第12話 ハイン・フォン・クンツグーデ
親切なクンツさん、か。
「ナイコ殿。そなたには是非我が領、並びに寄り親であるキルギス伯の領内で活躍して欲しい」
「はい、鋭意努力いたします・・・ですが、その」
「言葉遣いに遠慮は無用です。他のブレイバーが言っておりましたが、あなた方の世界におけば私など村長、町長といった程度の役職であるとか。そう思って忌憚なく述べられよ」
ハインさんは立派なヒゲをしごきながら先を促す。
「うーん、なんとなく転生してくるブレイバー達の人品が察せられるお話ですね・・・お恥ずかしいです」
そいつら絶対町長どころか村長のシゴトさえ知らんだろ・・・てあたしも知らんけど。
「いやいや、そう悪い者はおりませんよ。正義感が強く、悲劇を見過ごせない。人の善性を強く信じる者達ばかりです」
バカで単細胞で世間知らず、てことか・・・男爵よ、お主も言うのうwww
「あっ、わたくしもそう在るように努めます。んっ、それでですね・・・その、どういったことでお役に立てばよろしいのでしょう」
「そうですね、国の特攻野郎・・・冒険者としてキルギス領内で活躍して頂きたいのです」
「とっ、特攻・・・」
「いやいや、ブレイバーの方々達の間では冒険者というとか。それで旧帝国から現公国、小国家群での公式の身分も冒険者という名に定まっております」
「ひょっとして、お仕事の内容は・・・」
「そうですな、領内に現れる亜人、魔人などの駆除と地下迷宮の攻略が主な活動になります」
うそぉおおおお!!!!!!!!!!!!!
「そっ、それは・・・あの、事務・・・机仕事や家事全般、草刈りやドブ掃除なんかは無いのでしょうか」
「む、それは・・・恐らくは受けられましょうが、力無い者達のシゴトであれば・・・ブレイバーの方々に就いてしまわれると、その分飢える者が増えてしまいます」
「あっ、ごめんなさい、思慮が足りず・・・我儘を申してしまいました」
やべえ、飢えとかあんのかよ・・・税は通貨じゃなくて穀物か。
「魔の者共との戦闘に不安がありますのか。女性ながらもオークと複数のゴブリンを相手取ったと聞いておりますが」
「あ、いえ!飢え・・・というか社会の階層や職分が絡むのであれば勧められた仕事に否やはありません。ハイン様の期待に応えられるよう尽力いたします」
息をつき、男爵様が椅子に沈み込んだ。
「・・・それは重畳。なんでもあなた方の世界では誰もが飢えず、身分能力に関わらず自由に職を選べたという。誰もが屋根の下で暮らし暖衣飽食を極め、四頭立ての馬車より速い乗り物を所有できたと聞きます。・・・まことなのですか?」
うっ、ひょっとしてなんか厄介事を押し付ける前振りだったりすんの?
「そうですね。あたしが生きた時代の前後50年てトコですかね・・・食料がバカバカ作られるようになっちゃってから地球・・・あ、惑星の人口が30億くらいから一気に70億人くらいになってヤバイとか言ってました」
もう100億超えてんだろ、倍々ゲームで増えてくんだからたぶんある日突然大飢餓が炸裂して恐ろしい時代が開始すんだろうなー・・・あー転生してよかったわい。
「70・・・億、というのは一万の一万倍と聞きますが、それほどの人間が・・・最早想像もできません」
「いやー、フーだかホエーだかって世界中のなんかの統計を取るトコが言ってるだけですからね?あたしも数えた訳じゃないですよ?」
「ふ、そのような機関を組織しできるということすら途方もない力と英知が必要と感じるのですよ」
ん?・・・70億人から人頭税を徴収とかそういうイメージか?
「ああ、でも教会とか・・・国を越えて安定した価値観を持とうといった近しい組織はあるのではないですか?」
「それはご覧になったように・・・ですな」
「あーお金が絡むと・・・腐敗・・・まあ、政治的な面が強く出てしまいますわよね」
なんかグダグダとどーでもいいハナシが続いている。
男と話すのめたくそ疲れる・・・
いや、男爵様もなんかダレてきてる感じだし、あたしの察しが悪いんだろ反省せよ!
束の間の沈黙が降りた辺りで、いつのまにか傾いだヒザを戻し腰を伸ばし、切り出す。
「閣下、その~・・・弁えを足りぬことを口に出す様で恥ずかしいのですが、もしや私に・・・私がお力になれることが有るのでは無いでしょうか」
有るのか無いのか・・・つーか用は何?って聞くのになんでこんなコトバこねくりまわさなきゃならんのか。
男爵は顔を『やっと言ったか』てな風に崩し、語り始めた。
めんどくさ・・・
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