第25話 遼遠なる冒険者登録・完結その一

衛士だけあってそれなりにゴッツいい体格の若い男に厭世のタケをブチブチと語る。


「もーさー、一日に何度も犯されるは殴られるは殺されるは……もう下界はうんざりなのよ」


そう、これからは男たちの手の届かないこのレイヤーを永遠に彷徨うのよ・・・お腹減った。


「マジで?ブレイバーなんてヒョロっとしたガキでもそこらでドラゴンなんか倒しちまうくらい出鱈目に強い奴等じゃねーか。騎士百人で掛かってどうにか……てハナシだけどなあ」


「そーなん?……まぁ街の一つや二つくらいは更地に出来るっぽいまほー?はあるけど」


「かぁ~~……」


ごっつマッチョな衛兵さんはでっかい手で自分の顔を掴むと首を振る。


「なんでソイツをぶっぱなさないんだよ」


はぁ?


「だからよぉ、そんなどーしようもない奴等ばっかの街ならキレイサッパリぶっとばしちまえばいいじゃねえか」


子供か……


「そんなことできないわ」


「なんでよ」


「だって……」


溜める。涙も。


「あなたが居る街だもん……」


キラキラキラ~☆


「いや、そういう諧謔はやめてくれ」


ノリ悪っ!


「カイギャク……て、ああ…おふざけって意味か」


「なんつーか…そーいうノリって俺達みたいなこっちの奴等にゃ全部本気に見えんだよ」


「えぇ?!……ああ、ああそうなんだ!!虚構が無いのね?!」


冗談なんかも、全てが現実の延長なんだ。


「もし俺にそんな力があったら、こんな世の中なんかブッ壊してやりてえぜ」


あー、治安関係のヒト達て結構そんなハナシするよね。


「そーお?男なんだからもっと他に出来ることあんじゃない?」


前世の旦那達や子供らを眺めながらモヤモヤと感じてた気持ちを吐露してしまう。


「なんだ、ガキみたいなのにお袋と同じこと……って、まあブレイバーならそうか」


やべーな、カノジョに言われてたら『お前も俺を舐めんのか!』て殴り掛かってくるパターンじゃんあぶぶ。


「まー女故の妬みやっかみその他もろもろの愚痴よ。あー男に生まれ変わりたい・・・」


「ばっかおまえ、男だって大変だぞ」


「えー、好き勝手に生きんなら絶対男のが楽じゃん!・・・て感じるんだけどな」


「ナニが楽だって思うんだよ」


「だって力とか全然違うしぃ」


「そりゃしょうがねえ・・・ん?ちょっとまて、なんかおかしいぞ」


「ナニがぁ?」


「ブレイバーなら女でもそこらの男らより全然チカラあんぞ」


「マジで?」


そーいや天使ちゃんに力と・・・何か?を高くしてって頼んだんなのよだんだん・・・お腹減りすぎてコトバがあやしくなってきた。


「それよか冒険者の女はいろんな仕掛けや細かい魔法を使うからな・・・迂闊に襲えやしねえ」


まー性悪さだけならタメ張れるとはおもうけど・・・つーか女襲うのはジャスティスなん?


「ぼーけんしゃ・・・あ!」


「なんだよ、まだ登録してねえの?」


「出来ないのよ、お金なくて・・・」


「おいおい、ブレイバーならカネなんて掛かんねーよ!」


「マジで?!」


セバスちゃんはカネかかるつってジャリ銭くれたんやけど・・・

街ごとにちがうのかなあ。


「とっとと行ってこい!」


「そうね・・・着るモン見つかったら行こうかな」


衛士さんがため息をつく。


「・・・まぁ、浮浪児にしか見えんからな。よし、こい」


そう言うと彼は、踵を返して歩き始めた。

その後ろ姿をぼーと眺めながら手を振るあたし。


「おいジュリオ!その女動いてねーぞ」


周囲の見物人・・・うは、なんでこんなにヒト集まってんのよ。

暇人すぎるやろ・・・朝やぞ!つーかジュリオてイタリア人ぽい。

女だとジュリアでフランス人だとジュリアンで男に・・・てマジ命名則わからん。


「おい!ついてこいって!」


「えー?もうおっきなお友達に襲われるのはコリゴリなんだけど」


どーみても今までの男たちより背が高い・・・いや、耳長の黒い奴よかは低いけど。


「襲わねーよ服だよフク!」


「えーーーー???こういう古い時代・・・世界?て布製品めたくそ高いんでしょ?どっかで高級外車並みの値段とか聞いたわよ」


たしかイタリアのエッサホイサとかいうガンダムみたいなスーパーカーが二千万円とか二億とか聞いたけど・・・そんなカネないわよ。


「知り合いが・・・ええい、とにかく来いって!この街に居んなら衛士の要請にゃ従え・・・出来るだけ応じろよ」


「ああ、そういうことなら・・・ぃぃょ」


郷に入りてはなんとやら、てヤツだね。

歩き出した男の背をふよふよと追いかける。

ジュリ・・・男か。



彼はしばらく歩くと、大通り沿いに犇めき建つ一件の白壁・・・いや、全部白壁だけど。剥がれたとこから石組が覗いてるから灰や漆喰?石灰かも・・・の家の前でベンチでだらりと寝そべっている男に声をかけた。


「おいジェジェ!ブレイバー様に服を恵んでやれ」


「・・・あぁ?うは、衛士さん」


ジェジェと呼ばれた創世記救世主似の男・・・あ、街入るときにエルフとダベってた男じゃん・・・はジュリオを見ると慌てた様に椅子から立ち上がった。


「俺じゃねよこの女だ」


「え?誰も居ませんぜ」


救世主おじがきょろきょろとあたりを見回す。


「ん?・・・ああ、おい!いい加減降りろって」


「あーい」


ジュリオの頭より低い位置まで降りる。

埃とか巻き上がって汚・・・あれ?なんも巻き上がってこないよ。


「はぁ・・・え?なんで浮いてるんだ?」


「えー?クツが無いから」




なんかイケメンなので”襲われるから”とか言ったら”その顔でwww”とか笑われそうで気恥ずかしく、本心を語ってしまった・・・



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