ep.3 ◇ Vérité

8. Ange 《天使》

-共同魔法研究所-


◇◆ Ron ◆◇


何人目かの患者さんを治療したとき、患者さんから「あなたは、《天使》のようだね」と言われた。


天使……

僕の、幼稚園の時からのあだ名だ

そう呼ぶ人もまだ時々いる。



ドキッとしたのがバレたのか、顔に出ちゃってたのか、「はは、唐突にごめんよ。」とその方は笑った。

そうして、「まだ幼いのに君は心を込めて治療してくれているだろう?それが、わかるんだよ。治してくれて、ありがとう」って言われて……嬉しかった。


僕の魔法は、人の役に立てているのかな……

そう思ったら、「ありがとう」が凄く僕の胸に響いて、嬉しくて、つられて一緒に笑ってた。



……


…天使………そういえば。



エリックとフレデリックさんのことを願ったあのとき…窓が黄金色に輝いて、僕の目の前に天使みたいな、神様みたいな人が、現れたんだ



その方は暫く僕のことを見た後、僕の胸をトントンって指先で触れながらこう言った


「ふーん…卿が」


って。でも、それだけ。




その方はすごく神々しくて、綺麗な顔をしていて、この世の人とは思えない位遠い存在だけどどこか懐かしいような……不思議な人だった。



この人がゼノ様なのかなって一瞬思ったけど、多分……違う。



どこか優しそうで、何か言いたそうだったけど、ふふっと笑ったかと思ったら消えてしまった。

そうして、僕もそのまま、ふっ、と眠ってしまった。

起きたら、いつも通りの朝だった。ただ、夢で泣いたみたいだった。



多分、エリックの夢を見たから。

……天使様みたいな人のことは、誰にも話していない。



だけど……

あの方は一体何者だったのかな……

また、会えるかなぁ


……



そんなことを考えていたら、リアム先生がこの研究所へやってきた。

先生を見ると、安心する。


「遅くなってすまなかった」と、僕がまだ自分自身の《訓練》が始まっていないことに安堵してくれていた。


「遅い」ってジル室長が言った。

あんまり仲が良くなさそうな二人。

その二人の会話を、僕は次の方の治療準備をしながら聞いていた。



「……今日の《訓練》の内容は?」

「今日は前十字靭帯の再建だ」

「自分の再建もですか」

「当たり前だ」

「……怪我している人のだけで十分でしょう…!自分のをわざわざ切る必要なんて、ない」



淡々とした会話。怖い顔をした二人が話している雰囲気は、遠くにいてもちょっぴり怖くて、空気がピリッとする。



一言二言会話が続いた後、今日は自分の前十字靭帯を切る話は無しになったことが分かった。


……よかった…


安堵していたら、リアム先生に「ロン、こっちに来なさい」と呼ばれた。



今日は話があるって言っていた。《刻印》の話。



今まで何度も、先生から聞いてきた。

……僕の胸にある刻印……強すぎる魔法を制御するもの。



刻印のはたらきは、今まで教わったのは大きくわけて3つだ。



1.意図的に制限を超えて強い力を使おうとしたり、医療目的以外に使おうとすれば、刻印の力がそれを阻止して魔法は抑制されること。


2.治療内容や用途に合わせて魔力の平均出力や最大出力等細かく制限されていること。今、《検査》ではその魔法出力のデータをとってサンプルにしているということ。


3.刻印の制限を解除するには強力な魔力とコントロールを要すること。しかしそれは多くの場合 《誓約》違反に直結…つまり死に繋がるということ。



もし医療以外に使ったり、膨大な魔力を一気に解放したら誓約破棄、刻印が僕をこの世から消失させる

それはおそらく、《天に召される》のとはまた違う……本当に、消えてしまう。



そうやって制限しておかないと、僕の魔法は魔力を込めすぎると細胞を内側から破壊してしまうんだ……《細胞破砕》っていうらしい。


適切に使えば治療になるけれど、使い方を誤ると人体を破壊してしまう、恐ろしい魔法。



僕はまだ幼かったから記憶にないけど、僕はこの刻印を付される時に一度神様に会っている。これは、神様たちとの《誓約》だから



……あれ……この間会った天使みたいな神様みたいな人って、もしかしてこの時の……?いや、ちがう……その方は、僕にこの刻印があるって知らなかったような口ぶりだった



一体、誰……



考え込んでいたらリアム先生に「ロン?」と心配そうな顔をされた。

僕は「なんでもない」と言って先生の話を聞く。



……刻印は、僕が《医療》の魔法を使うから《特殊魔法》に対して特別に付されたものだ。


だけど、刻印のはたらきは今まで教えてもらっていた3つだけじゃなくて、別のはたらきもあるんだって。

それは今後ゆっくり話していくと言われたから、今日はその話なのかもしれない……と、ドキドキしていた。



そうして、リアム先生がゆっくりと話し始めた。


………


……


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