第24話 おっさんvs童顔女

「あのー、生きてます?」


身なりの良さ、てきている服の布の広さ多さ色さ()で決定されるみたいな雰囲気だとしたら、このおじはなかなかの身なりなのではなかろうか。


顔を見ると、青ざめた白いカオに滝汗を流しながらうんうんとうなっている。


「あなたにキュアキュア~」


あたしの指先から女神の奇跡が光の輝きと化しておじに降りかかってゆく。


おじの顔が安らぎ、その鷲鼻から鼻提灯がふくらみ寝息と共に弾け、また再び生まれてを繰り返し始めた。


「えー、こんなトコで寝てたら踏み殺されちゃうでしょ」


道の端迄ひっぱろうと服を掴んだら、当然の如く服だけが脱げてしまった。


「はぁ~、どーにもなんないわねコレ」


相変わらず倒れたおじをさけて歩く人々を見ながら途方にくれかけたとき、こちらにダッシュしてくる若者が目に入った。


「旦那様!衛士をつれてき・・・おんな―――――ッ!何をしておるかァアアアア!!!」


「ナニって・・・」


自分の手の布を見る。


「・・・ああ、追いはぎとか置き引きとかそういう・・・」


「白状するか、潔し・・・いや、傲岸不遜なり!」


え?また捕まっちゃうの?そんで強か・・・


「死すべし!」


心の臓府を巨大な力で握りつぶされるような激痛が炸裂し、頭の中に閃光がめたくそに弾けまくり、そしてあたしは意識を失った。






満天の星空の下目を開くと、とりあえずあたしはマッパだった。


「ざっ、ざざざざざざざざざざんむぅうううううううう!!!!!!!!!!」


座したまま立てたヒザを掻き抱き、めたくそに震える。

膝を抱えて気づいたが、とうとうルーズもサンダルも取られた。


ぱんつもねーよ・・・


「・・・髪の毛があるだけマシか」


ゴミやホコリなんかでぶわっ、と膨らんだ髪の毛が肩から腰までゾロリと包んでくれてそれなりに冷気を遮断してくれる。


なんか尻ついてるあたりのドロもちょっとだけ暖かい。

肘や下腕のドロの匂いを嗅いでみると・・・


「ぶへっ!ウンコじゃん!!!!!!うわ、髪にもついてる!!!!!!」



まー転がってたんだから当然よねえ・・・


「麗しき水の精霊よ・・・温水シャワー!」


頭の上てカクッ!と倒した手から40度前後のお湯がシャワー的な水流で降り注ぐ。


「マジで出来るとは・・・魔法最高!」


男子系魔法もなかなか良いではないか。


「なんだ、マジックユーザーか?」

「おい、女が水浴びしてんぞ」

「なんでこんな往来で・・・」

「客寄せか?月明りじゃあ・・・なんだガキかよ」

「え?ガキ?!俺に見せろ!!」


瞬く間に人が集まってしまった・・・


まーウンコ塗れだしどーでもいいやとべっとりと重くなった長い髪を濯ぎ絞りながらシャワーを続ける。

クリップ欲しい・・・いや、洗濯ばさみすらあるかもわからんトコで贅沢は言えまいよ。

つーか足が貯まっていく湯泥でぐちゃぐちゃ・・・ああ、浮けばいーのよ。


耳鳴りと共に体が持ち上がる。


同時に、なぜかキラキラと空気中に霜がふりそそいた。


「わぁキレー・・・・・さむっ!」


お湯の温度上げて!と精霊を使役しながらシャワーを続け、全身をピカピカにする。


「おい!降りてこい!」


なんか下で叫んでる奴らに髪を絞った水を振りまく。


「うわ冷てえ!」


「おしっこかけるよ~」


「とんでもねえガキだ!」


「そのガキの裸じっくり見てるあんたらはなんなのよ」


夫々が悪態を付きぱらぱらと散ってゆく。


「風の乙女よ、暖かく心地よい香りの息吹で我を包み賜え~~~」


全身が暖かい森の香のカゼに包まれる。

なんてすばらしい魔法なの・・・濡れた髪を風に遊ばせながら目を閉じてくるくると宙を回る。



「あの女です、旦那様!」


なんや、あの男……ああ、置き引きとかつってあたしの心臓刺して殺した危険なヤツじゃん。


「生きて……いや、浮いとるではないか、妖精か」


「女!降りよ!」


ちっ、めんどくせーなぁ。


あたしはそのまま上昇すると、目をつむり………寝た。




白く低い太陽に照らされ、濃い群青の中で目覚める。



「寒い…お腹減った……」


辺りに目をやると、どー見ても空中だった。

足元におまるみたいなあの街が見える。


風とかコリオリの力とかでズレたりすんじゃないのかフツー・・・


「いや、こんな浮いててフツーが飽きれるわ」


そのままマッパで街に降りる。


・・・いや、クツ無いから浮かんで移動しよう。

大体大人の男の二倍くらいの高さをフヨフヨ浮かんで街を彷徨う。

めたくそ見られているが、マッパだし仕方ない。


「そいや魔女の荷運び人とかあったな・・・」


・・・いや、浮浪者に荷物預けるとか無いわ絶対。


なんか三男のヒロシみたいに出来ない言い訳ばっかしてない?

さすが血の繋がりというところか。


「はぁ、あいつらちゃんとメシ食ってんのかな・・・」


めたくそに腹が鳴った。


ガキどもの心配してる場合じゃなかったわ・・・


でもタケシ育ててる時はあいつが食ってる顔見るだけで全てが満ち足りた気分になっ・・・あれ、あんま思い出せないや。

脳の防衛本能かな。

たぶんあの満ち足りたラリラリ状態なら餓死も乗り越えてしまうかもしれん。

無論、乗り越えた先は異世界だろうけど・・・


「つーか死んだら異世界て知ってたらもっと勝手に生きたのにな~~、ああなんか損した気分」


脳漏れした高邁なる詞藻にフッ、と自虐的な冷笑を吹く。



一人勝手に生きるには様々な才能が必要だ。

あたしのような人間は『~だったら』と希望的妄想で自由を描きつつ必死に社会の首輪を求めて……


「お、ポエムづいたわ!…え~っと、自由を語って首輪を求め~……陳腐では?」


ひりだされたのは使い古されくたくたになったレトリック。


こんなんなら「社会保険神話ぁああああ!」てシャウトした方がなんぼかマシだわ……


コンマ秒でやる気を失い、なんか視界の下の方でめたくそ存在を主張してる下界のオトコに焦点をあわせる。


「おーい!ブレイバーのカノジョ!なにマッパでそんなトコ浮いてんだよ!」


はぁ~、異世界にも単数形二人称女性にカノジョて使うんだあ……




ん?

ああ、門番やってたヒトか……

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