第26話 遼遠なる冒険者登録・完結その2
「いらせられませ」
ダベってる二人を置いて暗い店内に入ると、カラフルな布を巻き付けたシンプルなワンピの女性が膝折で迎えてくれた。
「あっ、その・・・お客じゃないんで、物乞い相手の対応をお願いします」
「洗い立ての髪に弾けるように若さが輝く白い肌。そして貴人も及ばぬ教養とそれを笠に着ない謙譲をうかがい知れる奥ゆかしきお言葉・・・当店をお選び頂き、幸甚に御座います」
ひえー、なに?ブランドショップにきちゃったの?!?!
後ろから救世主おじのおじ声が飛んできた。
「ブレイバーらしいからよ!じゃんじゃん高いモン選んでやれよォ!」
おじ声に向いたお姉さまの美しい眉間に一瞬だけ縦ジワが出現した。
こわい・・・
・
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「・・・たぶんドカチン・・・じゃない、肉体労働になるからこーゆう男性っぽい短いワンピがいいのよね」
「でしたら緑よりもお客様の髪色より暗くて強いこちらの色が」
「ああ、たぶん仕事中はエルフっぽい感じにへっ・・・変身するから」
やっぱ虚構語彙でつっかえてしまう・・・
「その姿、お見せ頂くこと敵いましょうか」
「うっ、うん・・・出来るのかしら」
へんしーん、などと弱々しく呟きながらくるりとその場で回転すると、視界にあった猫っ毛のブルネットが亜麻色のストレートに変化した。
「まぁ・・・なんと美しいお姿」
「あーよかった、出来なかったら間抜けだからめちゃくちゃ緊張しちゃった」
笑い合う。
あー、このお店好き・・・
「では短い丈の内着はそちらのお姿に合わせ、外着は暗く重めの感じで先程のお姿へ合わせる感じでよろしゅうございますか」
「あ、いいですねソレ!」
「ブレイバーの方ですと、下着はやはりこちらでしょうか」
ビキニ型のぱんつを出してくれる。
「パンティあるんだ。じゃあ・・・あとシミーズかペティコあったらソレも欲しい」
このワンピの丈だと平気な気もするけど、やっぱ尻に貼り付いたり挟まったりしたらハズいからな・・・
色々選んだり揃えてもらったりして、エルフ姿では緑のショートワンピ、人間姿ではナイトブルーのハーフコートに白い内襟赤タイシャツて感じに決まった。
着れば某イギリス発魔法学園物ヒロインと邦書ロングセラーRPGファンタジー小説のエルフて感じかな。
「お客様のクラスはどういったものでしょう」
「クラス・・・ああ、職分かな。剣と・・・まほー?精霊とか使うやつ」
「でしたらブーツと鎧も必要ですわね、どうぞこちらへ」
いやー剣つったけど・・・謙虚になった男には絶対勝てんだろ。
でも豚人間とかにはなんとか・・・うーん、床の上ならたぶん、イケる気がする。
などと過去のやらかしを反芻しながら、二階下着売り場から裏手へと降りてゆく。
「ゴードン、こちら様へ鎧一式誂えるように」
背の低い・・・あたしより頭一つ分低いくらい?・・・のずんぐりむっくりした髭モジャ男が立ち上がり、じろりとあたしを睨む。
「・・・かしこまりましてございます」
めたくそ低いイケボだ。
バリトんボイスとかゆーんだっけ。
いや、酒焼けした破鐘のような胴間声・・・てトコか。
お姉さまがこちらへ向く。
「いま縫い合わせてますので、鎧のオーダーが終わる当りにはお渡しできると思います」
おおーめたくそ速いじゃんね。
「ありがとう。・・・あ、ナイコです」
「御名を頂きありがとうございます。わたくしはネネ、しがない商家の娘でございます。どうぞお見知りおきを」
では、と退がる。
ええー!こわいおじと二人きりにしないで!!
あまりの心細さに、店に入るとき救世主おじに着せられたスモックのスソをギュッと握ってしまう。
うーん、なんだこの可愛いアクションは・・・
「あんた・・・見た目どーりのトシじゃねんだろ。芝居はやめろ」
イラッ・・・
「享年56だけど・・・あなた女・・・子供に泣かれたりしない?」
うーん、反射的にイヤミを返してしまった。
でもトシの話振られてカチンとくんのはちょっと自分事ながら笑ってしまう。
「フン、ガキのまま大きくなるようなヤツ等にビビられたってなんとも思わんね」
あー、出張組はよく欧州なんかで笑われるつってたっけ。
赤ん坊のままの顔でどーのこーのとか言われて・・・ん?でもあたしはともかくこっちの人等てみんなゴツい顔ばっかじゃない?
もっかい目の前の低いおじをまじまじと見る。
うーん・・・トランプのキングをさらにゴッツくツリ眉にした感じ・・・かな?
「なんだ、ドワーフ見んのは初めてか?」
「ドワ!あんた妖精族だったの?」
ええ、ドワーフてこんなゴッツ・・・あ、男子系ドワはこんな感じだったっけ。
小人さんじゃないのね・・・
「フン、その胴回りだと子供用でも厳しいかもしんねえな」
言いながらドワがコップを半分にしたような革の筒をあたしの胴に当てる・・・え、手ェでかっ!
あたしの胴なんて握りつぶせそうじゃん・・・
ドワは身を返すと、吊るしてある鎧っぽい何かを外し、あたしの胴に当てた筒を合わせたりしながらソレを切ったり叩いたりして、再びあたしの胴に合わせると再び机作業に没頭しだす。
でっかい手が自分の顔()よりも小さい人形の服を縫い上げるように精緻精妙に穴を穿ち、はと目を入れ、革ひもを通し・・・
あたしはその魔法のような手ワザから目が離せず、ぼったちで眺めてしまう。
「できたぜ。次は篭手とブーツだ」
「あっ、はいお願いします・・・」
ドワはじろりと毛深い眉の奥にあるタカのような目を光らせると、無言であたしを誘い・・・
フツーに手と足のサイズを計り作業を開始した。
・・・別にナニ的な何かを期待したわけじゃないけど、見事な手ワザに感情がぐらりと揺らいでしまう。
そいやコッチきてこの体になってからよくじょ・・・電気的な振動の高まりをあんま強く感じない。
エルフだからか?
振り返りカウンターのむこう、化粧棚に置いてある鉢植えのルッコラぽい植物を見る。
透き通る青に走る葉脈を見ていると、やはりその美しさにほんわかと感情を揺らされる。
見事な手ワザ、自然が作り出した芸術のうつくしさなど言い訳をつけてるけど、たぶん脳が新たな情報をもとめてあたしの周囲のあらゆるものに触手を・・・ええい、語彙不能!・・・とにかく、なんでもかんでもに興味をもたせようとしているんだと思う。
生き残るために。
走馬灯の為の保存、蓄積かな?
そーいや今際の走馬灯もアメリカじゃシュババババ!!!!!!て出てくるらしいし人種で違うのかもしれんね。
「できたぜ」
ドワおじに手ずがらに装着頂き、礼を言って店を出て表へと回った。
表では衛士のジュリオはすでに消えており、救世主おじのジェジェ?だけが長椅子でいびきをかいていたのだった。
おこさないようソッと店に入り、おねえさまに服を着せて頂く。
「あの、お代なんだけど」
「ブレイバーの皆さまからは頂かないことになっております」
「でも、国や自治体・・・偉い人がお金を出すわけじゃないんでしょ?」
「個別、案件別にというわけではございませんが、ブレイバー様方への奉仕の額に応じて報奨金や税負担の免除など様々な利得がございますので遠慮心配はもったいのうございます」
払う金も無いのにさも良心が咎めてます!お店が心配です!って遠慮ぶるあたし相手に、なんつーかやさしく細やかな心配りが嬉しい。
「ありがとう。・・・たぶん、みんな同じこと言ってると思うけど」
ネネお姉さまの瞳を見て言う。
「あたし、絶対にいいブレイバーになるから」
陳腐なあたしのセリフに対し、皮肉も冷笑も感じさせない完璧な笑顔でお姉さまは応えてくれた。
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