◆Ave Maria◆
はる❀
Épisode 1 ◆AMI D’ENFANCE 《幼馴染》
ep.1 ◇ Prologue
1. Prologue《序章》
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" Ave Maria "
どうか、僕を兄さんに会わせてください
僕は、大好きな兄さんがいれば、それでよかったんだ
―エリック
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―― Prologue ――
この世界は混沌に満ちている。
終焉のような、はじまりのような、正に《カオス》
生者と死者、さらに魔法を使う《魔術師》と使えない《非魔術師》が混然一体となってこの世界に存在している。
生者からは死者は見えないし、魔術師と非魔術師は分け隔てなく共に暮らしている。
……一見すれば普通の世界となんら変わらない。
相違があるとすればそれは、絶対的な神がこの世界を支配している点だろう。
本来3つに分かれているはずの世界も、うまく機能していない。
舞台はフランス・パリ。
中世ヨーロッパの街並みが色濃く残るこの町は、花が香り、重厚な歴史的建造物が荘厳と立ち並ぶ、美しい街だ。穏やかな西岸海洋性気候は過ごしやすく、季節の移ろいを感じることのできる、素晴らしい気候ともいえる。
だがこの町をはじめ、世界は8年前に一度半壊している
……
8年前
混沌の世界を一からやり直すためか、はたまた別の目的か
神々は前代未聞の天災を引き起こした。
それは、天地のひっくり返るような大地震に絶え間ない雷鳴
さらに海は怒り地は裂け、まさに天変地異の如き大災害
中心部となる街は全壊
死傷者、行方不明者多数
しかし……それはある時急に、ぴたりとやんだ。
神々は祝福したのだ
「混沌の世界は、間もなく終わりを告げるだろう」と
しかしそんなことを、人々は知る由もない。
―― 天変地異から8年・現在 ――
天変地異から8年経った現在、非魔術師と魔術師たちが協力し、中心となった街をはじめ都市部は大分復興が進んできた。
しかしこの世界は未だに生者も死者も、魔術師も非魔術師も、一緒の世界に存在する混沌の世界。混沌は混沌のまま、神はこの世界をリセットしなかったらしい。
しかしそれは、『神は《マリア》を見つけたからなのではないか』と、実しやかに噂されていた。
《マリア》……それは、『この世界をきちんとあるべき姿に導いてくれる者』として大昔の大予言者が残した者の名称だ。だがその一切は不明。
なぜなら、その大予言は何千年も前のものだとすら言われているからだ。
《神》や《マリア》の正体とは
そしてこの混沌の世界はどうなってしまうのか
……
神が支配する残酷な世界に、救いはあるのか
……
…
◆◇◆
- 現在・パリ郊外 -
…
……
「……エリックから手を離せ」
「……兄さん……」
「お前たちの計画は知ってる。……そしてエリックにまで手を出そうとしたな……!俺は……っ、お前たちを許さない」
兄さんの怒りに満ちた、しかし昏く冷静な眼差しは、僕を掴んだ2人の非魔術師の男たちを真っ直ぐに見た。……そう、僕は、非魔術師の男2人に捕らわれている。
なんでこんなことになったのか。
それは20分ほど前にさかのぼる。
……
僕は魔術師で、その《検査》の帰り道を兄さんと一緒に歩いていた。今は7月。夏に差し掛かっていて随分日は伸びていたけれど今日は《検査》に時間がかかってしまった。既に日は落ちて辺りは暗い薄闇が広がっている。だから兄さんが僕を迎えに来てくれてたんだ。僕はまだ小学生だから夜道を1人では危ないと言って。一緒に歩く道端にある公園は、いつもよりも闇が深く見えた。木々はうっそうと茂り、いつもと変わらない公園なのになんとなく気味が悪い。
そんな公園に差し掛かった時だった。公園にある噴水の向こうから男の人が2人、兄さんの名前を呼んでいた。
最初は兄さんの知り合いかと思ったんだ。兄は、彼らは非魔術師だと言った。だけど何やら話している内容の雲行きが怪しい。
僕たち魔術師が使う《特殊魔法》はこの世界の《秘密》と関係があるとか。
8年前の大災害は《神》が引き起こしたもので、僕たち魔術師と神は何か密接な関係があるとか、ないとか。
僕たち魔術師に、実験に協力してほしいとか、なんとか。
……最後の実験の話は怪しすぎるでしょ!!
兄さんもその話を聞いた途端彼らを警戒した。
……けど、遅かったんだ。彼らは元から僕たちを狙っていた。
「君たち、《 特殊魔法 》使えるよね」と
僕たち魔術師も、全員が全員 《特殊魔法》を使えるわけじゃないんだ。《基本魔法》と《特殊魔法》は全くの別物で、この《特殊魔法》は個性みたいなものだから1人ずつ違った魔法を持っている。
……気づいたときには僕は男の一人に腕をつかまれていた。そうして、その後ろからもう一人……。
ぞっとした。彼らは2人組だと思ってたけど、実は4人いたんだ。
……そうして、冒頭に戻る。
「エリックから手を離せ」と。
兄さんの言ってた《計画》って、なんのことなんだろう……
「なに、ちょっと話を聞きたかっただけじゃないか。魔術師の秘密……《特殊魔法》について」
……そう言いながらも僕を掴む男の手には力が込められる。そうして男は続ける。
「《特殊魔法》には、この世界の構造の鍵を握る秘密が隠されていると言うが《マリア》とも関係があるんだろう」
それを聞いて臨戦態勢をとる兄。これは……魔法の詠唱を省く時の態勢だ。
だけどなんで……この人たちは何者なの……??
「おっと、下手な真似はやめた方がいいぞ。魔術師は俺たちに攻撃できないことなんか知ってんだよ……!……動くなよ、動けばこいつが……」と僕の後ろで喋る男の声。
だけど、何を言っているのかも、何を取り出したのかも何もかもどうでもいい
兄さんがこの非魔術師たちに魔法を使ってしまうことの方が問題なんだ
「兄さん、やめて、非魔術師を攻撃なんてしたら兄さんは天に召されてしまう……!」
それは……神様の絶対的なルールだから……
兄さんが、ねぇ……っ、なんで……話し合いじゃどうにもならないの……?
魔法は絶対にダメだよ……っ!
兄と対峙した非魔術師の男の1人が、僕をとらえた男に向かって「連れていけ」と言った。
「離して!」と抵抗するもむなしく、そのままずるずると闇の方へ連れていかれるかと思ったその時、兄の声が僕の耳に届いた。
「基本魔法……」
「兄さん、ダメだってば!!!」
「『
「……っ!!!」
……一瞬、眩い光に目を閉じる。
と同時に背後にバシャッと冷たい水を感じた。魔術師たちに集中的な水を降らせたのだ。
兄さん……どうして……
「うっわ、なんだこれ!」
「ただ濡れただけだろ気にすんな!」
一瞬、大量の水に気を取られた男たちが僕を離した瞬間、立て続けに魔法を使う兄
「……『
全身びしょぬれになった男たちは濡れた部分から瞬時に凍っていった。僕はその隙に逃げて兄の後ろに隠れる。
だけど……!
「兄さん本当に魔法を使うなんて……っ……!」
「エリックを離せと言ったのに聞かないからだ。……お前たち、これ以上関わると言うなら今度は『
「……兄さん!!!!!」
「……な、んだよ、こい、つ……!」
「くっ……そ、魔法……なん、か……っ」
男たちは凍ってしまってうまくしゃべれない様子だ。
だが彼らを無視して警察に電話をする兄。
夏とはいえ、きっと体温の低下も著しいのだろう……だんだんと顔色が悪くなってきたように見えた僕は少しだけ心配になったけど、兄もわかっていたようだった。
「『……
兄さんの魔法解除と共に男たちは倒れ込んだ。遠くからはパトカーのサイレンも聞こえ始めている。
そのまま彼らは「お前なんか天に召されちまえ!」とか悪態をつきながらも、よろめきながら走り去っていった。
だけど……、だけど……!!!
「エリック、ごめんな怖かっただろう……。エリックは、俺みたいにはなったらダメだぞ」
「兄さん!!!」
「大丈夫、先ほど警察には連絡したから」
「……っ、そうじゃ……なくて……っ!なんで……?なんで魔法なんか使ったの……?」
そう言葉にして、ひとつの結論にたどり着く。
……僕のせいだ。
僕が、あいつらに捕まったりしたから
非魔術師なんか……っ
兄さんの体が、光り始める
兄さんは僕を見て「エリックのせいじゃないよ」と言った。
そうして「エリックが無事で、良かった」と
……
……っ…
……兄さん……
……これはルール……神の定めた、絶対的なルール
僕たち魔術師は、いかなる理由でも非魔術師に魔法で攻撃しては、ならない。
……例えそれが、正当防衛だったとしても……ルールに背けば僕たち魔術師は神様によって《天に召されて》しまう。
「エリック」
「……っ、兄さん……っ」
気がつくとボロボロと涙が落ちていた。
「エリック、『 』」
「……っ!」
「エリック、覚えておいて。そうして、お前の力で俺の伝えたかったことを、見つけて」
光が強くなる
兄さん……っ
「兄さん!!!!!」
「エリック、元気でな」
「……っ、兄さん、いやだよ、天に召されるなんて……っ、お願い、行かないでよ!!!」
「エリック、・・・・・……。」
「兄さんーーーーーっ!!!!!」
視界が真っ白になって、そして……風が吹き抜けると共に魔力が弾けた。
兄さんは、兄さん、は、……、天に、召されたんだ……
真っ白な光が収束した時には、兄さんは目を閉じてそして……もう、息を、していなかった。
視界がゆがんで兄さんの安らかな顔がよく見えない
これが……天に召されると、いう、こ、と……
「あ、あ……、ああ……、う……っ、うわああああああああああっっっ!!!!!」
エリックイメージイラスト⬇️
https://kakuyomu.jp/users/Haru_AveMaria/news/16818093089058959445
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