第7話 夢と現実

闇の中、あられもない恰好で縛り上げられたあたしを稲妻のように鋭利な痛みがズタズタに切り裂く。

赤く腫れあがったムチの跡には灼熱の蛇が這いまわり、この身を激痛で焼き焦がす。


口から迸る苦悶と絶叫を、打ち据えるような男の怒号が消し飛ばす。


何事かを詰問しながら凶器を繰り出す白く美しい男。


理不尽な暴力へ哀れにも許しを求めるあたしを酷薄に笑み、男は凶悪な鋲がびっしりと打たれた太い鉄の棒を目前に掲げる。


直後にこの身を二つへ切り裂くであろう激痛の予感に絶句し身を震わせるあたしを、赤い瞳が―――――



「おい、起きろ」


「グフッw。ぐふふwww・・・ふぎゃ」


固い板へ顔を打ち付けられ、目が覚める。


「いったぁ~・・・え?板打ちなの?棒は??」


寝ぼけまなこで周囲を探ると、狭くて暗い室内。

揺れてる。

小さい窓にはレースのカーテンで閉じられ、白く輝いている。

その明かりに照らされて、目前のフカフカのソファにこっくりこっくりと船をこぐ女の子・・・ラシィとか言ったっけ・・・が座っている。

あたしの隣には善田さんゼンダウォルフ

おしりは柔らかくも固い芯の感じられる物体にボコンボコンと殴打され・・・


あ、馬車ん中か。

壁にカオぶつけて目が覚めたっぽい。


目を擦りながら事の次第を・・・え?拘束もされてないの?


「あの、白いイケメンと棒は?」


「いけめ・・・ああ、顔の良い男という意味か。ん?あの男がか?」


「あ、ひょっとしてまた禁忌とかに触れちゃった?」


「いや、それは無いが・・・こちらではヒゲの薄い男は良くは見られないのでな」


「そうなんだー。あたしらの間だとあんたくらい雑に剃り残した感じが一番モテるんだよね」


「そりゃいいことを聞いたな。期待していいのか?」


目で笑いながら片口端を上げる。

期待されているものが分かる顔だ。


「あっ・・・その、やぶさかじゃないんだけど。・・・まだ未経験なのよね」


まぁ新品なのは体だけなんだけど。


「ほう、意外だな。流儀は心得ているさ、気が向いたら―――――」


「ワラワを捨て於いて、なんのハナシをしておるのじゃ」


目をこすりながら女の子が不満をのたまう。


寝てたんじゃん・・・


「その、一体どーなってるの?」


次第を問う。


「お主、娼婦なのであろ?」


「えっ」


「ウォルフの言上からそちの身元の推測でかなり混乱しての。娼婦は教義において人とは認められぬからの・・・加護も罰も及ばぬのよ」


ウォルフてダレ・・・あ、善田さんゼンダウォルフか。


「違ったのか?処女の身だとは思わぬかったが。まぁソレで今は通っている」


ラシィちゃんの説明を善田さんゼンダウォルフが肯定する。


「なんで娼婦・・・あ、思い当たったわ」


股開いて食いもんゲットとか言っちゃったから・・・


「あの、あなたたちの法を犯したのなら、刑に服することに否やはないのだけれど」


未練がましく脳の片隅で赤い瞳の男と棒がチラチラとフラッシュバックしている。


「むう、しかしソチにはわらわとモンケラスを救った功があるからのう・・・我が家が僧会に借りをつくることになるやもしれん」


ああ、領主とは別の権力があんのか。


「なんだ、アイツが気に入ったのか?だが、恐らくムダだぞ」


善田さんゼンダウォルフに看破されてしまった。


「えー!なんで?あたしってけっこうイイ見た目してんでしょ?」


善田さんゼンダウォルフも美しいとか言ってくれてたじゃん。

善田さんゼンダウォルフも。


「そちは昏倒してから、ひどく淫らな鳴き声を上げていたからな・・・」


げえ!!!!!!


「僧籍の奴らはケガレ・・・淫蕩を嫌う。詮議の間もなく頭を割られるぞ」


なんという恋の終わりか。


「はぁ~~~、セツねえ・・・・・」


ため息を排気し、ヒラヒラと窓に揺れるレースをめくりはたいて外を覗う。


少し離れたところを馬で並走している赤い瞳と目が合い、胸(胃?)がときゅん☆と跳ねた。

白のキミは顔の半分を嫌悪にゆがめ、あたしから視線を削がす。


「胸がいたひ・・・て、それはともかくさぁ」


「なんだ?」


窓の外を小走りに馬車に追従する男たちに目をやりながら問う。


「あたし乗ってていいの?」


ラシィちゃんがため息を付き、言った。


「あの後気を失ったお前とまぐわおうと、男たちで争いが起こってのう・・・」


「ああ、殺し合い寸前まで猛り上がって収集が付かず、三人ほど切り捨てることになった」


えええええ!!!!!!!


「ちょっ、えぇ?!男三人とあたして釣り合うのぉ?!。。。じゃない、その・・・あたしを殺すべきだったんじゃないの?」


あたしが原因なんじゃん、めたくそ後ろめたい・・・


「ン・・・戦力的にも、妥当な判断だったし姫殿下も許されておる。気にすんな」


「そちが只の娼婦ならそのようにした。が、オーク達の半数をそちが倒したのであろ?糧秣の消費も下がる故、利はむしろ大きい。遠慮は不要ぞ」


娼婦ならそうした!なんつー世界だ・・・

うーん、でもお小さいのに旅路のこととか考えてんだ。立派だなあ。


善田さんゼンダウォルフに向く。


「三人の名前、教えてくれる?」


せめて、子供産んだらつけたげよう・・・

どーせ出産も命がけなんだろうけど。。


「ヨハン、シゲキ、サントスだ」


・・・・・独、日、西・・・なんだこの出鱈目な命名法則。


「ありがとう善田さんゼンダウォルフ


「ゼンダサン・・・ああ、サンは敬称か」


「家ではなく名に付くとは珍しいの。エルフの流儀かえ?」


「あー、あたしエルフのカッコしてるけど違うのよ。別の世界からの転生者?なのよ」


「なんじゃと?!」



ん?めたくそびっくりして固まってしまった。

善田さんゼンダウォルフも。






照れるwww


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