第8話 勇者

「ブレイバー・・・」


呆けた善田さんゼンダウォルフの口からなんかかっこよさげな名前がひょろりと出てきた。


ため息をついて、ソファの背にもたれるラシィちゃん。


「そなた、照れておる場合ではないぞえ」


「えっ?やっぱ顔赤い?」


「うむ。透けるように白い肌だけにのう、赤みが目立つわ」


なんか今気づいたけど、ラシィちゃんて見た目の年齢ぽくなくない?

語彙とか・・・


「そうよ、未だ聞いておらんかった。そなた、名は何と申す」


「え?偉い人に名乗っちゃっていいの?」


「くるしゅうない」


うおお、生くるしゅうないを聞いてしまった!


「前世の名前は苧伴乃子おばんないこ。ナイコが名前でオバンが姓」


「うむ。やはり貴種であったか」


「ああ、えーっと・・・平民?にあたると思う」


「それにしちゃ背筋も伸びてるし・・・股を閉じたこの脚の崩し方にも淑やかさを感じるぜ」


めっちゃ脚撫でてくる善田さんゼンダウォルフ


キワいとこでソッと手を叩くと、引いてくれた。


うーん、名残惜しい。


「そちら・・・サカり合うならばワシはモンケラスの背にゆくぞ」


色ボケした笑みを(当人同士はキラキラに感じるが傍目デレデレのアレ)交わし合うあたしらに呆れたのか、てんっ、とソファを飛び降りて揺れるキャビンからドアに手を掛けるラシィちゃんを必死に留めるあたしと善田さんゼンダウォルフ


「御平らに!どうか御平らに!」


伏して席へとお戻り願い、話は続く。


「あの、この国でもあるかわかんないけど、ヘーミンだってノーミンだって自分の名前の跡に父親の名前を続けたりすんじゃない?ミハイル・ガリアノフスキーとか・・・ソレと同じようなもんですよ、たぶん」


ロシアのミカエル様呼び名てどー発音すんだろ。


ミカエルつえばダンナのぱそこん()の懐ゲで女キャラが当てられてたっけ・・・懐かしすぎる!


「ああ、リールの子マナナンとかだな。なるほど」


「では武の心得はどうなのじゃ。オークにゴブリンどもを独りで平らげたのであろう。尋常なものではない・・・ウォルフ、どうなのじゃ」


「死体はどれも奇麗でしたな。ゴブリンの三匹は細剣の一突きで果てておりました。一匹は息が合ったようですが・・・オークは立ち上がった後、血を吹いて倒れ、その際にも油断なく、私が近づいても剣の構えを続けておりました」


腕を組みあたしに向く。


「正直、計れませぬ」


あたしはおもっくそ首を振って否定する。


「ちょっ、無いですよ武(?)なんて!スポーツで細剣と竹の長剣を振ってたくらいで、殺し合いなんて全然全くナンの心得もありませんて!」


「無い者がああも見事に倒せるものではないぞ。オークなぞ我らが二人で掛かってもどうか、というところだ」


「いやいや善田さんゼンダウォルフ、わかるでしょ?女だからですよ!ほら、おっ・・・男のヒトって女と見ると、初手はそれなりに加減したり、体力まかせで圧倒しようとするでしょ?だから一本目はけっこうとれちゃうんですよ男子相手でも」


舐め腐りヤツは二本目も力押しでくるからけっこういなせたりすんだよな~・・・ああ、若き日の自由よ・・・て今若さ永遠ずっと”オレのターン!”状態じゃんやったね!


「ふ、一本目でとられたらソレで終わりだ。・・・だが、スポーツといったか?試合のようなものか、殺し合いの経験は無いのだな。納得だ」


「無いです、マジ殺しとかカンベンしてください」


イヤイヤと首を振る。


ラシィちゃんがあたしを見上げ(座高的に)、おごそかにのたまった。


「ナイコ。そちはおそらくブレイバー・・・勇者であるぞ。最早殺せないではすまぬ」


「えええええ!!!!!・・・あ、殺すかわりに生むのはどうですか?いちおあたしのせいで死んだ三人の名前も憶えてるし、たくさん生みますよあたしわ!」


なんだっけ、アレクと太郎とカルボナーラ?


「ふむ、孕むヒマがあるとはおもえぬが・・・そこらは好きにせよ、としか言えぬな。ウォルフよ、あとは任せたぞ」


「は。当家はよい知遇を得ました。改めて勇者殿・・・ナイコよ、我が主と会い誼を通じてはくれぬか」


えーと、なんて返せばいーんだっけ。


「畏れ多くもその儀、謹んでお受けいたします」


善田さんゼンダウォルフの頷きに微笑みを返す。



これはひょっとしてごはんだけじゃなくてヤサまでゲットしちゃった感じ?

仕官とかそーゆーアレなのかしら。


吹きさらしの原野で子供産むとか絶対死ぬだろうしな・・・世俗の権威最高!






日が落ちたらしく、馬車を降り焚き木を囲む・・・わけもなく建てられた天幕へと入る。

中では炭が焚かれ、ほのかに暖かい。

組み立てられた簡易な寝椅子に厚く敷かれた毛皮の上で、スープや黒くて重い餅みたいなパンを食べる。


「なんか後ろめたいわぁ・・・善田さんゼンダウォルフもずっと外なんでしょ?」


「なんじゃ、当然であろ。ここに居てどう守ろうというのじゃ」


「うーん、そうよねえ」


つまらん・・・処女捨てとくチャンスだったのにあーあ。


「領都までもう兵は減らしたくない。お主は外に出せんのう」


そうだった・・・


「その節は大変なご迷惑を・・・申し訳ない」


ラシィちゃんはあたしを一瞥すると、食器を下げさせ(給仕の人達てマジでロボットみたい・・・つか何処にいたんだろう)寝椅子へ転がる。


「ブレイバー達はみな奥ゆかしくも心底を見せぬ。まことに不気味なものよ」


「え?達、て・・・あたしだけじゃないの?」


「前の世の記憶を持ち生まれる者の内、顕かな権能を持ちし者らをブレイバーという」


「生まれる・・・やっぱフツーのご家庭に生まれちゃうの?」


「ま、大抵はそうよな」


天使ィイイイイ!!!!!なんじゃ公爵令嬢でもよかったんじゃねーか!死ね!!


「あたしはなんか天使っぽい奴に生命の乗っ取りがどーのとか言われてこの姿でポン出しされたんだけど~」


「それは教会の策略よな。そのような言い掛かりでブレイバー達を次々と処分しておる・・・しかしその方、神界より降りおったのか」


「神界なのかなあ。アタシのこの姿に羽が生えた姿の天使がいてさ~」


「そなた、天界の第七使徒であるというか。その話はせんほうがよいぞ」


「まぁ使徒っちゃそーなんかなぁ・・・なぁに?そういう伝説ぽいのがあんの?」


「やつら教会の者どもの終末予言よ。天使の似姿で降り立ち使徒が悪に染まりし世を滅びの雷で焼き尽くすであろう、などとな」


「ああ・・・ゴッドサンダー的な」


悪魔だとデビルファイヤーなんだっけ。





え?あたして大迷惑枠の存在なの??

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