Tchaikovsky: Nutcracker Op.71 (Excerpts)
**今回はクリスマス特別編です。本編と直接な関わりがありません**
平日の昼下がり。SWPO普段の稽古の時間。今は四月下旬だが、なぜか地球は今クリスマス季節のような気がする。クリスマスと言えばチャイコフスキーの『くるみ割り人形』なので、今日の稽古はその中からいくつの曲を選ぶと決めた。ちなみに本来は卒業コンサートでこれをやるつもりだったが、予定変更したので不完全燃焼となった。これも今急にやりたくなった原因の一つだね。
『序曲』
最初の『序曲』を見るだけで、卒業コンサートに『くるみ割り人形』を選んだ理由がわかるだろう。楽曲の特性は練度より個人技術重視、そして金管より木管の役割が重要。どっちも学院オーケストラにとって極めて都合がいいから。複雑の動きが多くて学院オーケストラでやると多少のミスと乱れは避けられないが、こんな可愛らしくてお茶目な曲ならそれも御愛嬌で押し切れる。まぁ今はSWPOと組んでるからそんなことにはならないしね。
『序曲』では弦楽の低音部を使わないので、特にふわふわな感じがする。第一主題は弦楽の天真爛漫な踊り、そして木管の軽妙なステップで魅せる。第二主題になるとエレガントで可憐に歌う。人形の恩返しにお菓子の国に招待され、楽しくて不思議な夢を経験したこのおとぎ話のような作品に、まさに最高にお似合いな序曲だね。
『情景(クリスマスツリー)』
この曲は本当に大、大、大好きよ。私の中でクリスマス風景と言えばこれが頭に浮かぶほどだ。クリスマスツリーの隣に座って、窓の外に雪が積もるのを眺める。次々と到着する親族と客人たちのおもてなしをして、クリスマスツリーの周りではしゃぐ子供たちを見守る。そんな暖かくて穏やかな冬景色である同時に、クリスマスイブの準備で慌ただしくように、そして楽しくように見える。やっぱりチャイコフスキーはこういう情景の描写が上手すぎるよね。
中盤盛り上がるところ、そして後半6/8拍子になってからはオーケストラ全体の力が必要になって、学院オーケストラの金管は万年欠員だから本当はこれをやるのに不向き<*1>だが……私はこれが大好きだからどうしてもねじ込みたくて、卒業コンサートに使う予定だった譜面を少しいじった。改変する箇所が多すぎると作曲禁止令違反になるが、この程度ならまだセーフだと聞いた。後は最後の幻想的な調べを奏でるハープだが……今の学院にハープがメインの生徒はいないけど、聞き込みしたら二年生のピアノにハープ弾ける後輩がいるのを判明したのでそれもクリア……あーあ、せっかく情報を集めて、段取りを整えたのに、結局この曲を学院オーケストラでやる機会がなくなったね。ちょっと残念……
『行進曲』
これを卒業コンサートでやるべきかすごく悩んだね。『情景(クリスマスツリー)』の最後は直接これに繋がるような形で終わるから、そのまま続きって感じにやりたかった。それにこの曲は超、超、超有名なやつだし、娯楽性も高いので父兄たちが観に来る卒業コンサートに適しているが……トランペットが主役だから、今トランペットがいない学院オーケストラでやるのはさすがに無理と思って断念した<*1>。ちなみに卒業コンサート本来の予定は『序曲』、『情景(クリスマスツリー)』、それと『葦笛(葦笛の踊り)』の三曲だけだった。
この『行進曲』、実際にバレエの映像を見るまで、私のイメージはそのままおもちゃの兵隊の行進だけど、本当は違うのね。チャイコフスキーのこんな可愛らしい行進曲と言えば、『組曲第一番』の第四曲『小さな行進曲』を思い出すが、木管が主役のあれとはまた違う雰囲気になる。こっちは後半からかなり壮大になるしね。
『チョコレート(スペインの踊り)』
この曲を選ぶのに特に深い理由はない。前世の私がやったことあるのは『くるみ割り人形組曲(Op.71a)』だけ、『くるみ割り人形』の全曲はやってない。だからなんとなく『組曲』に入ってない曲もやってみたいと思って、前から気になってた曲を選んだ。
初っ端からトランペットの見せ場だからこれも学院オーケストラではできない曲だ。スペインの踊りと言えばカスタネットだけど、この曲は途中からの投入となる。『白鳥の湖』のスペインの踊りみたいに最初からカスタネットで強烈な印象を与えるようなことはしない。チャイコフスキーの類まれな場面構築能力はここでも大いに発揮する。曲の後半からはクリスマスイブに似つかわしくない、地中海の午後の暖かい日差しを感じさせる。
『葦笛(葦笛の踊り)』
変更がなかったら卒業コンサートのフィナーレを飾るはずだった曲だ。これも編成的に学院オーケストラでやるのに都合がいいから選ばれた。本当はもっと盛大に終わる曲を最後にしたいがどうしても適切なのがないからね……
タイトル通り、この曲はフルートが主役だ。主部ではフルートが自由自在に飛び回り、縦横無尽に舞う。学院オーケストラで稽古をつけたときフルートの三人がかなり苦労したね。私もフルート弾くからどれだけ大変なのかはよく分かる。『序曲』の第一主題のあれも大変だけど、私的にはこっちのほうがしんどいかな。急激な低音と高音の転換が多くて、音色と音量コントロールに特に気を配る必要があるから。今回やってない『お茶(中国の踊り)』のフルートとピッコロもまた違う大変さがあるし、『くるみ割り人形』では一番大変なのはもしかしたらフルート組なんじゃないかな?
トリオは金管がメインで、普通にやると学院オーケストラにはできない<*1>が……そこはちょっとアレンジというか、譜面をいじって代役を起用という形で解決する。クラリネットとオーボエのコンビでそれっぽい音を出せるから問題ない。打楽器のほうは出番を最小限にまで削減して、ピアノの生徒にやらせる。ちなみに『情景(クリスマスツリー)』でも後半に少しだけ金管の出番があって、同じ方法でやり過ごすつもりだった。『行進曲』のほうは金管の役割が重要すぎてさすがにこの手は通じない。
『ジゴーニュ小母さんと道化たち』
タンバリンとトライアングルを投入する、とても賑やかで陽気な曲。「道化の踊り」と言えば私はどうしてもメンデルスゾーンの『夏の夜の夢』のあれを思い出す。この曲とは直接な繋がりはないけど、雰囲気は似ているね。
ちなみに、この曲をやるとき特に作品全編での立ち位置を意識する必要があると思う。『ディヴェルティメント』<*2>のクライマックスだから、最後は派手な加速をかけて景気良く行きたい気持ちはある。でもこの直後は第二幕中盤のハイライトである『花のワルツ』に突入するから、やりすぎるとバランスが悪いし、力も温存したい。力加減は大事だね。まぁそれはバレエ全曲やるとき考えること。今のように抜粋をやるなら関係ないか。私もいつか『くるみ割り人形』のバレエをやる機会があるのかな。やるとしたら屋敷別館のこのホールは狭すぎて無理だね。ザロメア劇場ならちょうどいい会場になるか……そう言えばエリカは前に『白鳥の湖』のバレエをやってみたいと言ったような気が……こういうときはNZTOと組めるのが羨ましいね。
『終幕のワルツとアポテオーズ』
『くるみ割り人形』のワルツと言えば、『組曲(Op.71a)』の大トリに選ばれ、CMなどにもよく使われる超有名な『花のワルツ』がまず頭に浮かぶと思う。あれも私は大好きだけど、実は『終幕のワルツ』のほうがもっと好き。もっと多くの人に布教したいくらいだね。
『花のワルツ』は曲の終盤のクライマックスまでかなり大人しくて、動きよりも美しさを前面に出す。『くるみ割り人形』のもう一曲のワルツ、第一幕最後の『雪片のワルツ』は冬の夜の森を背景に神秘的な雰囲気を醸し出す。両方ともワルツとしては少し異端的だが……『終幕のワルツ』はリズムの主張が強くてヴァリエーションが多い、正統派の華やかなワルツになる。数多くチャイコフスキーのワルツの中でも、『白鳥の湖』第一幕のワルツと同率一位くらいの華々しさかな。
そしてこの曲にもう一つ重要な特徴がある。ワルツの最後が突然途切れて、そのままバレエの終わりを飾る『アポテオーズ』に続く。『眠れる森の美女』のアポテオーズと同じ、行進している風になっているが……『眠れる森の美女』のほうは神々しくて威風堂々。それもわざわざ「ルイ14世のように威光を見せびらかす」と演奏指示に書いたくらいに。対して『くるみ割り人形』のアポテオーズは急がず焦らずの木管に、雲のような背景を築くハープ。それでフェアリーたちの天上の楽園を表す。違う形の神々しさの中で曲が終わり、お菓子の国での不思議な夢から目覚める。
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<*1>卒業コンサート拡大開催決定の前は超強力助っ人を使う予定はありませんでしたので、最初はアリアが今使える人員(学院の二年生と三年生、そして練習によく顔を出す近年の卒業生)を意識して曲目を選んでました。
<*2>バレエ作品の中で、筋の展開と関係なく演じられるいくつかの踊りの連続です。『くるみ割り人形』の場合、『ディヴェルティメント』は少し構成を変えて、『組曲』の『性格的舞曲集(Danses caractéristiques)』に転用されました。
「なろう」での掲載に追いついたのでここからは同じペースで行きたいと思います。具体的に言うと隔週ごとに一チャプターで掲載します。
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