音楽評論誌『王都カランカオーの風に乗せて』150号(3月9日刊行)
(ヘッドラインニュース)
『対照的な両面性~SWPOとクリューフィーネ父娘のコンサート・ハーフ&ハーフ』
今週のSWPOのコンサートは変則的なものでした。先月急病で倒れたスタンニスラウさまは神殿の治療官に仕事時間が制限されたので、コンサートの半分はアリアさまが受け持つことになりました。
前半はベートーヴェンの『エグモント序曲』と『バイオリン協奏曲』、スタンニスラウさまの指揮で、協奏曲のソリストを務めたのはツェルムンド楽爵です。SWPO出身のツェルムンドさまの里帰りとも言えます。どちらもスタンニスラウさまの得意曲、「ウェンディマールの至宝」の真骨頂をしかと見せつけました。
後半のベートーヴェンの『交響曲第八番』はアリアさまの指揮で演奏されました。本来予定されたのは『交響曲第三番』ですが、プログラム変更の際にアリアさまが自分から『第八番』を選んだと、本誌の取材で明らかになりました。精巧で洗練なアリアさまのパフォーマンスは、デビュタントの時演奏したモーツァルトの『交響曲第39番』に通じるところがあるように感じます。
本誌の取材によると、スタンニスラウさまの時間制限はしばらく続くらしいです。ということは当面この「コンサート・ハーフ&ハーフ」の体制が継続するんじゃないかと思われます。
『ウェスファリアンの巨匠、ハインスリ卿のウェンディマール訪問』
ゲルマニクスに名を轟かせるピアニスト、ハインスリさまが初めてウェンディマールに巡回ツアーに来ました。最初のコンサートでは前半は独奏でシューマンの『子供の情景』とショパンの『三つのマズルカ(OP.50)』、後半は監督クピラスカ楽爵が指揮するWRSO(ウェンディシュ王立交響楽団)との共演でブラームスの『ピアノ協奏曲第二番』を演奏しました。素晴らしいパフォーマンスに観客たちは魅了され、コンサートは大盛況で終わりました。
ハインスリさまは王都カランカオーに更に一週間滞在して、もう一回コンサートがある予定です。来週のプログラムはメンデルスゾーンの『無言歌集第五巻』と『第六巻』、そしてチャイコフスキーの『ピアノ協奏曲』です。それからはカランカオーを旅立って、次の目的地は自由港リゲとなります。
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(頭がお花畑で基本的にベタ褒め、ハーミナのゆとりコーナー)
アリアちゃんの二回目のステージは誰も文句をつけられない、前回と遜色ないほど素晴らしいものだった。それにしても、前回のモーツァルトの『交響曲第39番』の次に、『交響曲第八番』とはね。私の中にあるアリアちゃんのイメージそのままと言ってもいいほど、ピッタリな選曲。勝手な憶測だけど、本来予定の『交響曲第三番』から『第八番』に変更したのは、アリアちゃんは当面こんなやや古風の、愛嬌がある曲目で、自分の第一印象を固めたいんじゃないかな?
第一と第二楽章でのアリアちゃんの演奏は活発で目まぐるしい、まるで小動物みたいに愛らしかった。第三楽章はパレットから多彩な音色を使い分け、素敵なハーモニーを作り上げた。特に主部の最後の豊かな音響が印象深かった。
今日のステージの一番の特徴はやっぱり、前半のスタンニスラウさんのパフォーマンスとの対比でしょう。同じくSWPOとのコンビ、そして同じくベートーヴェンなのに、ここまで変わるとは。ほんとにすごく特別なコンサートになったね。まぁスタンニスラウさんはしばらくフルコンサートができないらしいので、これからはそんなに特別ではなくなるのね。
今回の成功で、前回はまぐれだったんじゃないかと疑う人たちはもう何も言い返せなくなるでしょう。アリアちゃんの今後の活躍がますます楽しみになってきたね。
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(音楽評論誌の二人しかいない外国籍ライターの一人、ゲルマニクス人クリスファールトの延々と無関係な話が続く迷走コーナー)
あまり知られていない話なんですが、ハインスリ卿も私も昔はウェスファリアン地方、ケーロンの近郊に住んでいました。つまりご近所ですね。子供時代一緒に釣りに行ったこともありました。川に落ちたハインスリ卿を救出した時彼が何を言ったかは、またの機会で話しましょうか。
今回のツアーでハインスリ卿はリハーサルと本番の前にピアノを入念に、それも神経質なくらいまでに調整したことは既に読者の皆様がご存知していると思いますが、実は最初彼は愛用のピアノを輸送してもらいたいとツアーの主催に依頼しました。これまでは魔導貨物車を駆使して、ゲルマニクス国内のツアーでは本当にそんなことができましたが、今回はリゲまでの長旅。道路状態が悪い場所をどうしても通らないといけないので、無理すると楽器がダメージを受ける危険が高いと聞いてハインスリ卿も渋々断念しました。
後は、プログラムの話もしましょうか。シューマンとメンデルスゾーンあたりは当然な選択でしたね。ハインスリ卿と言えばロマン時期前半ですから。ウェンディマールでのコンサートにショパンを選んだのも当たり前の話ですね。ブラームスの協奏曲も定番だし、全体的なテーマに合います。唯一疑問に持つのはチャイコフスキーの協奏曲だが、実は至極単純な理由があります。「今はこれをやりたい気分」と本人がそう仰っいましたのですね。
今回のツアーでハインスリ卿の片鱗をウェンディマールに見せることができたことに嬉しく思う同時に、残念にも思います。なぜなら彼にはまだまだたくさんのレパートリーを持っていますから。ツアーが終わったらぜひウェスファリアンにお越しして、本拠地で自分のピアノを弾くハインスリ卿を観てもらいたく存じます。
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(常に上から目線、些細なミスでも容赦なく叩く、ビュリーアールの辛口コーナー)
ハインスリ卿の演奏を観るのは今回が初めてだが……なるほど、噂だけの実力はある。間違いなく現時点のワールドクラスのピアニストの一人であろう。楽器の調整の拘りによる独特な細い音色と、フレーズの最後に停滞させるなど豊かな感性を魅せるところが印象的だ。
しかし後半の協奏曲の出来は、かなり残念なものだった。第三楽章でオーケストラとソリストのバランスが微妙に歪んだのはまだ許容できる範囲内だが、第四楽章で何度も足並みが乱れるのは許せない。オーケストラが前に出る場面で及び腰になって、自分のペースを保つことができなかった。せっかくのハインスリ卿との共演でこんな下手を打つとは。一応言っておくが、普段のWRSOの実力はこんなものではないのはわかっている。共演相手に意識して気負いすぎたんだろう。来週もう一回の共演で同じような失態を繰り返さないことを祈っておこう。
今週はSWPOのコンサートにも行ったが、スタンニスラウ氏のパフォーマンスはいい意味でいつもと変わらないから、今更語る必要もないか。注目すべきのはアリア嬢の『交響曲第八番』。前回はアクシデントで明らかに準備不足のもあって、今回の完成度は格段に上がった。前回のパフォーマンスはまぐれじゃないのがはっきりと証明された。特に第四楽章の第二主題の処理が印象的だ。テンポを維持しながらダイナミックな動きを上手に表現できた。だが第二楽章にも似たような箇所があるのにそっちは普通だったし、最後のところは少しだけズレた。まだまだ精進が必要だが、まぁ新人にしてはよくやったと言わせておこう。
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