第5話 馬車
緑色の肌、汚い布や草やらを巻き付け棒や槍やらを振るう小人達と、それを剣や斧を振り回して指揮する豚顔の凶悪にマッチョな亜人達。
対する馬車団(語彙・・・)は剣や鎧といった子供が好きなゲームぽい出で立ちの人間達。
潰された(生きてるぽい)ウマと馬車まで肉薄されてる状況を俯瞰した限り、挟撃を受けてそのまま押し込まれている・・・負けそう、な感じかな。
うーん、あたしてこんな知見あったのか。
いや、知識とかっつーより見たままじゃん?
じゃあ、負けそうなんだしココでこのまま終わるの待って、みんな去った後に残りモノを漁ろう。
なんてスカベンジャーな段取りを心に決めると、なぜか戦闘が停止し豚と人達の視線があたしに向いた。
は?
風の精霊たちが耳元できゃらきゃらと笑い吹き去ってゆく。
「えっ」
なんかめたくそ豚が近いとこに居る。
「ブギョアアアアア!!!!!!」
豚が一匹、豚っぽい怒号を挙げながら駆け寄ってくる。
「おい!女!逃げろ!」
「ひゃあああああ!!!!!!!!!」
馬車奴らからの声に言われるまでも無く必死に走る。
なんでいつの間にこんな近くに居んのよおおおおお風の所為か?!!!!!!!!!!!!!!
柔らかい土と草の不整地をもたくた走りながら振り向くと、豚と小鬼・・・なのか?・・・の半分くらいがこっちに走ってきてる。
「なんでぇえええ?!??!」
ひょっとして逃げろ、てあたしを囮にするため走らせたってコト?
やるじゃん!
あたしは叫んだ。
「死ねえぇええええ!!!!!!!!!!!!!!」
脳内で馬車団は悪の枢軸に決定した。
途端、コケた。
高速で流れながら迫る地面。
左手がぽん、と地面を流れにまかせ叩き、右腕が体を巻き込むように伸びて体が回転し、何事も無かったかのように走り続ける。
・・・なにが起こったの?!
右腕のヒジがなんかチクチクするので走りながら目をやると、擦りむいている。
前回り受け身、だっけ。
中学とか高校の体育で習った柔道の技だ。
いやー若返ると危機に際してスッ・・・とワザとか出てくるもんなのねえ。
感心しつつ、脚が止まる。
右腕の僅かな傷の痛みがイライラに変わっていく。
なんでブタごとき(いや、強いでしょ・・・)から逃げなきゃなんないのよ!
気分に任せ振り向き、腰の細剣を抜き放つと、めたくそに凶悪なブタの顔面が迫っていた。
「ひっ・・・!」
ヒザがかくん、と落ち、右手の剣を突き上げながらブタのタックルを躱・・・した!
え、スゴい!凄いじゃんあたし!
と自分を褒める間に小鬼・・・つってもあたしよかちょっと背が低い程度の怪物だょ・・・がヨダレを振りまきながら棒を振りかぶり襲い来る。
引き足で目を突き、横に逃げながら巻き込みの要領で深く貫通した剣を引き抜く。
ひー、刺しても一本!試合終了!てならないのひどいよ!!
そのままコケそうになりながらも軟土のヒドイ足場、ドタバタした泥臭い足運びで三匹を同じように処理する。
連携も何もなく、ただ怒号と膂力で圧倒しようという・・・青臭くも懐かしい女と舐め腐った男子部の動きだったから楽だった。
いつのまにか自分の身の回りには静けさが戻っている。
野に倒れ伏した五つの異形達。
静寂の中動く敵がいないか緊張を続ける意識を不思議に思いながら、突然納得する。
「ああ、コレが残心てヤツかぁ」
子供の時はわかんなかったな~・・・と、剣道で一本取ってヒャッハーしたら審判に叩かれてそのまま負けになった理不尽な試合を思い出す。
あ、昇段審査だっけ。
つーかあのデカい豚人間あんだけで死んだのか・・・フェンシングのノリだったらアの距離なら面から首を突いた感じだから死んでてもおかしくないけど、そもそもこんなハエ叩きみたいな細剣じゃ本物のブタすら殺せる気がしないのよね・・・。
足元から石を探し、ブタに投げる。
当たらず、伏せた頭の横に落ちた。
瞬間、ブタが絶叫諸共に立ち上がり・・・なんらかの液体を吹き出して倒れた。
こっ、怖い・・・
続けていつのまにか迫ってくる金音に剣を向けると、馬車のまわりで戦ってた奴が一人、走り寄ってきた。
「無事か!いや、よくやってくれた」
囮にしといて臆面もなくよう言うたわ!と憤りながらも、安堵するような声音とその表情に気持ちを落ち着ける。
「・・・まだ死んだかどうか確認してないわよ」
男の右手に光る手槍が怖い。
「ああ、それは任せろ」
言いながら男はプスプスと倒れた小鬼たちになんの躊躇や警戒も無く手槍を突き込んでゆく。
殆んど死んでいたが一匹だけビクリと震えたのがいた。
「囮を買ってくれて助かった。巡礼の女と思い味の悪い思いをしていたが」
男はあたしを向き、笑う。
「こんなに美しいエルフだったとは、な」
どっきーん。
彫りが深くも甘いマスクの笑顔と称賛。
めっちゃハートに来る!!!!!!!!!
「ひょっとして、すでに獲物とでも思われてるのかしら」
照れ隠しで無駄にクールぶってしまった・・・いちお恋の獲物的なイミで言ったけど発声を耳にするとやっぱエルフて奴隷的な需要も高そうだし、と自分の声ながらそういうニュアンスに聞こえてしまい警戒感が爆上してゆく。
切っ先を下げつつも退きながら、視界の端で揺れる髪がクセっ毛のブルネットから象牙色の直毛になっているのを確認する。
うーん、変身てなんで解けてしまうんだろう。
魔法かな?
「フフ、仲良くはなりたいが勘違いもされたくはない。囮にした礼は受けて欲しいが、むろん拘束もしない・・・どうだ」
「そうね・・・」
キュイィィ~~~、と。
お腹が鳴ってしまった・・・
男は目を反らし、なにも聞こえなかったようにコトバを続ける。
「潰れた馬を処理しなきゃならん。よければ協力してくれ」
ん?・・・あ、恥じらいポイントじゃん!
腹筋を締め限界まで腹圧をあげ、吸い込んだ息を横隔膜で更に圧し上半身の血流を顔面に押し上げる!
「あっ、ありがと」
男はやわらかく笑みながら視線を戻す。
「いや、囮の礼は別にさせてもらうよ」
あたしも照れつ内気な少女っぽい感じで言葉を繋ぐ。
「うれしい。しょーじきパン恵んでもらうために股でも開こっか、なんて思ってたんだ」
「・・・え?」
はぁあああああああああああああああああああああああ!!内気な少女!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
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