第32話 ギルガメッシュの酒場

禿頭のマスターのいるひなびたファミレスみたいなとこへ入り、カウンターへ掛ける。


ゴブの魔石は銀貨二枚と銅銭30枚になった。

レートはなんかギルドのふとっちょ(名前忘れた)が江戸時代と同じで常に変動してるとかごちゃごちゃ説明してくれたが解らなかった(聞いてなかった)。


「なんかあったかくておいしいのちょーだい」


無言でカウンター真下あたりの凹んだとこ(古い釜とかポンペイのグリルみたい)に刺さった鍋から湯気の立つドロドロを深皿に入れて匙を差しドン置きされる。


「おいくら?」


「銅5だ」


「はーい」


ジャラっと置いて、湯気の立つ褐色のシチューぽい何かを口に入れる。


「あら、おいしい」


どーせ鍋の底にはネズミでも沈んでんじゃないのぉ?とか衛生面が不安で今一つ食欲がわかなかったけど、意外なおいしさについ口を滑らせてしまった。


歯応えはしっかり残しつつも芯まで火の通った何かの野菜達。とろみは小麦粉?挽く前に炒ったのかメイラード様的な甘く芳しい香ばしさが覗く。

主婦的にもお金出して味わえるレベルの手間と味である。


二口目を味わいながらマスターをチラ見すると口元が僅かに上がっていた。


こんなへちゃむくれな子供の感想でも喜んでくれるのか。

・・・そいや金を儲けるのは絶対条件だが、喜びは客の満足だけが全てとか漫画か小説かで見たような気がする。


主人公のおじは結局病気で動けなくなるまで働いて屋号を二束三文で買いたたかれ不潔と病苦の只中で孤独死すんだけど後悔と恨みと恐怖の中で果てる瞬間に壁の外の「めちゃくちゃうまかった」て会話が耳に届いて脳がドバドバ多幸感でシャブ漬けにされ安らかに果てるコトが出来たというめたくそ感動的なラストだった・・・うっ、思い出したら涙が・・・


目の前にジョッキと肉が焼ける鉄皿がドン置きされた。


「えっ、頼んでない・・・」


「子供でも酒は飲むもんだ。ここじゃあな」


めたくそ渋いイケおじボイス・・・某マイアミ刑事の主任(世代・・・)みたい!


「ありがとう」


すでに切り分けられてる肉をむかーし小学校で使ってたような先割れスプーンで刺し、熱々のまま口に入れる。


油と肉汁と塩気が口に溢れ、それを木のジョッキに入ってる温くもスモーキーな爽やかさが鼻に抜ける泡酒で胃袋へと流し込む。


「ごっごっごっ・・・・っ、はぁ~~~~~幸せぇ・・・」


アルコールのチリリリリて感じの幸せのベルのような振動が体の隅々まで広がってゆく。


すげえ感動。

転生してからようやく人心地が付いた気分になれた・・・


「いい飲みっぷりじゃねーか。マスター、こっちにもエールと肉だ」


隣のスツールにおじ・・・いや、ティーンか。

若もんが身も軽く腰を下ろす。


こっちの若い人達はマジでやたら動きが躍動的つか機敏さが体の外にまで弾け出しそうな所作である。


「え?ナンパ?」


「ナンパ・・・ああ、女を口説くてイミか。まずは食ってからだ」


あー、肉を食う様を見せつけて男性をアピールしようって感じかすんげーワイルドだな・・・硬派なのでは?


いやいや、自意識過剰だろ。

そう、現世のあたしはモブ。背景。

コッチの女性は欧米みたいにもっと表情筋がバキバキした肉食獣みたいな感じがモテる顔なんだよきっと。


「バリズ。コッチにくんのは珍しいんじゃねえか」


肉が盛られた皿とジョッキをドン置きしながらマスターが声をかけてる。


「ああ、アッチで昼から凌辱ショーが始まっちまってよ。仲間探すどころじゃなくなっちまった」


そんなショーがあんのか・・・くわばらくわばら()。

でもバリズてこの男の名前?ヘンなの・・・


男はジョッキを煽り肉を齧って飲み込むと、再度ジョッキを傾けこちらを向く。


「ねーちゃんはマントの膨らみからすると剣士か?いや、杖かな?」


杖・・・あ!


「杖屋で杖貰うの忘れてた!・・・て、後でいいか」


肉と酒に戻る。


あ、もう無いわ・・・


「マスター!あたしにも肉と酒ちょーらい」


とりあえずカウンターに銅銭を10枚置く。


食器を片すのと入れ違いにジョッキと肉をドン置きし、マスターは置いた銅貨から3枚を持って行った。


いいなぁ・・・ゴブを五匹倒すだけでおいしい食事と酒とつまみがめたくそ食い放題・・・異世界最高!


「・・・あ、なあ!おい聴いてくれって」


「なに?」


「潜る仲間探してんだけどよ、一緒にやらねえ?魔法が使えるなら是非ウチに入ってほしいのよ」


「ふーん」


男を下から上まで舐めるように観察する。

赤毛でグリーンの目の、勝ち気なカオの美しい男だ。


「・・・その仲間に女はいるの?」


「ああ、今んとこ男3,女2なんだ。おまえが入ってくれりゃ3-3だぜ」


「うーん・・・あんた狙ってるって勘違いされていじめられるような気がするしやめておくわ」


「おいおい、俺はどっちにも気はねえし問題なんて起こり様がねーよ」


ダメだコイツwww

・・・いや、女友達は絶対に必要だったわ。


お姉さまは師であり同志だからな・・・もっとテキトーに罵倒し合え・・・ざっくばらん(語彙が・・・)に付き合える気の置けない友人てのが10人は欲しい。


「そうね、よく考えたらあたしは女友達が必要なの。口で繋いだりしなくていい・・・あ、しなくていいってこっちじゃ消極底な否定になりそうだからハッキリ言っとくね?仲を持つようなことはしないで」


狙ってる男(仮だけど)が女連れてきて「仲良くな^^」つってきたらそらもうゴリゴリと肉片になるまで仲良くしちゃうだろうしつーか既にそういう理由で慢性的にPT欠員中だったりすんじゃないの?


「ん?そうか、わかった。つーか入ってくれんだよな?」


「ええ、入るわ」


「よっしゃ!じゃあこっからの酒代は俺が持つぜ!」





ヒャッハァアアアアア!!!!!!!!!!

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