音楽評論誌『王都カランカオーの風に乗せて』149号(2月27日刊行)
(ヘッドラインニュース)
『待ち望んだ巨星の帰還!「ウェンディマールの至宝」の復帰コンサート』
サレンジア伯爵スタンニスラウさまが倒れてから三週間近い、ようやく我らが英雄が戻ってくれました。もともと予定された曲目にブラームスの『大学祝典序曲』と『バイオリン協奏曲』もあったが、スタンニスラウさまの体調がまだ万全ではないため、後半の『交響曲第三番』だけになりました。
初っ端から全力全開、いつもと変わらぬパワフルなパフォーマンスに観客たちはすぐに安心できました。臨場感あふれる演出もいつも通りです。
ちなみに、『交響曲第三番』の第二楽章は以前のスタンニスラウさまのインタビューによると、演奏するときいつも故郷であるワルマイヤ、特にビナ川とその周辺の湖と湿原の景色を思い出します。(あのときのインタビューの全文は弊誌13号にあります。バックナンバーの購入は以下のアドレスまで――)
パフォーマンス自体は無事終わりましたが、スタンニスラウさまが観客席に振り返るとき一瞬よろめいたのに人々が動揺しました。幸い大事に至らないが、カーテンコールは簡潔に済まされたし、アンコールもありませんでした。話によるとスタンニスラウさまの体力が落ちて、現在は長時間の演奏を神殿の治療官に禁じられています。当分はSWPOのフルコンサートを観ることができないかもしれません。
『ザロメア劇場で争い再び!反目する師弟!』
土曜日の夜のザロメア劇場で、スメタナの『売られた花嫁』がNZTOによって上演されました。ウェンディマールとも深い縁があるスメタナの作品が久しぶりにカランカオーに登場することに、観客たちは大満足のようでした。しかしパフォーマンスの後、ある観客の妨害によって水を差されました。そう。WRTOの監督カサグランさまです。かつてNZTOの監督カリームさんの上司だった彼がザロメア劇場に乗り込み苦情を言うのは今年ですでに三度目です。劇場のスタッフに強制退場させられるまで、カーテンコールが一時中断となりました。
締め切りまでNZTOもWRTOもこの件について公式発表がありません。
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(王立劇場オーケストラ監督、カサグランの完全私物化コーナー)
もう我慢の限界だ。これ以上カリームの野郎を好き勝手にさせる訳にはいかない。あのような下品なパーフォーマンスは我が国のイメージダウンにつながる。ただ人目を引きたいだけの三流のショー。彼にやらせると、オーケストラが奇抜な舞台装置の一部に成り下がる。そんな伝統と格式を汚すような真似――
(あまり意味がない罵詈雑言なので中略……)
あやつは誠に口だけの男だ。甘言でモラウーヴァ公爵様に取り入れて今の地位に就いたが、結局何も成し遂げていない。公爵様からNZTOを預けてもらいながら、あれだけ贅沢な資源と豊富な人材を無駄にしているとは……公爵様の期待を裏切る最低な行為だ。今からでも遅くない。一刻も早くカリームの野郎を監督の座から引き下ろすべきだ。
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(どうしても反論から入りたがる、ケセミネウスの理詰めコーナー)
リハーサルの見学もカウントすると、僕がスタンニスラウ氏のブラームスの『第三番』を観るのはこれで五回目だ。
このコラムで同じことはもう何回も書いたが、やはりこの話は外せない。僕が観た一回目はスタンニスラウ氏が帝国音楽祭から凱旋した直後。伯爵叙任の記念コンサートでもあったから、きっとあれが一番派手で見栄がいいじゃないかと考える人が多いじゃないかな。でも本当は違うなんだ。あれは今まで観たスタンニスラウ氏のパーフォーマンスの中でも特にたどたどしかった。遠征の疲れもあったし、第一楽章は途中で立ち直るまでかなり酷かった。おそらく自分がどれだけの偉業を成し遂げたのかまだ実感できていないから、まるで何もかもが夢の中のような気分だったんだろう。しかしそんな戸惑いがあったからこそ、あのときの第三楽章の「迷い」の感情を至高なものに仕上げたと思う。普段のスタンニスラウ氏とは真逆だから、あれもある意味伝説なパフォーマンスだと言えるのではないかと考える。
今回のパーフォーマンスはいつも通りのスタンニスラウ氏とも言えるが、どこかかっこつけようとしているような感じがして、少しわざとらしいように思える。まるでどこの誰かさんに向けてメッセージを発信している……そう言えば、普段のSWPOのステージに姿が見えないアリア氏は、今回は観客席の最前列にいた……いや、流石にこれは憶測の域を出ないのでこれ以上言及するのはやめておこう。
それにしても、まさかアリア氏は父が復帰するまでずっと沈黙を貫くとは。僕が思う以上にアリア氏は慎重みたい。アリア氏の次の活躍がますます楽しみになった。
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(王立学院音楽科主任クノービネのまるでやる気を感じない適当コーナー)
今年もそろそろ卒業シーズンの時期です。例年通り有望な音楽科の卒業生を紹介します。スキルが突出した生徒と言えば、まずはサンドミネッツ公爵令息カシーミアル様のバイオリンでしょう。ピアノのクーヤヴィ伯爵令息スーミクラ様や、チェロのカリンシビ伯爵令息トゥルクマン様もなかなかの腕前です。
すでに話題になっていると思いますが、もちろん指揮者志望のアリア・クリューフィーネ様とエリュシカ・カレンデム様の二名も、今期の注目の卒業生です。ぜひ今年の王立学院卒業コンサートにお越しいただきたく思います。
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最初の連続掲載はここまでとなります。これからはなろうでの掲載に追いつくまで毎週掲載です。基本的に一週間ごとに一チャプター、そして楽曲パートを土曜日の19時30分に合わせたいです。私の地域ではそれがコンサートの開演時間になることが多いですから。
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