第17話 ギルド受付嬢ナンシーのある日

やたら男の匂いを振りまくブスの奴隷を追い返した後、駆け出し冒険者のマイキーからのしつこいナンパをいなしながらいつものように夕方を迎える。


「ほら、もう終わりだろ?メシ食おうぜ?傲るからよ・・・っと、なん・・・あ、へへっ、じゃアッシはこれで・・・」


珍しいマイキーの諂うような声に顔を上げると、男爵家のセバス様が立っていた。

素早く立ちあがり、礼をとる。


「いらせられませ」


家宰が直々に来られるなど、一体・・・いえ、マスターに取り次がなきゃ!


「本日、ここにナイコというブレイバーが登録に訪れたはず。指名依頼を出すので全てに先駆け速やかに最優先で処理せよ」


案内の間もなく、書類―――――おそらくは依頼内容が書かれている―――――をカウンターへ放り去ってゆく。


「確かに申し受けました」


深々と頭を下げながら一日を思い返す。

ブレイバーなんて来たかしらん?


えーと、朝の業務開始と同時にマイキーが来て・・・いつの間にか消えて・・・ストブリが五番の解体部屋に女連れ込んで・・・マイキーが来て、昼食に出て・・・午後は精液臭い奴隷女を追い返しただけで、その後すぐにマイキーが来て今に至る、と。


隣の疲れた顔で書類を整理して立ち上がるジローに声をかける。


「ねえ、あたしがランチに出てる間、登録者来た?ブレイバーだって」


「あーん?来てねえな」


「あっそ。ヘンね・・・家宰の方が直接参られる事もだけど」


用を申し付けに降りてくるのは、気さくなウォルフ様だけだ。

家人の、それも最上位者が直接こんな下界の埃に塗れに来るなど考えられない。


「ブレイバーなんて最近とんと現れねーからな。来りゃ目立つだろ」


じゃあな、と奥の棚へ向かい書類を納めてジローは去って行った。


「そうね、見逃し様がないわ」


なにかが引っかかる違和感の正体が今一つ掴めないけど、ま、来たらわかる程度の問題なんだし考えるだけムダよと受けた書類――高級な羊皮紙の巻物――を封蝋のまま二階のギルマスの秘書係へ提出し帰宅しようとギルド建屋を出た。


「ねぇお兄さ・・・チッ、女か」


舌打ちと共に身を返した夜鷹の腕を掴み上げる。


「イデデデデ!!!!!あにすんのよ放せェえええ!!」


あたしは屋内に向かって叫んだ。


「警備課来い!」


飛び出てきた守衛に女を放りながら愚痴る。


「マルコか・・・ナニやってんのよ、夜鷹が客引きしてんじゃない」


「ええ?コイツ、恐れを知らねえつぅか・・・すいやせん、処理しときま」


マルコが暴れる女を殴り、穏和しくさせる。


「首はここに置いといて。臭うだろうけど罰金だと思って堪えなさい」


「へい、わかりやした」



建屋の明かりから夜へ身を返すと、泣き声ともつかぬ女の笑いとマルコの怒声が聞こえた。


その夜は、憐れを誘うようなその笑い声が耳について寝付けなかった。





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