第15話 冒険者登録への遼遠なる旅路・その壱
「おい!浮浪者が入っちまってんぞ!ギルドの奴仕事しろよ」
「気づいたヤツが片づけろって」
「チッ、しょーがねえ・・・ん?女か?あっ」
聞き流していた喧騒に見知った声を聴く。
ぱっちりと目を開くと、目前にギルド前で出会った若いイケ男がいた。
「なによ、ナンパは終わったの?」
「ナン・・ぱ?・・・ああ、女を釣る慣用句か?はじめて聞いたな」
なんだろう、
男はあたしの首根っこを掴んで立たせると、床を転がった際に付いたホコリをパンパンと叩きながら言った。
「おまえ、登録は終わったか?ランクは?レベルはどうだ。クラスはなんだった?」
まーたゲーム的なフワフワファンタジー語彙が・・・いや、だからあたしのこの認識のがフワフワなんだよ!よしわかった!!
その前にこの若者を血迷わせてデカ手男に因果を含めないと。
「ちょっとぉ~~聞いてよ!ひどいのよ、あそこの男がぁ・・・」
指した先にはめたくそ巨大な片目の耳長大男があたしを睨み下ろしていた。
「ヒイッ!」
いつのまにかデカい手男も、隣の若者も居なくなっていた。
「俺がなんだ」
「なっ、ななななな!なんでもありませえええん!!!!!!!」
「フン・・・妙な言い掛かり付けっとズタズタに犯して豚の餌にすんぞ」
「うん。やさしくしてくれるなら、ぃぃょ・・・」
頬をぽっ、と赤らめる。
もはやこの赤面ワザはスキルとして定着した感がある。
突然腰を掴まれ、宙づりにされる。
「おい、部屋を貸せ」
「今ですと五番の解体部屋が空いてます」
解体・・・なにを!?
「わかった」
わからないで!!!!!
あたしはそのまま昏く血生臭い部屋へと持ち運ばれ・・・
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豚の餌にはならなかったが、一つだけ骨の髄にまで思い知らされたことがある。
カレは、やさしい男だった(剣鞘)。
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「おいおいダレだよ臓物箱に女捨てたの」
「ストブリの兄貴だろ、さっき鼻歌しながら帰ったの見たぜ」
「へえ、よっぽど良かったんかねこの女」
「ちっと試してみっか・・・いや、骨盤割れてるわコレ」
「うへえ・・・え?じゃあこの血の匂い全部コイツのかよ」
「こんだけ流しゃあ苦しまずに逝けたろうな」
「いや、刺さってるモンみろよ。これじゃあな」
「うわ、ひでえ・・・最後の一滴まで苦しみぬくように、か」
僅かに呻きを漏らしながら正気を戻そうと目を開けると、ぐにゃりと歪んだ模様がこちらを覗き込む二人の男の姿に整っていく。
「あ・・・うっ、あた・・・ヒギッ!」
体を二つに裂かれる激痛が、股から脳天に駆け上がった。
しかも、心臓の鼓動にあわせるように何度も、とめどなく・・・
ビクンビクンと、おそらくは涙ほか様々なモノを垂れ流し続けるあたしを前に、二人が会話を続けている。
「おい、楽にしてやれよ」
「おれは女も子供も殺さねえのが信条なんだ。なんとかなんねえのかよ」
「コレを抜いたら死ぬ。このままなら苦しみ抜いて死ぬ。俺のこの腕だと何度も斧を振ることになる・・・」
仕方ねえ、の声とともに刃物が鞘ばしる音が。
激痛に歪む視界に、革のシースからむちゃくそデカいナイフを抜き放った男が映る。
せめて楽に逝けるよう、彼に向けて喉許をあけ・・・あ、キュアキュアあんじゃん!
激痛と激痛の僅かな間を突き脳内で詠唱から発動のイメージが素早く展開され、突然にして全身を苛む激痛から解放された。
「はぅっ」
安堵が漏れてしまった・・・
「ん?力尽きたか」
汚さなくてすんだとばかりにいそいそとデカいナイフ・・・小剣だろ・・・をしまう男の横で、もう一人の男が興奮したように口を開く。
「おい、神聖系の発動光だぞ!・・・傷も、挿入ったブツも抜けちまってる、すげえ!ハイレベルプリエスト・・・プリエステスじゃねーのかこの女!」
「おいおい洒落になんねーぞ・・・ストブリの兄貴、やっちまったな」
やべえ、また勘違いムーヴが始まってる・・・
急ぎ身を起こす。
・・・
体を起こすときに付いた手がニチャア~~となる。
赤黒かったり黄色かったりと様々な内臓・・・お、腎臓みっけwww・・・の上に・・・
「オロロロロ~~~~~~」
突然、今気づきましたとでもいうような悪臭に鼻の奥を刺殺され、激しい悪寒に押される様に今朝食べたフルコースのお高い食事を戻してしまった。
「おお、さすがにイイもん食べて・・・お食べになっていらっしゃりやがりますですな」
なんでゲロからわかるねん、と疑問する間にゲロ吐き女であるこの身の不浄を嫌する素振りも無く、両脇の下に手を入れられ内臓が詰まったクソのような箱から救出してもらえた。
丁重に見えるように、との努力のわかるギクシャクとした動きで差し出された草色のワンピ・・・ほぼ只の襤褸にまでズタズタになってしまった・・・を胸に抱き、胸と喉を焼く酸を吐き捨ててから言った。
「ありがとう。でもあたしは」
「いえいえ、只今水・・・お湯をお持ちします」
「どうかしばらく、あ、ここにお座り頂いて・・・」
「まって!あたし、お坊さんじゃないし!冒険者登録に来た、えーとブレ・・・只の庶民・・・でもないか、浮浪者だから」
また前世気分で言えなかったよブレイバーwww
「ええ?・・・いや、そりゃねーだろ」
「ほとんど死んだ状態から回復したんだぞ、司祭様だってホネを接ぐくらいが精々だってのに・・・」
片方の男が自分のウデをさすりながら言う。
「そこ、痛いの?」
「いや。デカい依頼でケガしちまってな・・・ホネは接いでもらったんだがスジが繋がらなくてよ」
「ああ、スジって繋ぐのムズイとかムリとか聞くもんねえ」
鷹野代先輩だったかな・・・フェン部の先輩で切ったらすぐ診せないと繋がらなくなるとか脅されたの思い出した。
「まほー試してみる?ムリかもだけど。治癒と原状回復て違う気がするのよね・・・」
「あ、ああ。でもカネもってねーぞ」
「いらないよ。・・・あ、治ったら水欲しいかな」
っと、女神様の力と交渉に使ったら神の雷で焼かれるかもしれん!
答えられる間に魔法を放つ。
「あなたにキュアキュアー!」
男のヒジが光り、そして消えた。
「どう?」
「ん・・・ああ、治った・・・マジかよ」
よかったねー、と続けようとして教会の禁忌を思い出す。
「あの、教会に言ったら殺されちゃうみたいだから、内緒にしてね?」
お願いすると、二人は涼やかな笑みを交わし合い、言った。
「・・・そりゃいいことを聞いたぜ」
「ああ」
ええええええええ!!!!!!!!!!!
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