第30話 バケショー
「この部屋、あなたひとりならいつ来てもいいわ」
「うれしい・・・お姉さまと呼んでよろしくて?」
「あら、いいわよ?あなたは・・・」
「ナイコですアメリアお姉さま」
「ふふ、ナイコ。あなた達の女性名は破音で終わるのね。でもこちらではその音は聞き取れないの・・・そうね、ナイマなんてどうかしら」
「あ、それは百日後に世界を滅ぼす天・・・知り合いの名なので、そうですね・・・ニーナとお呼び頂けませんか?」
「いいわよ。ニナ、早速だけど百日後に世界が滅びるってなんの・・・」
「ああ、それは雑な予言なのであまり気になさらないで!口に出しておいてアレなんですけど」
「そう・・・気に成るけど、あなたが気にするなっていうならそうするわね」
「うれしい・・・お姉さま、さっそく化粧台をつかわせて頂けて?」
「いいわよ。ナイフは右の引き出しよ」
「ありがとう存じますわお姉さま」
引き出しを開けると・・・え、まんまナイフじゃん・・・を取り出し、慎重に眉間に当てる。
お姉さまも鏡台使いたいはずだし、と眉間を開き山を整えたら目尻だけ描いて離れた。
うーん、しかし流石鉄板なせいかボケボケだな・・・
「麗しき水の精霊よ、薄い膜と成りてとこしえにこの鉄に宿り水カガミと成れ」
目の前に現れたゴルフボール程度の水が鏡面へ吸い込まれるように消え、ボケボケ鉄板鏡は反射率百パーなのでは?!て感じのまるで向こうに世界が続いているような前世に置いては極めて標準的な品質のカガミに転生した。
「おおー・・・まじハーマイ〇ニーちゃんだ」
もっさりしてきた前髪をすき・・・てナイフじゃ一億年くらいかかるだろ、とさっさと止めてお姉さまを誘う。
「どうぞお座りになって」
「ニナ、凄いじゃないこの鏡・・・なの?まるで向こうに別の部屋があるみたいなんだけど」
「前世だとコレが一般的なカガミの品質だったんですのよ?もちろんコレと違い魔法の品ではなくて工芸品ですわ」
「とんでもない世界ね・・・」
お姉さまはカガミとその中の部屋に座す自らの姿を眺めたままブルリからだを震わせる。
未知の世界への畏怖に心を体ごと震わせるお姉さま……尊き!
それは兎も角、真っ平にガラスを整形してその裏面に金属を蒸気にして吹き付けるとかどーやりゃそんなコトが出来るのかさっぱりわからんしマジで前世てトンデモ世界だったのね・・・
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「こっちのシャドーは木炭、このライナーは青く焼いた鉄を砕いた粉末をエーテルで溶いたジェリーで練ったモノよ」
お姉さま手ずがらにコスメキットの紹介をしてくれるのだけど……なぜか製法や素材の、コマーシャル的なやつではなく極めて具体的な作業解説まで頂いてしまっている。
「ジェリー種の活用は十数年前に突然発生したの。エーテルで一定割合に溶かしたジェリーの細胞……これもあなたたちブレイバーが広めた知見よ……は壊死することなく、肌の老廃物や分泌物を吸収分解しながら常に瑞々しさを保つの」
「はぁ~~、じゃあ若い子達が使うようなジェル系のラメラメなリップなんかも有るんですね……」
マジでハンドメイド品なのね……って、化学製品なんて無いでしょ文明的に!
「リップに?ジェル状のまま使うの??詳しく教えなさい」
無かったのか……いや、意図的に広めなかったのか。
「広まってないのは化粧文化がハナから奇抜に走らないよう、ベースメイクの浸透を啓蒙しているのかも知れませんわね」
剃毛、洗顔と保湿。
肌の色味と凹凸、陰影による基本的印象のコントロール。
マジでオトコもこれくらいはやってくれ……ていう美形な顔もかなりいたんだよなぁ前世。
韓国じゃ結構始まってたみたいだけどマジで都市部のさらに一部って感じでそもそも人口が……
「なに?教えてくれないの?」
「あっ、ごめんなさいおねえさま。じゃあ先ずプルンとした状態のジェルとラメフレーク……そうですね、このメタルパウダーやパールマイカよりも大きめの……」
数時間後、生きて動くデコレーショナルなお菓子のお姫様て感じなキャンディプリンセスが魔女の部屋へ顕現していた。
「ああ、マジか……今すぐロリータ、いや!ゴス系のショップをテナントビルごともってきて!」
「コレは……確かに食べちゃいたいくらいには可愛いけど、男ウケはしないわね」
ファナティックな感動に独り狂い悶えるあたしの横で、お姉さまからのまさかのダメ出し。
くっ、やはり白人文化圏(男性追従型)では今一つってマイナージャンルに甘んじるしかないのか……
その後はグダグダとりとめなくまつ毛その他の流行りと感想を交換し合い、あたしは転生後初めての女性脳同士による量子交歓の満足に酔いながらお姉さまと別れ店を出たのだった。
武器おじはまだ路上で寝ていた。
……男子系虚構世界に堕ちたとあっても、このナイコ。木石にあらず(慶次感)!
あたしはおじを起こすと、顔がキマってキワいランジェリーの装着途中であろう美魔少女の寝室へと侵入するようおじを誘導してその場を去ったのである。
邪推だったときのおじの運命に思いを馳せながら、あたしはダンジョンへと……
だからどこにあんだよ……
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