第34話 ダン活

「ちきしょう、やられた!」


太くたくましい男の腕が血飛沫で宙に弧を描き、湿った音と共に石壁に赤い花を叩き散らせ不潔な石畳に転がり落ちた。


「ルイ、下がれ!マリオはルイの後退をフォロー!」


イタリアやフランスの太郎や権兵衛みたいなもんかな。いや、知らんけど……


あたしは足元に転がってきたルイの腕を拾い上げ……重っ!……両腕で抱えあげ抱きしめた。


昨夜満点の星空の下、あたしの体を散々に苛んでくれた剣ダコまみれのガサついた手指が、急速に体温を失って行く。


たまらない切なさに胸が締め付けられ、両目から涙が溢れ流れる。


「ねえちょっと!ニナもカバーに入っ……なにそんなの抱きしめてんのよ!」


「だって、なんか愛しすぎて……これあたし貰ってもいい?」


「酔っぱらってんのかアンタはぁああああ!!」


リーラは罵倒を叫びフロントへ出る。

ルイが抜けた穴を塞ぎ、四本腕の山羊頭の赤い怪物……グレートデビル?だかなんだかに挑んで行く。


「寒い……」


下がったルイは膝を着き、真っ青な顔で震えている。


……あ、コッチが本体だったはwww


「あなたにキュアキュア~♪」


力なく押さえているワキのすぐ上、黒く濡れた赤く血がしたたり落ちる切断面から幾本もの光のワイヤーが延びて行き瞬く間に腕が生えてくる。


「コッチの籠手とか要る?」


腕自体はいらないよね?との確認も含め差し出す。

ジブンの生えた腕を見て驚愕に目を剥くカレの横顔に昨夜のあれやこれやを反芻(牛か…)してしまい顔が熱くなる。


「おい!出るぜ、リーラ下がれ!」


なのにカレっピはそんなあたしに一瞥もくれず前にいるどうでもいい女の名を叫びながら立ち上がり去ってしまった……


「はぁ!?ここを離れ・・ルイ?!嘘で…」


思わず振り返ったリーラの頭上に迫るデビル()の大鉈を寸での所でかけ戻ったルイの長剣(こんな狭いトコでよく使えるよね……ステキ!)がすんごい火花を立てながら弾き飛ばす。


「すごい……子供らが見てるアニメみたい」


マジ足運びもなんもなく腕の力だけであんな2,30キロ(ぐらむ)じゃ効かなそうな鉄の板(あたしが三人乗っても撓みそうにない)の大上段からの打ち込みをまるでハエや藁くずを払うようにはね除けた。


ルイの軽く二倍、体重は……8倍か、を越えるであろうなんたらデビルがぐらつき、たたらを踏みながら後退する。


すごい・・・圧倒的・・・かっこよすぎる・・・


「もらったぁ!」


そのままルイとマリオの無双タッグの活躍を観賞しようと期待に胸を弾ませていたのに、ザバスのクソガ…あれ?ザベルだっけ?ともかくぱーちーリーダーのザ某がなぜか高く飛び上がった状態からデビやんのアタマを撥ね飛ばしてしまった。


ちっ、間の悪いヤツ…間抜けめ!

つーか宙で足場も無いのになんであんな太い首を両断できんのよ・・・インチキ臭っ!


「ルイ、腕はどうしたんだよ!」


「ああ、切られたのはアーマだけだったらしい……すまん」


「はぁ、全く人騒がせ…いや、ホントそんだけで良かったわ」



ルイの腕を抱くあたしを置き去り、五人が盛り上がってる。


……切ない!



「……ああ、ニナ!その抱えてる籠手返してくれ」


「はい」


マジほんで物のついでって感じにあたしに一瞥もくれず差し出された手に冷たくなった重い腕を乗せる。


「サンキュ…うぉっ、重いな…ん?誰の手だこりゃ」


「しらないよそんなん。はじめからついてたし」


想いの届かない遣る瀬の無さがあたしを素っ気なく可愛げの無い、つまらない女にしてしまう。


「おいバリズ、マリオ!コレ見ろよ!」


バリズか…ザ行ですらなかったわw


「ん?…腕じゃねーか」


「誰の?」


うーん、恋の切なさはさておき、盛り上がってる若者達に感じるこの距離感。


そいや旦那5か3がよく合コンのウケ狙い枠で呼ばれ「大団円を前に魔女のサーキュレットを持ち逃げしたウッホの気持ちが判った…」などと闇のオーラを醸していたっけ。


アニメ奴な男は何かにつけて虚構ネタを持ち出すからウ……困るんよね。


於き捨てられてる今の身のせいか過去旦那達のランクを上げてしまった。キー#1くらい。


「…い……おい!ニナ!帰投だ、置いてくぞ!」


「え?もう帰るの?」


まだ10匹も狩って無いじゃん。


「こんな大物が狩れたんだ、キマってんだろ」


えーつまんないの。

あたし残して全滅してルイとマリオから今際の別れを涙ながらにじっとりねっちょり堪能したアトに


「プギョッ!」


あーしの意識は突如胸に込み上げた灼熱の溶岩を吐き出すと同時に落ちたのであった……



トコロ変わってニナ死後PT。


「おい…ニナ?!」


「どうし……またグレーターデビルじゃねえか!」


胸にダンビラを生やしたまま宙に吊るされたニナが、雑巾のように打ち捨てられる。

当然Pメン達の視線が向くのは哀れにも切り殺されたニナではなく、ズラリと並ぶなんたらデビルの方である。切なし!


「なんで中層に五匹も六匹も出るんだよ!」


マリオの悲鳴ぽいセリフ。


「フラシュとサイレンを二重詠唱するわ、走って!」


ミーアは瞬間制圧系デバフの多重詠唱に入る。


「おいミーア、まだ…くそ、逃げるぞ!」


リーダーのバリズは撤退を判断し、閃光と爆裂音と同時に五人の少年達はその場より走り去った。


一人の少女の骸を残して。




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