7. Frères 《兄弟》
◇◆ Eric ◆◇
兄さん……兄さん……!
兄さんは、やっぱり、冥界にいたんだ……!
僕は、冥界に来たことを後悔していない。
だって、兄さんに会えたから。
大好きだった。尊敬してたんだ。
兄さんの顔を見たら、思わず色んな感情が弾けて、胸の奥の方からとめどなく涙が溢れるようだった。
だけど、兄さんがなぜ冥界に行かなければならなかったのか…死ぬことを免れることはできなかったのか、真相を知りたかった。
僕は思い切って兄さんに尋ねる
「兄さんは、なぜ冥界に来なければならなかったの?兄さんは、この未来を知ってたんでしょ?」
兄さんは困ったような顔をしたけど、「もう、何も隠すことなんかないから、全部を話すよ」って、話してくれた。
結論から言うと、兄さんはこの未来を知っていた。
《冥界》があることも、僕が兄さんの後を追って冥界へ来ることも。
兄さんの見た未来は変えることはできないけど、それ故の僕へのちょっとした配慮に、また泣きそうになった。
兄さんは、本当は非魔術師が好きだったんだ。
だから、あえて非魔術師の学校へ進むことを選んだ。
非魔術師のことをもっとよく知りたいから。もっと、仲良くなりたかったから。
だけど、現実は辛いことも沢山あったようだ。
兄さんが魔術師だということは、最初から噂になっていたらしい。
兄さんの、
「エリックはもし、相手の未来が見えなかったら何を考える?」
…と、その言葉で察した。
未来が見えないということはすなわち存在しない…もう生きていないということだ。
優しい兄さんのことだから、「君はもう数年後には死んでるよ」なんて口が裂けても言わないだろう。
未来を見てほしいと言われて見てみたら、もう存在していなかった……だから兄さんは、魔法が下手なふりをしたのかなって、思ったんだ
そしたらみんな兄さんのことを「出来損ない」って言って馬鹿にしたんだ、って合点がいった。
『出来損ないフレデリック』……それが、非魔術師たちからの、兄さんのあだ名だったから。
兄さんは、非魔術師と仲良くなりたくて非魔術師たちの通う学校を選んだのに、そんな風に呼ばれて、僕は非魔術師がどんどん許せなくなった。
……気が付いたら、泣いていた。
兄さんは、びっくりしていた。「エリックは優しいんだな」って笑ってたけど、優しいのは兄さんの方だよ……僕は優しくなんかない。非魔術師は大嫌いだ。
だけど兄さんは別に、そんなことはどうでもよかったらしい。僕には理解できなかったけど、非魔術師にとって日常会話ってそういうものなんだって。
兄さんは、頭がよかったからそんな中でもうまくやっていけたんだろうな……。
だけど本当に驚く話はここからだった。
非魔術師と一緒に生活していると恐ろしい内容の話もよく耳にするんだって。例えば……非魔術師による、魔術師の人体実験。
魔術師は、非魔術師に比べて圧倒的に人数が少ない。
昔は多くいた魔術師は、今や存亡の危機と言われるほどの少数となってしまったんだ。
だけど特別に保護されているわけでもないし、魔術師の希少性や特殊な魔法を狙った犯罪が後を絶たず、その数は減り続けている……と、学校の授業の最初の方で習う。
だから、『非魔術師には気をつけろ』っていうことだ。
だって、魔術師は非魔術師に魔法で攻撃してはいけない、という確固たるルールがあるのに、非魔術師から魔術師を守るルールなんて、何もないのだから。
そう思うと、急に非魔術師が得体のしれないもののように感じて、背筋がぞっとした
それから……兄さんの話では、10年後、混沌の世界は激変するということ。
これは《秘密》……絶対に言ってはいけないことだから、言えないんだって。
だけどそれは、きっと兄さんの友人の未来が見えなかったことと何か関係があるんだって、僕はそう思った。
……
……だけどこれでは最初の疑問は解決していない。
なぜ、兄さんは冥界に来なければならなかったのか。
しかしそれ以上の話を、兄さんはしてくれなかった。
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