第2話 お姉ちゃん

 セーラー服を着た美少女が僕のそばに立っていた。


「君、すごいね! こっちに来たばかりでしょ。それなのにあんなにやるなんて」


「え、あ……はい」


「そうだ。ちょうどさっき減ったばっかりだから君を私たちのチームに入れてあげるよ」


 僕の意思は聞かずに話は進んでいってしまう。かなり強引な人だ。でも僕のことを助けてくれたうえに、さっきの男のように危ない感じはしてこない。話を聞いてもいいのかもしれない。


「よし。それじゃあ君は今から私の弟だから。私のことはお姉ちゃんって呼んでね」


「はい?」


 やはり少しおかしな人のようだ。なぜチームに入るという話から姉弟の話になっているのだろうか。


「すみません。それってどういう」


「ほら。お姉ちゃんって呼んでみて」


「え、いやその」


「お姉ちゃん」


「きょ、姉弟でも名前で呼び合うことはあると思います」


「うーん。確かに。そういうのもあるのかな」


 納得しかけているみたいだ。よかった。さすがに初対面の人をお姉ちゃんと呼ぶのには抵抗がある。


「それで、あなたの名前はなんていうんですか」


「リーベだよ。よろしくね」


「僕はか」


「わーわー。ストップ。ここではみんな本名を言わないの。だから君もまだ言わなくていい。この後決めるから」


 本名を隠すことにどんな意味があるのだろうか。ここがどこかはわからないけど、現実ではないのなら個人情報を隠す意味は分からない。


「よし。それじゃあホームにいこっか」


「あの、それよりまずここがどこなのかの説明をしてもらいたいんですけど」


「してもいいけど危ないよ。またさっきみたいのがきちゃうかもだし」


 そうだった。リーベさんのキャラが強すぎて少し混乱したけど僕はついさっき殺されそうになったばかりだった。思い出すと体が震えてきた。


 リーベさんは震えている僕を置いて歩きだしてしまった。


「ま、待ってください」


 置いていかれると思いついていこうとするが僕はまだ怯えているようだ。足がすくんでうまく歩けない。そのまま倒れてしまった。


 何か気に障ることをしてしまったのだろうか。やはり言われた通りお姉ちゃんと呼んでみた方がよかったのではないか。そんなことが僕の頭をよぎる。まだリーベさんはすぐそこにいる。ここなら声をかけることも可能だ。


「待って……お姉ちゃん」


 少し恥ずかしく思いながらもそういい放つとリーベさんは振り返った。


「大丈夫だよ。私が家族を置いていくことはないから。ちょっとこれを拾いに来ただけ」


 満面の笑みで答えたリーベさんは落ちていた本を拾い上げた。それは僕が持っているあの魔法の本と似ているものだった。僕の物は赤黒い表紙の本であったがこれは僕の物よりも少しだけ明るい赤色をしていた。


「それは……」


「さっきの奴の魔法書だよ」


「……魔法書」


「うん。君ももっているでしょ」


 消えていた魔法書に現れろと念じてみる。再び僕の手の中には魔法書が現れた。その赤黒い色を僕は少し不気味に思った。


「魔法書についても説明してあげるからまずはホームにいこ」


 僕のそばまで戻ってきたリーベさんが手を差し伸べてくる。その手を取って立ち上がった。


「よし、しゅっぱーつ!」


 歩き始めてもリーベさんは手を放してはくれなかった。手をつなぎながら歩くことになってしまい恥ずかしい。


「あの、リーベさん手が」


「さっきはお姉ちゃんって言ってくれたのに」


「それは置いていかれると思ったからで」


「まあ名前でもいいよ。でもさんはダメ。それはさすがに他人行儀すぎ」


「じゃ、じゃあリーベ」


「うん。それならいいよ。いややっぱりリーベ姉の方がいいかも」


「それはさすがに」


 

 

 それからしばらく手をつなぎながら歩いていく。途中でお腹の音が鳴ってしまった。


「おなかすいたの?」


「すみません」


「じゃあお姉ちゃんが何か買ってあげるよ」


 近くにあった果物屋に入るとリンゴを買ってくれた。


「300カフタです」


「カフタ?」


「ここのお金の単位だよ。ほらこれ」


 そういってリーベは長方形の紙を出してきた。大きさは1,000円札ほどのそれは両面に大きく100と書かれていた。


「これがお金ですか」


「そう。君はここで何か動物とか見なかった」


「動物は見てないですけど、ドラゴンだったら見ました」


「お。いいねドラゴン。おっきくてかっこいいし。ドラゴンって個体数少ないから私も少ししか見たことないんだけど、来て早々なんて運がいいよってそうじゃなかった。その動物みたいなのを倒すとこのお金を落とすんだよ」


「倒すんですか」


 支払いを終えたリンゴを渡された。そのままかじりつく。普通にリンゴの味がした。おいしい。想像通りの味だ。


「うん。その動物……私たちは紙獣って呼んでるんだけど、倒すとお金を落とすの。私たちはそのお金で暮らしているんだよ」


 人に向かって攻撃しておいてなんだけどかなり厳しい世界だ。それに動物ってことは僕の知っている犬や猫みたいなのもいるのだろうか。それに向かってあんなふうに炎を放つなんて僕には想像できなかった。


「ほかに何か聞きたいことはある。簡単なことだったら私が教えてあげる」


「ここがどこなのかとかはどうですか」


「それは私も正直よくわかってないんだよね」


「えっ」


 色々と知っているからそれについても知っているのかと思っていた。これじゃあ元の場所に帰るのはかなり難しい話になるかもしれない。


「でもママは物知りだから聞けばきっと答えてくれるよ」


 ママというのは本当のママなのだろうか。それともさっきの僕みたいな感じに無理やりやらされているのか。僕にはそのことを聞くことはできなかった。


「じゃあチームって何ですか」


「チームっていうのは集まりだね。さっき君が経験したようにこの世界は危ないからね。みんなでまとまって行動して助け合おうっていうのがチーム。そういうのがいくつもあるんだ」


「この本……魔法書でしたっけ。これについても教えてもらいたいです」


「魔法書は名前の通り魔法を使うための物だよ。君も使ってたでしょ。あんな感じで呪文を唱えると魔法が使えるの。使う魔法に応じて中のページ数が減っちゃうんだけどページがなくなると死んじゃうから気を付けてね」


「は?」


 なんてことのないような軽い感じで言われ、理解が追い付かなかった。ページがなくなると死ぬってどういうことだ。そのことについて詳しく聞こうとおもった矢先リーベは立ち止まった。どうやら目的地に着いたようだ。道の横にあった階段を下りていく。木造の扉を開けるとそこにはバーがあった。


 握っていた手を離して先に入ったリーベが、両手を広げながら向かい入れてくれた。


「ここが私たちのホーム。そしてようこそチームネクシムへ」




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死にたくない僕は、魔法書奪って生き残る 蛸賊 @n22

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