一つも動かない……同時に、俺の持っていた剣も弾け飛ぶように粉々になってしまった。


 そして……大熊の死体は中に浮かび、強烈な魔力を放ちながら球体へと変化していく……まさか、『ランダムマジック』か? 時折、魔物を狩った後には球体の宝箱へと進化する事がある。


 その中には優秀なポーションから強力な武器まで様々なものが入っているとされるが……その全ては名前の通りランダムだ。


 さて、何が入っているのか……。

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