第20話 れざりくちおん

「ざっざざざざざざっむぅうううう!!!!!!!」


変わらずの暗く冷たい寒空の下、跳ねるように飛び起きた。

両の腕で震えるこの身を抱きしめ、掴んだ二二の腕をめたくそに擦る。


貧しい胸の前でパキパキとナニかが砕ける手応えに視線を下ろすと、ズタズタワンピの喉元からヘソの下まで赤黒い何かがベットリと垂れていた。


「あ、血か」


そーだよ首ちょんぱ(ろく・・・高齢・・・古の語彙?)されたんだよ!

思わず寒さとは違う震えに背をおののかせ、喉に手をやってしまう。


「・・・あ、ついてるわ」


首が付いてる・・・斬れなかったの?

付いてるってことはそーなのよね。


や、やばい……はよ逃げねば!


キョドりつつ周囲を見れば、建物の中庭みたいだ。



「ああ・・・解体室じゃん!」


マジでこの部屋に縁がありすぎてイヤ。

たしかあの奥の天井があるとこのドアから出て左いくと酒場兼受付のホールだったハズ。


自分の姿を見る。


血塗れワンピにサンダル・・・そう、ルーズにサンダルは城を出た時のままだ。

そいや長耳ヤツか二人の奴らだったかが脱がさないほうがエロいとか言ってた気が・・・マジで男の変態性欲は理解不能じゃよ・・・


とにかく、この体を隠せるようなモノは・・・と物色すると、初期装備・・・いや、ゲームぽい思考が正義なんよこの世界・・・に貰ってたマントが置き引きもされずに部屋の端に投げ捨てられていた。


急いで包まりドアへと向かうと、男たちの会話と靴音が聞こえてくる。

あわてて腐肉箱の裏に隠れるとあたしが向かった屋内行きのドアではなく庭を囲む木塀のデカいドアが開き、遅れて屋内のドアが開いた。


屋内から現れた・・・あ、昨日の二人じゃん!髭の方が叫ぶ。


「おい!その腐肉箱だ。さっさともってってくれ!臭くて仕方ねえ」


「あいよ。おい、さっさと繋ごうぜ」


ひー、どうしよ・・・箱の陰でひたすら冷や汗を流しながら覗っていると二人奴どもは屋内へと消えた。

よかった・・・


もう片方の奴らは何かをガチャガチャしたあと、行くぞ、との声と共にクソデカい腐肉箱が揺れ、そのままミシミシゴトゴトと箱を引いて恐らくは外へ繋がっているであろう出口へ向かう。


動く箱・・・え?タイヤとか無いのに・・・あ、なんかやる気のないソリみたいになってるのか・・・の陰に隠れながらあたしも一緒に動いてゆく。


外に出たあたりで素早く左右を覗う。

あー、ちょっとおっきな裏通りて感じだ。


あたしは深くフードを下ろし、初めから歩いてましたよ?て風を装いながらギルド館の横路地へ入る。

そのまま表通りに抜けると、ようやく一息付けた。


「ふへえ・・・」


あーどきどきした。

マジ弱者て果てしなく逃げ続けなきゃならんからもー生きるのめたくそツライわぁ・・・


体温で溶けたワンピの血のむせるような臭気がマントの隙間から漏れ出してくる。


バッサバッサとマントを扇ぐ。

揺れた象牙色の髪の毛に、エルフに戻ってるのを気づく。


なーんで変身解けちゃうんだろね。


まーエルフなら気づかれんよな、と一気に強気になりギルドの入口を通り過ぎる。

ふと、ゲート前に杭が打たれ、その上に載っている小汚い毛玉のようなものに気付いた。


なんじゃアレ…え?生首?!?!?!


うぇ・・・なんつー野蛮な・・・未開の地なのかよココは!


急いで通り過ぎようと目を引きはがすが、強烈な既視感に目を戻す。



・・・あたしの顔じゃん!



そういや切った首はここに晒しておけとかあの美女が言ってたわ。

死に顔から目が離せない。

半目に開けられた左右の目が、ちぐはぐな方向へ向いている。

かくん、と力無く降りた口からどす黒い舌が垂れている。

いろんな人の声があたしに向けられているのを感じるが、強い耳鳴りでさっぱり内容はわからない。



嫌な臭いに気を取り戻すと、あたしは自分の首をもったまま小汚い裏路地を歩いていた。


え?持ってきちゃったの??


「うーん、戻した方がいいかな?」


でも自分の首晒されてそのままにすんのもな・・・恥ずかしすぎるやろ!

赤面してしまう。


あたしにもまだこんなピュアな気持ちが残っていたとは。


思わず自分の首を抱きしめて若い恥じらいを堪能してしまった・・・


「つーか、コレどーしよ」


埋めるのもなんだし、なんか臭ってきたし・・・まほーに死体処理する系の便利なヤツないの?


そう脳内検索してみると、れざりくちおん・・・とかいう魔法がヒットした。


「れざりくちょん!」


これも英語なのだろうか。

手に持つ自分の生首に詠唱すると、神々しい光の柱が立ち、巨大な光るリングが天へと広がりながら登ってゆき、自分の周囲に白い羽根がめたくそ沢山振って来た。


「うっ・・・またハト?多すぎでは??」


息を止めながら鼻をつまむ。

ニワトリだろうか・・・ほんと町の衛生はどーなってんだと言いたい。

あたし処刑するよか鳥フン被害をなんとかしろよ!


そんな不満を思い浮かべながら、ふわり宙へと浮き上がった生首から光り輝く線のように体が伸びてゆくのをぼー・・・っと見ていた。


胸、腹、腰と体幹が生え、そこから四肢が伸びる。

ふわりとカラダが波打つように浮き上がると、あたしが降り立った時に揃ってた衣類や装備などが次々と現れ装着されてゆく。


そして完全にその姿をよみがえらせると、彼女は地に足をおろした。



閉じられたマブタが開き、あたしと目が合う。

彼女は驚くように目を見開いた。


まあ、ジブンが目の前にいんだからそりゃ驚くよな・・・


「え?!すごい!めたくそ美形じゃん、どうしたの?!?!」



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