死にたくない僕は、魔法書奪って生き残る
蛸賊
第1話 知らない街
気が付くと僕は知らない店の中にいた。必死にここまでの記憶を思い出そうとするが無理だった。
周りを見回してみてもまったく見覚えのない本屋だ。しかも埃だらけで蜘蛛の巣まで張っていた。
あんまり長居をしたくはないような店だ。僕はその中で一冊の本を開いていた。
「なんだこれ?」
ページをめくってみても何も書いておらず紙は赤色の物が使われている。なんとも不気味なものだ。今すぐにここを出ようとする。本屋の外に出るとそこは知らない街の中だった。
前も横もそこにある店は僕の知っているものではない。横の店には店員がいるみたいなので事情を聴いてみることにした。
「すみません。ここがどこかわかりますか。僕、気が付いたらここにいて……」
しかし店員は微笑んだ顔のままで僕の言葉に反応は返してくれない。それが不気味に思えて足早にその場を離れてしまった。
知らない場所にいるというのは想像以上にストレスがかかるらしい。他の店にも店員らしき人はいたのだがこの人たちも質問には答えてくれない。
試しにと、果物屋のリンゴを持ち出してみようとすることにした。
「その商品はまだ会計が済んでいません」
そんな言葉と共に僕の手の中にあったリンゴはボロボロになって消えていってしまった。そのことも気にはなったがそれよりも今は人と話をしたかった。
「あ、やっと反応してくれた。あの僕ここに突然来てしまって……」
特定の対応はするのだが僕の質問には答えてくれなかった。体感ではすでに30分ほどたっていた。このゲームのNPCのような人たちに僕はもううんざりしていた。
もしかしたら僕はゲームの世界にやってきたのかと思うほどだ。歩き回ってこの辺りにいる人たちは同じような反応しかしないことが分かった。
とりあえず最初にいた本屋に戻ってみることにした。気が付いたらあそこにいたのだから何かの手がかりがあるのではと思ったのだ。
と、そこで僕を大きな影が差した。空を見るとそこには巨大なドラゴンが飛んでいた。
「なんだ……あれ」
物語に出てくるドラゴンとしか言えないような見た目のそれを認めたくはなかった。あんなのは現実にはいないはずだ。
まるでゲームの中だと思ったりしたが実際にそういうのは勘弁してほしかった。僕は普通の学生なのだ。荒事にも慣れてはいない。もしここがゲームとかの中のように危険がいっぱいの世界ならばすぐにでも元の安全な世界に帰りたかった。
幸いドラゴンはこちらには見向きもせずに空を泳いでいった。とにかくその場にとどまっていたくなくてあの本屋に走って向かった。
本屋について中に入る。やはりそこにあるのは手入れのなっていない本屋であった。そこであの時に見ていた本のことを思い出した。何も書いていなかったあの本に何かあるのではないかと思ったのだ。しかし僕にはあの本を手放した覚えがない。あれ? と不思議に思うと再び手の中にそれはあった。
まるでマジックでも見ているようであった。試しに消えろと心の中で念じればその本は消え、現れろと念じれば僕の手の中に現れる。だんだんと恐ろしくなって、思わずその本を放り投げてしまった。
すると本は弧を描きながら飛んでいき、ある程度離れたところで地面に落ちることなくふっと消えた。
意味が分からなかった。なんだか怖くなって周りを見回すと、カウンターがあるのを見つけた。そこには他の店とは違い店員はいなかった。
「すみませーん」
カウンターの奥に扉が見えたからそこから声をかけてみる。それでも返事はなかった。恐る恐るその扉に手をかけた。開けようと力を込めてみたが扉はびくともしない。
僕はどうなってしまうのだろうか。不安で押しつぶされてしまいそうだった。
そろそろお腹もすいてきた。果物屋に行って何か買おうと思ったのだが、円を出しても会話は進まなかった。ここでのお金は円ではないらしい。風景は普通の街並みなのにここは日本ではないのかもしれないという思いが強くなった。
「はあはあ。くそ、あの女ぜってぇゆるさねえ」
食べ物が買えず落ち込んでいた僕の前に一人の男が走ってきた。その男はボロボロで、体のいたるところから血が流れ出ていてすごい剣幕で何かを言っていた。僕はそんな男の姿が怖くて声をかけることができなかった。
そのまま僕に気づかず行ってくれと願いながら少しでもばれにくいようにと、道の隅によった。
そんな願いむなしく、男は僕の存在に気が付いた。
「ふざけんな。こっちにもだと……いやお前ルーキーか」
男は僕のことをルーキーだと呼び残虐そうな笑みを浮かべた。
「少しでもページを補充しておくか『イグラム』」
男がボクに向かって手を伸ばすとそこから炎が飛んできた。
「うわああああ」
思わず両手を顔の前に出し目をつむってしまった。
「ぐっ」
うめき声が聞こえてきた。顔をあげるとそこには倒れ込んだ男がいた。どうやら、傷のせいで狙いがそれたようだ。
すぐに逃げないといけないとわかっているのに、足がすくんで動くことができなかった。男は傷をおさえながらまだうずくまっている。しかしすぐにまた立ち上がるだろう。
どうすればいいのか分からなかった。このまま殺されてしまうのか。このまま震えているしかないのか。そう思っている僕の頭の中に一つの呪文が浮かんだ。
どうすればいいのか分かった。僕はあの本を呼び出した。右手を男に向けて伸ばし、呪文を唱える。
「『イグラム』」
男が放ったようにぼくの手からは炎が飛び出した。傷に悶えうずくまっていた男はそれに気が付けていなかった。
「ぐぎゃあああ」
悲鳴が聞こえてきた。いやなものが燃える匂いが僕の方にもやってきた。男は叫び暴れまわった。
「ぐあああ、ぐ『イグラム・フォルティス』」
男の唱えた呪文により、男は、所々にやけどを覆いながらそれでも生き残った。
「てめえ、よくも3ページも使わせやがったな。クソが。死んじまいやがれ『イグラ」
生き残り激高した男は、僕に向かって手を伸ばした。今度こそ死ぬ。もうだめだと思った時それは起きた。男が倒れ込んだのだ。
「え?」
何が起こったのか分からなかった。そして僕の足元には男の頭が飛んできていた。震えながら、それを持ち上げてみる。苦悶の表情を浮かべていた。持っているそれは端の方が紙のようになりぽろぽろと崩れ始めていた。
「大丈夫?」
声のした方をみればセーラ服を着た金髪の美少女がいた。
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