3. École élémentaire《小学校》
- 翌日……魔術師専門の小学校にて -
◇◆
予鈴の鐘が鳴っている
街の中心部にある、重厚な造りの建物。
聖堂のような見た目をしたここは、魔術師専門の小学校だ。
みんな今朝のニュースの話をしている。昨日の魔力が弾けた感じ……やっぱりあれは気のせいじゃなかったようだ。
魔術師は、子供であっても魔力には敏感だ。
だから昨夜の魔力が弾けたような、揺らいだような感覚は、多くの者が感じていたらしい。
……そう、俺たち魔術師は、魔力を裡に秘めている。それぞれ、変わった魔力を。
そんな魔力を持った子供は皆6歳になる年から5年間、ここに通う。俺たちはもうすぐ3年生になる。
ここでは、義務教育に加えて基本的な魔法の使い方を学ぶ。
基本的な魔法は火・水・風等の自然を操る魔法のほかに、物体を遠隔で操作する魔法のことを指す。
だけど俺たちが使う魔法は、この『基本魔法』に加えて一人一人変わった魔法、『特殊魔法』がある。この特殊魔法は、誰がどんな魔法を使えるのか詳細まではお互い知らないし、教えちゃいけないことになっている。
でも、普段生活していれば、なんとなくどんな魔法を使えるのか、分かったりもする。もちろん、それが全部ではないんだけどさ。
有名なのが、鍛冶屋のアンリさんの『créer tout』…『すべてを創造する』魔法。
その魔法のおかげで、今のこの町はこんなにも早く、きれいに復興されたっていう話はこの町の人なら誰でも知ってる。災害前の街並みをそのまま再現したみたいだとも言われている。
だけど今もほかの町の復興に忙しいようで、殆どこの町にはいない。
それからお医者さんのリアム先生も有名。なんでも治してくれる、凄い先生なんだ。
そんなわけで、程度の差はあるけど、小学生になると日常のちょっとしたことを魔法で行っちゃう、なんてことはよく見かける。
脱いだ靴を靴箱に入れるのだって、高いところにあるものを取ることだって、みんな魔法だ。魔法って、便利。
そんな便利な魔法だけなら良かったんだけど。
……あ、来た来た。
遠目から見ても真っ白なあいつはロンだ。
透き通るほど真っ白な肌に、銀髪がかった真っ白な細くてサラサラとした短髪。
長い睫毛も、形のいい眉も、全部真っ白。
あいつの色素は瞳にしかないんじゃないかと思わせるほどに今日も白い。
そんなロンの目はぱっちりとしたタレ目で、瞳は薄い金色をしている。
少し急ぎ気味にぱたぱたと自分の机について鞄の中をしまっているロンの元へ行って、話しかけた。
「おはよ。お前がこんなに時間ギリギリなんて珍しいなー。なぁロン、今朝のニュース見た?」
「ノア、おはよう。見たよ。ノアも昨日、すごい魔力、感じた?」
「やっぱりどっかで魔力が爆発した感じだったよな。あれ、一体なんだったんだ??あれは……神様の力なのかな」
俺たち魔術師にとって神様とは、この世の全てを知っているといわれる神様……ゼノ様。
ゼノ様は《魔法を司る神様》とも言われていて、魔術師はゼノ様に与えられた魔力によって魔法を使うことができるのだと、魔法を会得した時からずっとそう教えられて育つ。
「どうかな……誰かが神様に召されたって、それだけだったね。」
今朝のニュース……それは、魔術師の一人が魔法事故により天に召された、という、かなりざっくりとした内容のニュースだ。だけど、人が亡くなる程の重大なニュースであるにも関わらず一切の詳細は不明。
意図的に隠しているのか、本当に詳細がわからないのか、魔術師に関するニュースはいつもこうだ。
「神様かぁ。ロンは神様って、どんなお姿だと思う?」
「うーん。ひげもじゃ?」
「なんだよそれ~」
「じゃあ絶世の美男子」
「うーん……どっちもやだなぁ」
「あっはは」
楽しそうに笑うロン。
ゼノ様の話は至るところで耳にするけど、誰もゼノ様を見たことがない。抽象画や像を作るのも禁止されているから、誰もイメージすら分からない。
1万年以上昔からいるらしいとか、本当はいないとか、実はゼノ様の子孫がゼノ様の役を担っているとか、色んな噂を聞くけど本当のところは誰にも分からない。ゼノ様の基準も全てが分かっているわけでもないし、時に天に召されるのに魔法用途の善悪なんて関係ないとも聞く。
「そういえば、エリック見なかった?あいつ今まで休んでるのなんか、見たことなかったんだけど」
「エリック……」
ロンはしばし逡巡したような顔をしていたが、別の友人が「エリック、今日お休みだってー」って教えてくれた。
エリックは幼稚園の頃から一度も休んだことのない皆勤賞なのにね、ってみんな話してた。
「……今朝のニュースのことと関係あったりするのかな?」
「……エリックは、」
「おーーーい、全員今から礼拝堂集合だってーーー!」
日直の声で教室がざわざわし始めた。みんな今朝のニュースの話で持ち切りだった。ノアは、何か言いたげな顔をしている。
「……大丈夫だといいな」
ロンの口からぽつりと出た言葉は、何か含んだような言い方だった。
だけど、これ以上問うことは、何もない。
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