第14話 冒険者ギルド

城から送り出される際、家宰のヒトに勧められた冒険者登録を行おうとおもふ。

大通りを歩いてゆけばそれらしき人々が出入りするそれっぽい建物がある、とのめたくそ適当な案内だったが・・・アレか?


鎧姿に盾と剣を背負ったゲームっぽい人等の集団が出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり出たり入ったり・・・


「ウッ・・・」


昨夜の強烈な体験がフラッシュバックし嘔吐いてしまった。


なにが処女の心得がある・・・じゃよ。。。マジなんだったんだよ心得。剣鞘か?

処女は剣鞘を用いて両穴同時に散らすべし!異世界おそるべし!!



あー、こういう精神障害てキュアで治んのかな・・・


「心にキュアキュアー!」


・・・治らん。


なんかソレっぽい英語で叫べば治るのでは?



「うーん、鎮静剤?・・・トランキライザー!」


白い輝きがあたしを包み込み、弾けた。


・・・ん、治った・・・ぽい。

昨夜の大惨劇を思い返してみる。

フツーに怒りだけがモヤモヤ昇ってくる。


「もー絶対あの男にはかかわらん」


よし、特に恐怖とか苦手意識はあがってこないし、バッチリぽい。


ん?怒りも笑いも安心も幸せも、恐怖ていうただ一つの感情の変容でしかないんだっけ?



またどこかの雑誌か虚構作品かで目にした適当な概念だかが漏れ出てしまった・・・


「おいねーちゃんよ、魔法使いか?」


これが破鐘のような声か、といった野卑な男の声を向くと赤く焼けた肌にクリーム色の毛髪、太い眉の下に暗く輝く灰色の瞳といっためたくそカッコいいおじ・・・いや、ティーンかこんくらいだと。


前世40過ぎたあたりから白人を首めとする彫りの深い種族の顔も十代と三十代の区別が付くようになったのだ。

流石前世!


しかしねーちゃんと言われ向くと当然のようにあたしに向いてる視線が満足というかときめいてしま・・・


「違うのか?ん、帯剣してんのか」


バフっ、と男は遠慮の欠片も無くあたしのマントをはたき開く。


「細剣・・・魔法剣士か?」


男はピュウッ、と口笛を鳴らしてあたしを向く。

・・・覗いたのは脚か?エルフんときと同じ草色ワンピだしな・・・それともやっぱ剣?・・・いや、今化粧もしてねーしあんま期待しないほうがいいよね。


「あっ、いえ、まだ冒険者?登録してないんですよ」


つか、まほーけんし・・・なんじゃそのゲームみたいな・・・てそういう世界なんだよあたしの方がズレてんだよいい加減気づいて!!!!!!


「ああ、これからか。だったら付いてこい」


砂ジャリを鳴らす音を立てながら踵を返し、男が冒険者ギルド(仮)に入ってゆく。


え?尾いてっちゃっていいのん?

いいか。


ただ歩くだけでも若さの躍動を感じさせる男の背中を追いながら、とくにドアもない建物の入り口を通る。


建物を外から見た時点では、低い太陽の逆光で真っ暗だったけど、中は高い天井にある数々の色鮮やかなステンドグラスから採光しており、かなり明るい。


広いホールには丸テーブルが並び、夫々で金属と木の大ジョッキを片手に冒険野郎共が賑々と騒いだり真剣な顔で語り合ったりするその様は酒場と言っても通る感じだ。


男はそのまま奥のカウンターへと向かい、列の無い受付に着くと、そこの嬢と話し始めた。

背後で待ちながら、手持無沙汰に周囲を覗う。


なんか、いろんな人種・・・?腕が完全にあたしの肩周りより太い・・・いや、あたしなんて握れてしまうほどの巨大な手を持つ上半身の男が・・・あ、足は短いのか。

え?魔人とか敵の分類の種族様なのでは?

・・・いや、あっちにも、向こうにも・・・フツーに沢山いるわ。


あ、あの耳が長い人はエルフ・・・え?スケールがデカい腕のヒトと同じ・・・巨人かよ・・・でもスタイルがむちゃくそイイわね。

横に座ってるフツーにガタイのいいイケおじがなんか中学生みたいに見える・・・


しかし男のハナシおわんねーな。やっぱいろいろ揉めてしまうのだろうか・・・


「・・・だからさあ、誰も並んでねーしヒマじゃん。昼食いこうぜ?」


あたし放置でナンパしてたwww


「ちょっとおにーさんっ!」


バシバシと男のケツを叩く。


「ん?・・・なんだおまえ」


「え?案内してくれんじゃないの?」


めたくそ初めて見るような目で見おったわコイツ・・・


「ああ、俺は忙しいからソッチ、隣の列に並んでくれ」


言い捨てると男はナンパに戻ってしまう。


ぽかーん・・・と数秒の後、ジワジワとある種の満足感が心を満たして行った。



「これが・・・これがフツーの女の幸せか!」



突然のしょっぱい扱いもなんのその、あたしは足取りも軽く隣の列の最後尾に並ぶ。


つーかみんな並んでんのね。

ちっ、異世界ヤツ等の分際で東京もんブッてからに気色悪う・・・。



「おう、空けろ」


野太い声でデカい男があたしの前に割り込む。

巨大上半身ヤツの種族だ。


「ちょっとお、ねえ!」


バシバシ背中を叩く。

男は煩そうに左わきの下からあたしを覗う。


うーんマジでかい・・・


「割り込むならもっと前に割り込みなさいよ!なんで最後尾のあたしの前なわけ?!」


「そんなん前のこの女がコエーからにきまってんだろ言わすんじゃねえよ」


「あ、そうだったんですかすいません」


舌打ちしてあたしを睨む男。


「あんまうるせえと握りつぶしちまうぞ」


「ん、優しくヤッてくれるなら・・・ぃぃょ」


ちょっと照れながらウィンクで答えると、男はそのめたくそにデカい手であたしを掴み上げた。


あっ・・・☆スゴイ・・・あったかい水布団にくるまれたみたいに・・・


「ぎゃああああ!!!!!潰れる、つぶれるぅうううう!!!!!!!」


喉許にこみ上げた内臓の圧力に窒息する寸前、ぺいっと投げ出され、そのまま世界がぐわんぐわんと回転した後に恐らくは壁にぶつかって止まった。


目が回る・・・



壁際へ襤褸雑巾のように投げ捨てられたまま、あたしは全てのやる気を失い目を閉じたのであった。

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