華々しい動画文化を取り巻く残酷な現実とも真っ向から向き合う本作は、今という時代を切り取りつつも、時代に置き去りにされない魅力を備えている。
「配信」「VTuber」といった題材は非常に現代的だ。まずないと思われるが、10年後には廃れてしまっている文化かもしれない。
しかし、そのような未来が待ち受けていたとしても、本作の価値が廃れてしまうことはないだろう。
本作の縦軸となる「深い悔恨を抱えた男の再起」は非常に普遍的で、主題(動画文化)に慣れ親しんでいない自分のような人間にも深く突き刺さるためだ。
辛い過去と現在の先に差し込む光(カタルシス)を、是非とも多くの人に味わって頂きたい。
(note版を読ませて頂きました)
キャッチコピーに『自律AI』『Vtuber』『アイドル』と今どきのワードが並んでいると明るくハッピーな内容を連想するかもしれないけれど、実際読者がまずはじめにガッチリキャッチされるのは『物語に真剣に向き合っている作者の浮ついていない姿勢』や『展開そのものの面白さと巧みさと意外性』なのではと思う。
序盤の掴みやテンポ、社会派とも言える具体的かつ練られたテーマの提示、欲しい情報を出すタイミングなどが上手いので次、次、と読んでしまいつつ、大きな秘密が明らかになるあたりでもう読み手としては止まらなくなり、そこからラストに向けて一気に物語がドライブしていく構成が本当に凄い。
『自律AI』『Vtuber』『アイドル』『配信』『ネットでの誹謗中傷』といった素材を単なるスパイスとして使うのではなく、ガチンコで向き合って物語にまとめあげている気迫やリアルさも伝わってくる、渾身の一作。