第9話 車中
翌朝、あたしらは再び車冑じゃなくて車中でドッカンバッキンと馬車に揺られていた。
『おい、そろそろ石畳だ。ラシィ達に伝えてくれ。返事はいいぞ』
馬のモンケラスから通信・・・なんなんコレ・・・が入った。
「うーい、て届かないか。ラシィちゃん、じゃない!殿下、モンケラスがもうすぐ石畳だって」
「あいわかった。ナイコよ、マントを噛んだほうがよいぞ」
そういうと、ラシィちゃんは綿のようなものを取り出して口に入れる。
「え?石畳て舗装されて・・・ギャフッ!」
瞬間、馬車がなにか巨大な板でブッ叩かれたような轟音が炸裂し、続いて重機関銃で掃射されているかのような連続した破裂音が轟き渡り、同時にキャビン内のモノ全てが破砕されるのではという激震にみまわれた。
そんであたしはめたくそに舌を噛んだ。
激痛!!!!!
しかし、絶え間ない激震の中、魔法なんてとても使えない。
そうか・・・石畳て平らじゃないのね・・・酷い!!!!!!岩ダタミだろこんなん!!!!!!!!
この轟音、轟震の中で
すげえ・・・痛い・・・!
舌噛んでるし、いまさらこの汚いマントなど口に入れられるものでなし・・・耐えるしかないの?!
しかし、じきに振動は軽減されてゆき、ゴロゴロうるさいな~くらいまでに落ち着いた。
ラシィちゃんがため息と共に口から取り出した綿を窓外へと放り、
あたしは呪文を詠唱する。
「へまみふぇふへもきめきひほひ・・・ふぁらひみひゅあひゅわ~」
・・・発動した。
舌の激痛は淡雪のように消え失せ、あたしはこの身の健康を深く女神エルテに感謝するのであった。
「・・・ほう、さすがに祈る姿がサマになっておる。使徒というもあながち間違っては居らんのかもしれんな」
「だって本気で感謝してるし。誰だって祈って痛み消えたら感謝くらいはすんでしょぉ全力で」
「そっかぁ?」
「痛みなんて無い方が稀だしなぁ・・・いつの間にか消えたな程度で、そんな祈ってスッキリ消えましたなんての経験がねえな」
は?なんか神の僕です的なヤツいたじゃん。
「え?神官・・・てかあの白いお兄さんとかの魔法で癒されたりしないの?」
「やつらはそんな御大層な魔法なんて使えねえよ。精々死にそうなヤツらから金巻き上げて祈りを垂れて頂くくらいが関の山てトコだ」
ひでえ・・・
「癒しの方技は上級僧侶の秘奥とされておるよ」
ラシィちゃんが続ける。
え?でも、この英語魔法()キュアってそんな大げさな魔法なの?
疑問しながら脳内スキルブック・・・つかチャートみたいのを辿ってみる。
「・・・あの、この癒しの呪文てレベル2とかみたいなんだけど」
「レベル?何かの階梯か」
二人を見る限り、世の中には通じない概念のようだ。
ええ・・・ゲームぽいこと言っちゃってなんか恥ずかしい。
でもLv2てチャートにあるしなぁ・・・
「なにを恥じらっておる」
「なにか性的な仕儀が関係するものなのか?」
「なっ、そんな人をいつもエロいこと考えてるみたいに言わないでよ!」
全力で遺憾の意を表します!
「いつも、とはいわぬが、ナイコよお主は・・・子供のワラワから見ても色情の気がかなり強いと感ぜられるぞ」
ラシィちゃんから刺された。
「うっ・・・面目次第もございません」
たぶん膜が悪いのよ、穴の膜が。
「一発、事に及べばスッキリと落ち着くだろ。謁見前の身繕いの場で面倒見てやるが、どうだ?」
「は、謹んでお受けいたします」
忙しいだろうに、マジ申し訳ない。
顔は美しいとか褒められてっけど、この胸、このシリだからな・・・トリガラじゃよホント。
若返りと共に復活してた性の高売り意識なぞもはや欠片も残らずに消え去っていたのであった。
「・・・癒しの技法の話であったな」
「あ、そうですソレ。レベル2だし、職能があったらすぐに使えるって程度だとおもいますよ?実際、僧籍でもなんでもないあたしが使えるんですもん」
つーかゲーム的に、回復魔法なんて遊びはじめの低いレベルで使えなきゃ『なんやこのクソゲ!』つってみんな投げちゃうよね。
「お前は女神エルテの信奉者ではないのか?」
「ないかそうかでいったら信奉者だろうけど・・・前の世では教祖見捨てて逃・・・別の宗教に入ってたし、たぶん教会とか関係ないんじゃない?」
救世主教じゃ通じんだろしな、と説明しようとしたらディスり風になりそうであわてて止めてしまった。
つか、頭の片隅で”神聖魔法”の4文字がうるさいほどビガビガ光って主張している。
わーったよ言う言う!
「・・・神聖魔法だって」
また顔が熱くなる。
この歳でまほーとか口に出すとか・・・ファンタジーな会話がツライ!
「だからなぜ恥じらうのじゃ・・・」
ラシィちゃんからの憐れみの視線が痛い。
だってナニナニ魔法とか言うの恥ずかしすぎるやろ!
「まぁ若い娘にゃいろいろあるっつーことだなよしよし」
・・・うれしい。
「して、神聖魔法か・・・ううむ、そのような権能、耳にせんの」
「確かに、僧兵といったら後ろで騒ぐだけですからな」
どーなってんのん。
「ブレイバーさんたちとかは使わないんですか?」
転生ヤツならみんな血眼になって覚えるんじゃないの?こんな安くて便利つかヤバイ世界なら必須だろこんな魔法。
「聞かぬのう。まあ、癒しの秘奥として教会が独占しておるという政治的なしがらみを避けておるのかもしれぬが」
「なあ、その神聖魔法っていうのは俺も使えるのか?」
「んー、あたしは頭ン中に神聖魔法の本みたいのがあって、それをタップ・・・めくるみたいな感じなんだけど、どう?」
「どうと言われても・・・ああ、コレか」
「あんの?!」
「ほう、わらわにもありよるわ。”キュア”」
あたしに向けたラシィちゃんの手が神々しいひかりに包まれ、弾ける。
「ほぉ・・・使えたぞ。どうじゃウォルフ」
齢相応の嬉しそうな笑みで
めっちゃ顔が近い・・・彫りの深い脂ぎった精悍な顔に剃り残されたヒゲがめたくそゾリゾリちくちく・・・セクシーすぎてヤバすぎる。
「赤く腫れてた打ち身が奇麗に消えておりますな、これはすごい」
え?・・・あ、起きた時のか。
カサブタになってるが、豚に追われてコケたときの傷がある。
「
「うむ。・・・”キュア”」
あたしのヒジを持ち上げ、逆の手をかざして詠唱(?)する。
やはり
うーむ、使い勝手いいな英語魔法!
すべらかに戻ったヒジをさすりながら万悦の表情でニコニコしてると、ラシィちゃんが呟いた。
「ふむ、”審判を齎す者”はともかく、やはりそなたは神の使徒なのかもしれんな」
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