第13話 まほーん

「娘とウォルフに授け下された癒しの奇跡のことなのです」


「あー、魔・・・アレですか」


あたしも疑問が氷解!て感じでリラックスしてしまった。

便利だもんね、つーか斬った張ったの実務とか関係なく偉い人なら・・・て貴賤関係なく欲しいよな。


「うむ。神や聖に属する系統で、かなり低い階梯から使えると話されたそうですな。その・・・エルフではなく今のナイコの姿でも使えるものなのですか?」


「あー、たぶん問題ないと思いますし・・・閣下も我が主アイネルが奉じる女神エルテの信仰に属していれば、ひょっとすると」


「おお、していかようにすればその奇跡を授受出来るのですか」


「えーと、どーだったかな・・・あ、神聖魔法って聞いてなにか浮かびませんか?」


「神聖魔法、いや・・・耳にしたのは初めて・・・おお」


なんか突然男爵の頭上で天使の輪っかみたいのが連続で弾け始めた。

パチンコのフィーバー状態みたいじゃよなんなんコレ・・・


男爵は二十秒くらいピカピカビクビクし、その光と痙攣が止まると、突然立ち上がった。


「ナイコ殿、感謝する。セバスよ、厚く丁重にお送りせよ」


では、とその巨体がドアの外へと飛び出し靴音も高く走り去って行った。


え?貴族て廊下は走っちゃダメとかそういうのなかった??


「ナイコ様、今のは一体・・・我が主になにを施されたのですか」


「え、わかんないよそんなん・・・てかあなたは何ともないの?」


「神聖魔法、でしたか。二段目の階梯にキュア、というものがあるとだけ」


「えー、じゃああなたも使えるんじゃない?怪我した時とかに。。。あ!」


白のキミのセクシームーヴを思い出した。


「教会の人の前で使うとその場で殺されるみたいだから、気を付けて」


「はあ、気を付けるも私が使えるとは・・・おお」


セバスさんは何やら左手首をさすると感嘆を上げた。


「痛みが・・・いや」


テーブルのリンゴらしき果実を取り上げ、突然握りつぶす。


「わ、ちょっといきなりナニやって・・・」


「なんと!―――――ナイコ様、有難き・・・感謝をお受けください」


家宰セバスはアタシを向くと、めたくそキラキラした尊敬のまなざしで見つめてきた。


「え、いやいや感謝は我が主天使アイネルと女神エルテにしてよ!あたしの力とか全然関係ないからね?」


んー、無いとは思うが男爵様も思い違いしてたり?筋違いの感謝とかされたら信仰心逆流して即死するかもしれん!


「無いとは思うけど、男爵様にもあたしに・・・絶対にあたし自身の功績だと評価しないように念押ししといて・・・て、頼んでいいのかしらこういうこと」


ブレイバーてここまで聞いた限り、無礼不遜が服着て歩いている厚顔無恥な浮浪者みたいなもんやろ?

いーのかよお城の全てを取り仕切るトップの人にこんなこと頼んで。


「なんと・・・神界より見れば塵芥に等しきこの身に奇跡をお授け下さる尊き御方のなんと奥ゆかしきお言葉でありましょう」


げ・・・イッちゃってるよマジ惚れしちゃってるよこの人。


「セバスさん、正気に戻って!―――――そうだ、ハイン様のお心を施された方がセバスさん自身に感謝してきたら『心得違いをするな!』て叫びたくなるでしょ?わかって?」


セバスちゃんは、ハッ!となにかに気づいたように正気に戻った。


「そうですね、盲目た羊達は舌でしか物が解らぬが道理・・・しかしナイコ様、あなたに諭されなくば私も我が主も女神に齎せられていた奇跡に気づくことは叶わなかったでしょう。感謝を」


そう言ってなんかめたくそに好意と敬意を感じる所作で謝礼の意を頂いてしまった。


「・・・うん。まぁあたしもあたしなりに役に立ったのなら、嬉しい」


浅ましくも受けてしまった・・・あたしにとっては絵空事の延長のような、このふわふわとしたなんの努力もなにもなく獲得したゲームぽい便利機能も、この世界の人々にとっては紛う事なき奇跡なんだ。


そしてそのまま支度金の入った袋とダガーっつー諸刃の短剣・・・つかめたくそデカいだろ天使に貰ったレイピアよか倍くらい重いぞ・・・を受け取り城を出た。


振り返ると、暗い青空に鋭い尖塔が立ち並ぶ・・・マジモンの中世ヨーロピアンなお城、て感じ。

つーかでけえな・・・こんな城、グーグルでも見たこと無いぞ・・・


男爵て最下級の爵位じゃなかったっけ?


城門を出ると、丘の下に広がる街の広さに圧倒される。

野原→馬車→いきなり城内だったからなー・・・えー、どんくらい人住んでんだろ。


暗い空の下、横からの白い光に青い屋根、白い壁の様々な建物が犇めいている。


ぼー、と異世界の街並みに心を奪われてると、ドーンとゆるいが大きな衝撃に見舞われ倒れかける。

寸でのトコで大きな手に両肩を支えられ、腕の先を見上げると善田さんゼンダウォルフだった。


「すまん、急ぐのでな」


ニコリと笑い去ってゆく。

一瞥も振り返ろうともせずに。


あ、そうか。

今の顔へちゃむくれ仕様だから・・・


去ってゆく幅広の逞しい背中に万感の思いが去来する。



「あたしの初めて(今世限定)のヒト・・・ヒッ?!」



・・・陰惨も極まる血塗れの昨夜剣鞘を思い出し、即踵を返しマントを深く被った。


そしてあたしは手の中のジャリ銭袋に目をやると、目下に賑わう大通りを目指し歩みを進めるのであった。









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