第29話 杖

「まったくよ、二本買うから安くしろだのまとめて買うから安くしろだの・・・奴らの価値観はワケわかんねーよ!武器でも女でも麦でも増えりゃ増えるほど高くなんのがジョーシキだっつーの。一体お前らの世界はどーなってんのよ!」


え?なんで??

まーどーでもいいっす。そう、増えると高くなんのね。ヘンなのwww


「えっと、あたしらの世界には農業と産業の革命?があってですね・・・」


・・ん?あーそーか・・・ハンドメイドだから、数や量がそのまま価値になるんだ。

貨幣経済みたい、つーかそのまんまじゃんね。


大量生産から大量消費へ、大量殺戮から大量破壊へ、と小学校の歴史を思い出しながら適当にピントのズレた説明を試みるあたしがナニをしているかっつーと、なんか魔法使いの杖を売ってくれるトコに連れてってくれるんだと。


杖・・・わからん。


まーそういう掴みで寝屋へと誘われんのもやぶさかではないって器量を持つ男ではあるが。。。残念ながらあたし程度の器量には特になんも誘われるもんがないらしく武器屋おじの視線は緩い(顔は怖いが)ままだ。


つーか杖なんかよりカミソリと化粧品欲しい・・・


「あっ、カミソリとシャープナー研ぐ道具。こんな文明だと整形されてない砥石てあります?」


「ん?そりゃ日用雑貨の店行かねえとないだろ・・・てココだぜ」


日用雑貨店・・・ではなく杖屋さんのようです。


「エメリー!おい、客だ!」


ここ、お店屋さんなの?

フツーの民家の土間、て感じの部屋にズカズカと入り大声を上げる武器屋おじ。


明かりも無く真っ暗でほんと人住んでるのかも怪しい。



「おい!ブレイバーだぞ!」


「あらいらっしゃいませぇ」


クォーター秒で現れると同時に武器屋おじが視界から消えた。

そして鈍い音と共に外の路上へ倒れ込む音がズシャアー!と耳に届く。


え?なんも見えなかった・・・と冷や汗でおじと逆側に視線を向けると・・・


めたくそエロ美しい黒髪ワンレン口元ホクロの妖艶なる色白美女がカウンターへ腰かけていたのであった。



「・・・えー!凄い!ステキ!美しい!」


「あら、素直ないいコじゃない。サービスしちゃうわよ」


「御世辞じゃないって!ほんとマユ、アイメ・・・」


ハッ!と口を押える。


・・・決して美魔女の目に宿った冷たく剣呑な輝きに硬直したワケじゃ無く、女同士の仁義としてに重きをおく私の女が生命のダイシャリンを駆動させ言葉を遮ったのだ。


(・・・あの、杖よりもお化粧の相談に乗っていただきたいのですが)


むろん、路上に倒れたおじの沈黙を観察しながらの小声である。


「そうね、でもコスメキットはお高いわよ?それにブレイバー支援対象品じゃないから全部有料だし・・・女のブレイバーはよく装備を売って金に換えようとするけど、あなた達の力量にあう装備なんてそう無いし支援の支給も一回限りだから絶対にやめた方がいいわよ」


「あ、やっぱみんなやるんですね・・・あなたの顔見た瞬間からあたしも考えてました」


美魔女が憂うようなセクシーため息をつく。


・・・真似したい!めちゃくちゃフェミーなメイク造語なのでショップで言っても通じないと思うして今の溜息真似したい!水タバコのキセルとか持って!!


「あなたもカラダは若いんだから、マユと前髪だけで充分でしょ・・・って、なぁに?」


あーしは美魔女のたぷっとした袖布を掴んで背伸びしながら顔を近づける。


「あのですね、若さ・・・欲しいですよね」


息が荒くなる。

今でさえこんな美女なのに、ここから若くなっちゃったらどうなるの?・・・一体どうなっちゃうの?!?!?


美魔女さんの目も怪しい輝きを帯び始める。


「ちょっと、こっちに来なさい」


「はい!」


暗い店内から一点、薄く怪しい明かりが灯る寝室に連れ込まれる。

自分だけの花園、まさに妄想から現れた美女の寝室ってデコレーション。

あたしをベッドへ掛けさせ、彼女自らもそこへ腰を下ろす。

薄明りの中で濡れた様に煌く赤い唇が開いた。


「できるのね」


「やります」


あたしにこの人への害意が無い限り、この英語魔法は必ず成功する。


「やって」


「いきます!」


美魔女の骨ばった細く長い美しい手を全心全脳全神経を込めて両手で包む。

この人が愛しい。

この美しさを、より若く、永遠に・・・


「リジュペネーション!そしてエターナルユース!」


星の数ほどの美容商品群に掲げられた目タコ陳腐な、それでいて女の願望をとこしえに捕え離さない魔のセンテンスをスペルシャウトする。

青く爽やかな光が巻き起こる様に弾け、ピンクのバラ・・・そいや薔薇もあったっけ・・・が部屋中に咲き誇る。


そして、そこに座していた妖艶なる美女は・・・



妖精も裸足で逃げ出しケツを割ってもう二度と美を騙れなくなるほど(語彙不能)の正に世を絶した清純清楚ながらも匂い立つ色気がたまらない汚せるなら千回死んでもいい女選手権があったら永遠の一位に輝き続けるであろう美少女へと転生を遂げてしまっていたのであった。



その美に打たれ、あたしはベッドからずり落ち冷たい石床(え?個人宅でしょココ??)につっぷして泣いてしまった。


「ちょっと、どうしたの?!ひょっとして・・・イヤ!聞きたくない!!」


すごい、声豚ドモが聞いたら全推しを二位以下の遥か彼方へ消し飛ばして足元にひれ伏すだろう儚く掠れた煌びやかな美声が耳に・・・て、おいおい早まるな。


「いや、性交ですよ・・・じゃない、成功ですって。カガミないんですか?つーか手ぇ見てくださいよ、ご自身の手を」


美しいながらも生活に疲れた骨ばった手指は、すべすべもちもちのやんぐでフレッシュな弾力を取り戻している。


「すごい!ツメまでこんな滑らかに・・・でも、怖い。一緒に見てくれる?」


「はい。その儀、謹んでお受けいたします」


あれ?どっかで同じこと言ったよねあたし。

まあいいや。


二人で一緒にカガミに向かう。


え?この鉄板がカガミなの??

ちょっと顔が固まってしまった。


「すごい・・・ほんとに、若い時の顔だわ」


マジこんな美少女だったんかよ!

良く生きてられたなこの女・・・あたしこんなカオでもう五回以上は死んでるのに。


あれ?まほーつかったのにエルフになってないや。

英語魔法は無害なのかな。



「あ!」


呆けていた美魔女あらため美魔少女があたしの吃驚にビクリと体を震わせた。


「なっ、なに?!なんか失敗したの?」


「エターナルユースてむこうの美容商品群で使われてる英語なんですけどたぶん永遠の若さとかそんな意味なんでもしかして死ぬまでずっと若いカモしれないんですけど・・・大丈夫です?」


「・・・ふふ、あなたも女ならそんな心配はいらないってわかるんじゃなくって?」


「これは、女としたことが・・・蒙昧な浅慮をお許しください」


二人で顔をあわせ笑い合う。




ぐふふふふ・・・・・

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