音楽評論誌『王都カランカオーの風に乗せて』156号(5月16日刊行)
(ヘッドラインニュース)
『夢の競演!「ダナベーの奇跡」再臨、そして「ウェンディマールの至宝」四ヶ月ぶりのポリッツメアホール帰還!』
サレンジア伯爵スタンニスラウさまが病で休養してから、WRSOでの客演活動も一時中断しました。最近になってやっと治療官の許可が下りて、ポリッツメアホールへの帰還を果たしました。5月15日の夜に、久しぶりにウェンディマールを訪問する「ダナベーの奇跡」アンニースカさまと同じステージに臨みました。
前半の曲目はブラームスの『悲劇的序曲』とメンデルスゾーンの『バイオリン協奏曲』。アンニースカさまは音楽界のレジェンドの一人、バイオリニストと指揮者としてアキエタニアで長きに亘り活躍してきました。今回はスタンニスラウさまと同じステージに出ましたが、二人は共演していません。スタンニスラウさまはまだフルコンサートを指揮することが許されていないので、『悲劇的序曲』を演奏したら一旦ステージ裏に戻り、『バイオリン協奏曲』はアンニースカさまがソリスト兼指揮者で演奏しました。老成円熟した技で楽器を奏でながらオーケストラを完璧に操り、業界を五十年間君臨した王者の貫禄をお見せしました。
後半は十分な休息を取ったスタンニスラウさまによるシューマンの『交響曲第四番』。いつもながらの派手でパワフル、大迫力なパフォーマンスになりました。ちなみに、この『交響曲第四番』はスタンニスラウさまにとって非常に思い出深い曲です。以前のインタービューによると、昔恩師マーラーからこの曲に関する教示を受けたと仰っいました。(あのときのインタビューの全文は弊誌57号にあります。バックナンバーの購入は以下のアドレスまで――)
アンニースカさまはこれからクラロビラーリの温泉に湯治、二週間ほどの滞在の後自由都市プラーウガを訪問します。
『「真紅の新星」初の外部依頼!』
5月11日にクナスブチ商爵家次期当主デュモルのデビュタント・コンサートが開催されました。アキエタニアと太いパイプを持つ、本、楽譜と美術品の輸入で財を成した大手貿易商である同時に、魔道具の新鋭メーカーでもあるクナスブチ家はSWPOとアシスタント指揮者であるサレンジア伯爵令嬢アリア・クリューフィーネさまに依頼しました。曲目はシューベルトの『交響曲第五番』。これまでのアリアさまと同じような、優雅で綺麗なパフォーマンスで依頼を完遂しました。
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(頭がお花畑で基本的にベタ褒め、ハーミナのゆとりコーナー)
アリアちゃんの初依頼に行ってきたわ!すばらしかったわ!全体の雰囲気と選曲がクラシックでエレガントなデビュタント・コンサート。スピーチから演奏まで実にアリアちゃんらしい、安定志向のようなものを感じた。後はクナスブチ商爵家が紹介した新しいお菓子はすごく美味しかったわ!あれは絶対流行ると確信した。
そういえば、クナスブチ商爵家の次期当主のデュモルは音楽に興味がないみたいが、彼の妹であるリリーメルちゃんは才能がある子供みたいよ。私の知人が運営している、王都南区画の市民オーケストラは去年クナスブチ家とパトロン契約を結んだ。その理由も、リリーメルちゃんが指揮者になるためと聞いた。そう!三人目の美少女指揮者が数年後誕生するかもしれないわよ!これからは私も時間があるときクレンノスク・フィルハーモニア楽団のところに顔を出して、リリーメルちゃんの成長を見守るつもりよ。
そうそう、エリカちゃんのロングインタービューにも参加したわ!編集の都合で公開するのはもう少し後になるが、見どころ満載だから是非見てくださいね!
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(どうしても反論から入りたがる、ケセミネウスの理詰めコーナー)
実はこの前僕がアキエタニアに行った用事の一つは、アンニースカ氏とプログラムについての打ち合わせをするためだった。協奏曲を自分で指揮すると依頼したが、アンニースカ氏は高齢で体力面が心配だから説得するのに大変苦労した。だが昨日の素晴らしいパフォーマンスはその手間に見合う価値があった。
一応知らない人の為に解説するが、『交響曲第四番』はシューマンの晩期の作品ではない。初演で観客から満足な反応を得られず本人が納得いかないから一旦お蔵入りして、改定してから改めて発表した。本来なら『第二番』になるはずだった。各楽章休止なしで連続演奏や、速度と表情の指示をゲルマニクス語で記入するなど、革新的な試みもあった。今回はWRSOでの客演なのにスタンニスラウは大人しくすることなく派手にやった、と考えている人もいるかもしれないが、でも違うんだ。第四楽章にいくつの加速をかけるポイントがあり、もしSWPOと組むならもっと盛大にかましたはず。三年前のコンサートでもそうだったから。
後はもちろん、アリア氏の活躍も引き続き追っている。クナスブチ商爵家のデビュタントでのシューベルトの『第五番』は僕の中のアリア氏のイメージと完全一致する。よく言えば堅実、悪く言うと無難、って感じだろうか。ここまで来るとなにか作為的なものを感じる。これは僕の根拠のない憶測だが、アリア氏はまだ何かの手札を隠していると思う。まだその時ではないから今は古典時期の作風に沿う曲で場をやり過ごしている。そのうち僕たちは本物のアリア氏を見ることになるかもしれない。
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(音楽評論誌の二人しかいない外国籍ライターの一人、アキエタニア人ジャンショーアの国自慢コーナー)
久しぶりにアンニースカ殿の演奏を聴くことができて感動した。昔はよく観に行ったが、私がウェンディマールに移住してからすっかり機会がなくなった。アンニースカ殿の例を見ればわかる。やはり異国の優秀の人材にとってアキエタニアの方がいい環境だ。故郷を出たアンニースカ殿最初はゲルマニクスに留学したが、結局その才能を発揮したのはアキエタニアに来てから。今ではアキエタニアがアンニースカ殿の第二の故郷とも言えるくらいだ。ウェンディマールの才能ある若者も留学を考えているなら、距離が近いゲルマニクスだけではなく、より文化が進んでいて、外国人に寛容なアキエタニアも検討してみる価値はあると思う。
今期のもう一つのイベントも、実はアキエタニアと深い繋がりがある。今になって覚えている人は少ないかもしれないが、クナスブチ家は宗教紛争の時代に国を離れたアキエタニア人の末裔。それで祖国アキエタニアとの貿易によって今の地位を得た。そんなクナスブチ家の者のデビュタントも当然そこを踏まえてからプログラムを決めるべきと思っていたが……なぜアキエタニアの作曲家の作品ではなくシューベルトにしたのか、正直理解に苦しむ。卒業コンサートにサン=サーンスの『交響曲第三番』を選んだアリア女史だってアキエタニア音楽の良さをわかっているはず。それなのに、なぜ……
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「なろう」の掲載に追いついたので、これからは隔週掲載で行きたいと思います。次回NO.7-0は更に次の月曜日1/6で公開します。
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